短絡的悪役令嬢、騎士団長からの溺愛で幸せになります
百度ここ愛
第1話 プロポーズの衝撃で前世を思い出す
私の前で跪き花束を差し出す男性に、素っ頓狂な声をあげる。
「えっ!?」
騎士団の衣装をまとったお兄ちゃん、正確にはルイヴィスさんは、私を見つめて花束を差し出したまま固まっていた。
本当だったら、ロマンチックな雰囲気になるはずなのに、私はそれどころじゃない。だって、プロポーズの衝撃で、前世のことを思い出してしまったんだもの。
生前は、日本でOLとして働いて家に仕送りをしていた。私の家族は、引きこもりの姉に、高齢の両親。私が先に死んでしまったことで、家族は苦労してないだろうか。
そんな不安が真っ先に過ぎる。会社の人たちに頼まれたあの資料だって、終わらせられないまま死んでしまった。人に迷惑を掛かることだけは、したくなかったのに……
ぎりっと歯を噛んだら、現状を思い出した。
長く沈黙してしまっていたらしい。不安そうな表情でルイヴィスさんは、私を見上げている。垂れたような犬の耳が見えるのは錯覚なのはわかっていても、不安そうな顔をさせてしまったという事実が私の胸に迫ってくる。
受け入れない理由はない。それでも、すぐに頷くことはできない。婚約は家と家同士のことだ。
「受け入れてくれないか?」
慌てて家族の様子を確認すれば、お母様は手を合わせて不安そうにしてるし、お兄ちゃんは頷けと自分が大きく何回も頷いてアピールしているし、お父様は心配そうに私の反応を待っている。
家族もみんな了承済みの話なのだろう。家族がそれがいいと言うなら、私はそれでいい。ルイヴィスさんのことも、お兄ちゃんとしてしか見てなかったけど、嫌いではない。
「もちろんです、ルイヴィスさん」
「よかった!」
私の言葉を長く待っていたからか、ルイヴィスさんの花束を受け取れば、花束ごと力強く抱きしめられる。花のいい香りと、ルイヴィスさんのあたたかい匂いに、くらっとした。
あまりにも嬉しそうな顔で、私を抱きしめたままくるくると回す。みんなが幸せになれる正しい答えを選べたことに、安堵しながらそっと背中に腕を回した。
記憶の中のルイヴィスさんはいつだって私のことを気にかけてくれていた。ベルネーゼである私と、前世の私が少しだけ乖離してるけど……そんなことも気にせず受け入れてくれるおおらかな人だ。
この婚約は正解だと、この時は思い込んでいた。どんなことが起こるかも、知らないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます