第006話 【大騒ぎの後始末と専用の武器!】

 前回同様、スキルによりアシッド・キューブを難なく倒した俺たち。

 約束通り急いで応援――救護の人間を呼ぶために外へと向かう。

 ……去り際にちょっとだけ『ポーションを出してやろうか?』なんて迷ったんだけどさ。

 何かを察したのか、明石に腕を掴まれ、ジッと目を見つめながら顔を横に振られた。


 一緒に連れて帰るほうが早いだろうって?

 いや、さすがにあれだけの怪我人を担架もなく、肩を支えて連れて帰るのは無理だわ。

 お前らが動かしたから状態が悪化した!とか、後で言い掛かりをつけられても困るしね?

 できるだけ急いで迷宮事務所に連絡する、それくらいしか出来ることは無いのだ。


 ダンジョンから出て、いつもの受付の人にその事を報告した後は……当然のように大騒ぎになった。

 何度も『ダンジョンに潜ることは自己責任』だと言われてるけど未成年、死亡記事が出るのは世間体がよろしくないからな。

 救助隊の編成、現場までの案内。


 迷宮事務所で有事の際に使用するために保管されている、虎の子の中級ポーションを使った治療により、二人とも命に別状は無かったものの……彼らの学校ではそれなりの大騒ぎになるだろう。

 奥に走っていったイカヅチ?洞窟狼に襲われていたところを同じ学校の生徒に助けられたらしい。


 ダンジョンから出てきた後は、『怪我人が出たのは通りがかった桜凛学園の生徒の対応が悪かったからだ!』などと喚き散らし、少しでも責任逃れをしたいそいつの担任教師がそれに乗っかり、こちらの学校にまでに苦情を入れてきたのだが……こっちにはティアラちゃん撮影の証拠動画があるからな?

 当事者のイカヅチと俺たち、そして両校の教師と六条さんも参加しての上映会をしたら、あまりのイカヅチの態度の悪さに向こうの連中の顔は真っ青、梅華高校は校長まで呼び出しての平謝り。


 担任と六条さんに処分はどうするかと聞かれたけど……別に、ねぇ?

 それでなくとも親戚(サナダムシ)と裁判沙汰になってるのに、これ以上揉め事に関わるのも面倒なだけだしさ。

 オッサンにも男子高校生にも特に興味は無いので学園と迷宮事務所に丸投げした。



 その後も動画に映っていたスキル――魔法の矢のことを六条さんに聞かれたり――まぁ迷宮一階層をウロウロしてるだけの学生が使うスキルの威力と数じゃなかったから仕方ないんだけど。

 とりあえず、あまりツッコまないでくださいって意味で『スライム王国の秘技です』と、答えておいたら『さもありなん……ですね』と、適当に合わせてくれたので問題はないだろう。

 

 てか、動画を一緒に見てた担任が『真紅璃くん、あれだけの大怪我をした人を直接見たのね……先生、そのショック、わかる』などと意味不明な事を言いながら抱きしめられたんだけど――たぶんショックを受けてるとしたら俺じゃなくて女性陣だと思うよ?

 だから俺には心のケアも体のケアも必要はないから安心してもらいたい。

 うん、担任の家でお泊り会とかしないんだ……どうしてこの人はそんな驚いた顔をしてるんだろうか?

 てか、六条さんの家でのお泊りもないので、そんな期待した顔をするのは止めてください。


 なんかこの二人、方向性は違うけど、行動が似てるような似てないような、


「ユウギリさん、さすがにその方と一緒にされるのはちょっと……」


「真紅璃くん、先生はまだその人ほど追い詰められてはないからね?」


 どうやら相性は悪いらしい。

 それからも妙齢の女性二人に挟まれてワイワイとした雰囲気での聞き取り調査という名のほとんど雑談が午前0時前まで続く。

 うん、接待されてるみたいで結構楽しいんだけど、肉体労働の後(ダンジョン帰り)なのでさすがに眠くなってきたよ……。



「ユウギリさん、迷宮事務所からの協力の依頼により、遅くまで付き合わせることになってしまい……申し訳ございません。

 後のことはこちらで処理させていただきますので、今日はもうお帰りいただいても大丈夫です」


「いえ、こちらこそ、厄介事を持ち込んたみたいで……六条さんに残業させる結果になってしまい申し訳ないです」


「私!私も頑張って残業してるよっ!褒めてっ!」


「担任、ちょっと煩いから黙ってて?

 そもそも担任を褒めるのは俺じゃなくて校長ですよね?

 ……あちらの話も綾香さんに任せっきりになっていますし。

 近いうちに一度、ちゃんとしたお礼をさせていただこうと思ってますので、楽しみにしててくださいね?」


「えっ?あっちの話って何?エッチな感じの隠語か何か?

 ちゃんとしたお礼って何?つまりちゃんとしてない感じのお礼はしたってこと?

 先生、そんな話全然知らないんだけど……」


「そんな、お礼だなんて。あなたのために尽くせることが私の幸せですので……。

 でも、せっかくのユウギリさんからのお誘いです、心より楽しみに待ってますね?

 ……今日は本当にお送りしなくても大丈夫でしょうか?」


「はい、夜のドライブは……また次回の楽しみに取っておきます」


「くっ、いつもの無邪気な学生の真紅璃くんも可愛いけど、ちょっと無理して背伸びした感じの今の真紅璃くんも悪くないわね!

 大丈夫です!彼の担任教師である私が!

 桐野藤子が責任を持って我が家にお持ち帰り……ではなく、真紅璃くんを自宅まで送りますので!」


「いや、普通にタクシーで帰りますけど?」


「どうしてよっ!?」


 だって、駐車場に乗り付けてきた担任の車……そこかしこにぶつけた跡があって、とても安全だとは思えないんだもの……。



 てことで自宅まで真っすぐ帰宅、そして気付く。『あ、そう言えば晩飯食ってねぇや……』と。

 思い出すまではそうでもないのに、気にしだすとすごく腹が減るこの現象。

 ウラシマ効果に対抗して『イノガシラ現象』と名付けたいんだけどどうだろうか?


 名前に数字のついてるコンビニでレトルトのビーフシチューとハンバーグを購入。

 弁当?サンドイッチ?このコンビニは金色のレトルト以外は全部ハズレなのだ!(暴論)

 そして部屋で飯を食いながらまた思い出す。『あ、そう言えば六条さんにドロップアイテム見せてねぇや……』と。


 今日のアシッド・スライム、魔石以外にも『金属塊』、つまり『ヒヒイロカネ』がドロップしたんだよ。

 そう、前回受付の人と六条さんが言ってた、『1g:50萬円』の!あの、ヒヒイロカネがっ!

 まぁ、魔石さえ出せば異世界商店でいくらでも買えるようになったから、そんなに特別感は無くんなっちゃっんだけどね?


 その重さおおよそ『3.5㎏』……卸値ですら十七億五千萬円だからな?

 もうこれ、そのまま早期リタイア、最近はFIREって言うんだっけ?

 いや、あれは稼いだお金で資産運用をしながらの生活だから少し意味合いが違うのか。


 そんな感じで、探索者としてのゴールラインを超えちゃったような気もするんだけど……俺の目標は誰に狙われても反撃できるだけの力を手に入れること。

 さすがに某影の組織のトップの様に、自分が核兵器になれるとは思っていないんだけどな。

 俺もあんな美人に囲まれてチヤホヤされたいだけの異世界生活だったよ……。


 ……苦しかっただけのあの頃の思い出はそれくらいにして。

 そう言えば、向こうでも一人だけ!仲良くしてくれた美人さんがいたんだよなぁ。

 魔神を倒すとかじゃなく、三年くらい掛けて自力で魔力を上げて、自分で転移魔法を使って元の世界に戻るという力技で早々に帰っちゃったけど。


 てか魔神を倒した勇者連中も『この日本』に飛ばされてるのかな?

 まぁ俺に関わって来なければどうでもいい話なんだけど……俺が言うのもなんだけど、あいつら、頭のおかしい連中だったからなぁ……。

 マジで関わりたくないから出会わない事を心から願っておこう。

 さて、話は戻ってヒヒイロカネである。


 これを売れば大きな家、いや、家どころかビルを建てる事も出来そうだけど……もちろん今回は売らない。

 ならどうするのか?もちろん、装備品に加工してもらうのである!

 今のところ不便はしてないけど、いつまでもレンタル装備じゃ心もとないじゃん?


 てことで、久しぶりに開いた(訪れた)お店は『鍛冶屋』。

 妙に親切なドヴォ・ルザーク親方の仕事場だな。


「お久しぶりです、親方!」


『ん?おお!おめぇはあの時の若ぇのか!

 しばらく顔を見せなかったが、元気にしてたか?』


「はい、おかげさまで……って言うのもへんですけどなんとかかんとか?

 今日はインゴットを手に入れたんで持ち込みしました!

 それで、また親方に色々と教えてもらいたいなと」


『ははっ、そうか!商売(しょうべぇ)が順調そうで何よりだな!

 持ち込んだ金属塊ってのは……おっ、ヒヒイロカネか!』


「はい!そうなんですけど……これって装備品を作るとしたら何に向いてるんですかね?」


『そうだな、まず有名なところだと……鍋と風呂釜?』


「鍋?……って、あの煮炊きする鍋ですか?」


『ああ、その鍋だ。むしろソレ以外の鍋なんてねぇよ!

 そいつぁ熱を伝えるだけじゃなく増幅する力まであるんでな。

 だから鍋釜にすれば葉っぱ数枚で煮炊きが出来るし、風呂釜にすりゃ薪が数本もありゃ風呂が沸かせるんだよ!』


 いや、何十億もする異世界金属を使って風呂釜て……。


「そ、それはなんとも……てことは武器にも防具にも向いていないと?」


『いや、そんなことはないぞ?

 熱効率がいいだけじゃなく、魔法力の増幅効果もあるからな!

 あれだ、もしも魔剣士になりたいなら一本は用意しておきたい剣だな!

 もちろん武器じゃなく魔法の発動体としても優秀だから、指輪や短杖、ナイフなんかに加工して持ち歩くのもオススメ出来るぞ?』


「な、なるほど……鍋にしか使えないとなったらどうしようかと思いましたよ……」


『ははっ!ついでに錬金術師なり、付与術師なりに『魔法攻撃力向上』なんかのエンチャントをしてもらっておけば『魔法の威力』がさらに上がるから覚えておくといい!』


「錬金術師と付与術師……残念なことに、まだ両方とも知り合いには居ないです……でも、そんな効能があるなら鎧に使うにはあんまり向いて無さそうですね?」


『そうだな!ヒヒイロカネの鎧なんて着込んで焚き火にでもあたった日にゃ、蒸し焼きどころか消し炭になっちまわなぁ!』


 何それ怖い……それ、そんな楽しそうに言うことじゃないからね!?


「ちなみにその量だと剣って作れますかね?」


『うーん……そうだな、片手剣ならギリギリ三本、両手剣なら二本……はキツイかもな?

 ああ、もちろん合金にするならもっと大量に打てるが、どうせなら無垢がいいんだろ?』


「もちろん!せっかく打ってもらうんですし、一本目は素材を生かした感じで拵えてもらいたいですね!」


 てことでお願いしたのは、入学から半年も使っていた『細剣(レイピア)』と魔法の発動体も兼ねた『波打った短剣(クリス)』。

 魔法スキルを使うのに発動体とか特に必要ないんだけどさ、なんかほら、うねうねしたナイフ……カッコいいじゃん?

 材料持ち込みとあって、お値段もレイピアが魔石三千個、クリスが魔石千個と破格のお値打ち価格である。


『確かに注文承ったぜ!完成したらおめぇの『隊商』に商品と余ったヒヒイロカネを預けておくから、ちょいと待っててくれよな!』


「わかりました!また、インゴットが手に入ったらお願いすると思いますのでよろしくです!」


 ふふっ、特別な効果の乗った自分専用の装備品……とっても楽しみだな!

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