第28話 クイズおじさんに気を付けろ!

 動画の内容を、今まで経験した職業のエピソードから悩み相談に変えて早一ヶ月。五十嵐の動画はバズりにバズり、ついにチャンネル登録者が百万人に達しようとしていた。


(あと少しで登録者が百万人に到達する。次の動画で一気に決めよう)


 五十嵐はいつも以上に目を凝らしながら、【Y】のコメント欄をチェックしていた。

 すると、嫁姑問題や会社の人間関係等の定番の悩みが続く中で、あるコメントが彼の目に留まった。


『私は40歳のタクシー運転手です。先日、50歳くらいの男性を乗せて走ってると、その男性がいきなり「今からクイズ勝負をしよう。もし運転手さんが勝ったら、チップをやる。その代わりわしが勝ったら、メーターの料金から一割引くという条件でどうじゃ?」と言ってきたので、どうしようかと迷っていたら、「じゃあ今から問題を出す。三択問題じゃ。わしが今から三つの職業を言うから、その中からわしの職業を当ててくれ。一番、大学教授。二番、八百屋の店長。三番、漁師」と、有無を言わせず出題してきました。もうこれは答えるしかないと腹を決めた私は、まずは一番を消しました。その理由は、話の内容や喋り方がとても大学教授とは思えなかったからです。その後ふとルームミラー越しに男性の顔を見ると、かなり日焼けしてたので、これは漁師に間違いないと思って「答えは三番です」と自信満々に答えました。そしたら男性が「ブー! 正解は二番の八百屋の店長でした」と言ったので、私は半信半疑のまま「じゃあ、なんで日焼けしてるんですか?」と訊きました。そしたら「これは日焼けサロンで焼いたんじゃ。はははっ!」と笑いながら返され、その瞬間、私は心の中で(やられた!)と叫びました。男性は最初から私を陥れるためにクイズ勝負を挑んできたんです。勝負に負けた私は、メーターの料金から一割引かざるを得ませんでした。この男性は恐らく、タクシーに乗る度にこのクイズ勝負を挑んで、料金を値切っているのでしょう。今後また私の車に乗ってくる可能性もあります。その時はどう対応すればいいでしょうか?」


(この客はとんでもなく悪知恵の働く奴だな。仮に相談者が二番を選択してたら、恐らく『正解は三番じゃ』と、答えてたんだろうな。こいつの職業なんて相談者には分かりっこないから、何とでも言えるしな。つまり、この勝負は最初から出来レースだったってことだ。ということは、このおじさんをやりこめるアドバイスをすれば、多くの視聴者から共感を得られそうだな。よし! この得意のタクシーネタで一気に百万突破だ!)


 ネタが決まると、五十嵐は早々に動画の撮影に取り掛かった。


「どーも、五十嵐幸助です。早いもので、この悩み相談を始めてから一ヶ月が経過した。その間、チャンネル登録者がぐんぐん増え、もう少しで百万人に達しようとしている。まあ、それもすべて、俺のしゃべりが秀逸だったことに尽きるんだけどな。はははっ! ……というわけで、今日の相談者はなんと40歳の現役タクシー運転手だ。前に何回かタクシーネタを披露した俺にとっては、まさにおあつらえ向きの相談者ってわけだな。で、彼の相談内容なんだけど、運転中にクイズを出してくるおじさん、通称クイズおじさんをどのように応対すればいいか悩んでるみたいなんだ」


 五十嵐はペットボトルのお茶を半分ほど飲むと、続きを喋り始めた。


「というか、このクイズおじさんというのは、俺が勝手に付けたんだけどな。まあ、それはいいとして、このおじさんがどんな問題を出したか、今から説明しよう。おじさんが出題したのは自分の職業を当てさせるもので、いわば職業当てクイズだな。答えは三択になってて、一番が大学教授、二番が八百屋の店長、三番が漁師。それまでのおじさんの喋り方や話の内容から、相談者は一番の大学教授は無いと判断し、答えを残りの二つに絞ったんだ。その時にふとルームミラー越しにおじさんの顔を見たら、かなり日焼けしてたらしくて、これは間違いないと思って答えは三番の漁師と彼は自信満々に答えたんだ。でも結局、正解は二番の八百屋の店長だったみたいで、そのことを疑問に思った相談者が『じゃあ、なんで日焼けしてるんですか?」と訊いたら、おじさんは『これは日焼けサロンで焼いたんじゃ。はははっ!』と、笑いながら返したそうだ」


 五十嵐は残りのお茶を飲み干すと、最後の締めに入った。


「その瞬間、相談者は『しまった』と思ったみたいだけど、もう後の祭りで、結局相談者は、メーターの料金から一割引いた金額を、おじさんから受け取ったそうだ。それにしても、このおじさんはとんだ策士だよな。仮に相談者が二番を選択してたら、『正解は三番じゃ』って言ったに違いないんだ。つまり完全な出来レースだったってわけさ。で、相談者は、もしこのおじさんがまた乗車してきて同じようにクイズを出題してきたら、どのような対応をすればいいか分からないって言ってるんだけど、その時は『今までこのクイズ勝負でタクシー代を相当浮かせてるみたいですけど、これはほぼ詐欺行為なので、いい加減にしとかないと訴えますよ』って言ってやればいいんだ。そしたら、さすがにおじさんもへこむと思うぜ。というわけで、今日はこれで終了する。じゃあな」


(とりあえず人事は尽くした。あとは天命を待つだけだな)


 五十嵐はスッキリとした表情で、タイトルを【クイズおじさんに気を付けろ!】とし、編集が終わると軽快な足取りでパチンコ店へ出掛けて行った。


 

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