#2
その指先から伸びる悪意は新生児の
羽毛はシーツと下着を、
幼少期から十八まで、そして今再び向かっているアンティークの天板には――小学校三年に上がる頃、実日子は学習机を欲しがらず、レストラン「つばくらめ」を閉める事になった祖父に、店で一番素敵なテーブルをねだった。祖父はこれを大変喜んだ――至る所に三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の痕跡がみられた。彼女はその部屋で、この机で、あの本棚を使って、二億三〇〇〇万年前から六六〇〇万年前までを過ごしたのだ。透明ビニル層を剥がし微かな
いつかの夕暮れ時、巣に帰ってゆく
実日子は、彼女にとっての孵化とは何を意味するのか考えることもなく卵を温めた。そして見事にそれはかえったのだった。彼女は金沢大学院古生物研究室の博士課程に入っていた。
彼女がコンピュータの画面とにらめっこしていると、後ろから焼き目の付いた肉の匂いがして、表でバーべキューをやっている連中の誰かが分け前を運んできたのだろうと思った。振り向くと、パダワン時代のオビワン・ケノービに見えなくもない
「腹減っただろ。ビールはいる?」
実日子は横より縦の長いハンバーガーを見てこれはプロの仕業だと思った。それに素人の仕業でもあるはずだった。バーベキューにこれほどの挽肉を持ち込むなんて。とにかく、初対面の
「資料に不備がないか、もうちょっと検討したいの」
「ルーナにならそんなに形式張らなくて大丈夫さ、友達に会うと思えばいい。向こうもそれを望んでるさ」
「それはそうかも知れないけど、これは同志として重要なものだから」
化石爬虫類信者にとって事実それは職務以上の意義があった。つまりは福音書の
二◯一◯年代まで恐竜類はその骨盤により二つの枝、
教会は
吉報は一人の内通者から実日子元へともたらされた。これが一年前。
伴大とハロウェイ博士が既知の関係にあると分かったのが二年前。
「できるだけ早く降りてきてくれ、君のお父さんが盛るもんだから
彼女の頭の中に、他のエージェントと古生物の情報を取引する幼いころの自分の姿が現れた。あれから十数年、新入りは何時でも何処にでもいるのだ。
「わかった。後、十五分で切り上げる」
「そう? じゃ、理沙ちゃんに伝えておくから」
伴大は部屋を出ていこうとした。実日子は彼のランニングシャツ越しの背中を見て、その不意打ちな
「あのね、トモ君」
「何、どうした?」彼は実日子の目を見ようとした。
彼女はというと、どうも熱心になりきれない爪の手入れが今さら気になり出したかの様な恰好で、どこか他人事みたいに言った
「あの後でね、その、やっぱり赤ちゃんが――」
伴大は面食らった。自然、筋肉に無意識の号令がかかりエタノール由来のふざけきった羊達が追い立てられてゆく。
「まさか、今まで、そんな事――」
「本当よ。ほら」
マウスとキーボードから放たれた音とカーペットを擦るキャスターの転回は予め譜面に記されていたかの如く滑らかで、その隙間のなさが脚本の良く練られた医療ドラマのワンシーンを想起させた。ワーキングチェアの上の女優の所作からは自身への祝福を隠しておこうという意識が、その
……続く……
Distorted【お試し版】 タチ・ストローベリ @tachistrawbury
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