第26話 新参者の逆襲

 日曜日の昼間、五十嵐は寝床で横になりながら、次の動画のネタを決めるべく、【Y】に寄せられているコメントをチェックしていた。


(うーん。どれも今一つだな……まあ、それも仕方ないか。万人の興味を引くネタなんて、そうそうあるものじゃないし)


 そんなことを考えながら、そのまま目を通していると、あるコメントが五十嵐の目に留まった。


『私は70歳無職の男性です。この前、知人に誘われて町内のグラウンドゴルフ会員になったのですが、会員の中に自分の成績がいいことを自慢して、やたらと他の会員にマウントを取る人や、自分が勝つために他の人のプレーをジャマする人がいます。私は元警察官ということもあって、こういう人たちが人一倍許せないのですが、新参者ということもあり未だに注意できないでいます。みんなが気持ちよくプレーするためには、この人たちを改心させなければいけないのですが、私は一体どうすればいいでしょうか?』


(相談者は高齢だが、この内容からすると、若者にも興味を持たれそうだな。よし! 今回はこれでいくか)


 ネタが決まると、五十嵐は寝床から飛び起き、コメントのシミュレーションをし始めた。


(マウントを取ってくるような奴に、『そんなことをするのはやめろ』と言っても、簡単には聞かなそうだな。となると……うん。じゃあ、これでいこう。次に、他人のプレーをジャマする奴だが……こいつは正攻法でいった方がいいな)


 やがて考えがまとまると、五十嵐はスマホを三脚にセットし、動画の撮影を始めた。


「どーも、五十嵐幸助です。今、寝起きなんで、顔が少しむくんでるけど、あまり気にしないでくれ。……えっ、顔が元通りになってから出直せだって? まあ俺が二十代だったら、そうしたかもしれないけど、46のおっさんがそんなこと気にしてても仕方ないだろ? ……えっ、多くの者が観てるんだから、もう少し身だしなみに気を遣えだって? まあ、普通の者ならそうするんだろうけど、俺は普通じゃないからな。かといって、別に異常ってわけじゃないから勘違いするなよな。はははっ! 」


 五十嵐は冒頭の挨拶を軽快に済ませると、さっそく本題に入った。


「さて、つかみが決まったところで、本題に入るとするか。今回の相談者は70歳の男性で、今までの中で一番高齢なんだよな。で、その男性は最近、町内のグラウンドゴルフ会員になったらしいんだけど、会員の中に自分の成績がいいことを自慢して他の会員にマウントを取る奴や、自分が勝ちたいが故に他の人のプレーをジャマする奴がいて、そいつらに注意したいんだけど、新参者だからなかなかそこまではできないというのが悩みらしい」


 五十嵐はペットボトルのお茶を半分ほど飲んだ後、続きを喋り始めた。


「男性は元警察官で人一倍正義感があるから、そういう人間が許せないんだろうけど、俺みたいなちゃらんぽらんな人間は、そんな奴がいても別に気にならないけどな。って、誰がちゃらんぽらんやねん! ……えー、ひとまず、話を元に戻そう。

まず、マウントを取って来る奴に対してだけど、そいつは成績がいいから他の会員にマウントを取るわけだから、そいつの成績を上回れば、もうそんなことはしないと思う。だから、相談者はこれから猛練習して、そいつを負かしてやればいいんだ」


 五十嵐はお茶を一気に飲み干し、最後の締めに入った。


「次に他人のプレーをジャマする奴に対してだけど、そもそも、こういう奴が野放しになってるのが不思議だよな。このような、人を攻撃することに快感を得ている奴は、自分が攻撃されると案外もろいもんだ。だから新参者とか気にせず、ガンガン言ってやればいいんだよ。もしそれで相手が反撃してきたら、これはみんなの総意だと言えば、相手も納得すると思う。とまあ、俺の意見はここまでだけど、これを採用するかどうかは相談者の勝手だ。というわけで、今日はこれで終了する。じゃあな」


 五十嵐は終了ボタンを押すと、すぐに編集作業に取り掛かった。


(よくよく考えると、相談者は俺よりはるかに年上なのに、こんなに上からものを言ってよかったのか……まあ、いいか。相談者が誰であろうとスタイルを変えないのが、俺流だからな。逆に、相談者によって態度をコロコロ変えてたら、視聴者が混乱するだろうしな)


 やがて編集を終えると、五十嵐【新参者の逆襲】というタイトルの動画を投稿し、そのままパチンコ店に出掛けて行った。






 夕方、買い物袋をぶら下げながら帰宅した五十嵐は、スーパーで買った唐揚げ弁当を食べながら、動画のコメント欄に目を向けた。


『歳を取っても、そういういざこざがあるんですね』

『年長者に対して、そういう口の利き方は良くないと思います』

『五十嵐さんの歯切れのいいコメントにスカッとしました』 

『グラウンドゴルフって何ですか?』

『この二人はまさに老害ですね』

『他人のプレーをジャマするって(笑)』

『私もグラウンドゴルフをしていますが、会員の中に似たような人がいます』

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(なんか、今回はいろんな意見があるな。まあそれだけ、いろんな世代の人に観てもらってるってことか)


 五十嵐は新しい形式が徐々に浸透してきたことを肌で感じていた。


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