マインドブレスレット ~正義の代償~ 転生した元クズ女がいじめや裏切りで魔物に堕ちた人達を救うべく戦い続ける
panpan
第1話 スレン パークス
人の心が集まって生まれた世界・・・・・・【心界(しんかい)】
ここには人間や動物だけでなくエルフや妖精、ドワーフと言った異種族も暮らしているファンタジーな世界。
心界には3つの大陸が存在している。
”心の大陸”、”光の大陸”、”闇の大陸・・・・・・それぞれの大陸には大小含めて多くの国や町があり、人間達は平和に暮らしている。
かつては魔法という力が文明を支えていたが、力の源である魔素(まそ)が”とある原因”で失われ、人間達は魔法を失ってしまった。
魔法の代わりとして人間達は心石(しんせき)と呼ばれる魔石の一種をエネルギー源として利用し、機械の力を用いてその後の文明を発展させ続けた。
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さて、物語の舞台である光の大陸。
その片隅に位置する小国【バルーン】。
そこは貧困の差が激しい金が物言う世界。
金を持つ人間には自由と幸福が与えられ・・・・・・金を持たない者には労働と苦痛を強いたげられる。
金というはっきりとした力の象徴が存在する世界では必然と生まれてくる闇の世界・・・・・・その最たる例がこの諸国である。
欲望渦巻くバルーンでは、金と時間をもて余した貴族や金持ち達が溢れ出る欲望を発散させるために夜の町へと出向き・・・・・・そんな連中をカモとして金を吸い付くす亡者達。
薄汚れた光に包まれた町で繰り広げられる金と快楽の横行・・・・・・それが最も入り乱れている場が娼館、【マムシ】である。
「おぉぉぉ・・・・・・いいぞ、姉ちゃん! もっと腰触れや!!」
「もっともっと感じてぇぇぇ!!」
女に飢えた野獣達から快楽と引き換えに金をむさぼる娼婦達。
ある者は金ほしさに・・・・・・ある者は快楽ほしさに・・・・・・ある者は金と引き換えにその身を堕とし・・・・・・己の身1つで夜を過ごしている。
そんな娼婦達のトップに立つ女・・・・・・その名はスレン パークス。
年齢は19歳。
サラサラした茶髪に整った顔・・・・・・抜群のスタイルとテクニックで望みもしない娼館のトップにまでなっていた。
かつては佐山香帆(さやまかほ)と言う女として生きていたが、”とある理由”で自ら命を絶った。
だが彼女は再び命を得て、スレンとしてこの世界に転生した。
そんなスレンがどうしてこのような場所にいるか?
順を追って説明する。
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スレンは小さな田舎村で生まれた。
父は農作業を営み・・・・・・母は子育てと家事全般を受け持つ専業主婦の立場。
貧しい家庭環境ではあったが、それでも彼らは幸せに暮らしていた。
※※※
家族の食卓・・・・・・。
『スレン、うまいか? この大根、父さんが育てたんだぞ?』
『うん・・・・・・おいしい』
『そうだろうそうだろう・・・・・・なんたって俺が愛情を混めて育てたんだからな!』
『あなた・・・・・・嬉しいのはわかりますが私が心を込めて作った料理が冷めないうちに食べてください』
『おぉ! それはそうだな! たっぷりと母さんの飯を堪能するか! スレンもたくさん食べていいんだからな?』
『わっわかった』
※※※
母に髪の手入れをされる。
『スレンの髪はとってもきれいね・・・・・・』
『そうかな?』
『そうよ? きれいだし・・・・・・とってもサラサラしていて気持ちが良いわ』
『そうなんだ』
『もちろん髪だけじゃないわ……スレンの目は宝石みたいだし……顔は天使のように愛おしいし……そして誰よりも優しい心を持っている』
『優しいって……なんでそんなことがわかるの?』
『わかるわよ……だってお母さんの子なんだから』
『……』
前世において家族に愛情を注がれなかったスレン……そんな彼女が始めて触れた家族の愛。
おぞましい過去の記憶を消し去りたいと死を強く望んでいたスレンの命を2人の愛が繋ぎ止めていた。
何気ない家族と過ごす時間……その1つ1つがスレンにとって新鮮なものだった。
「(このまま……2人の子供として生きていて……良いのかな?)」
スレンの心にほんの小さな光が灯った。
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「お願いします! もう少し……もう少しだけお待ちいただけないでしょうか!」
「ふざけるな! こっちはお前らに1000万クールも貸してやってさんざん待ってやったんだぞ?」
スレンが17歳の頃……家に突然ガラの悪い男達が土足で乗り込んできた。
彼らはざらに言う借金取りである。
借用者はスレンの父親だ。
実は2年前、スレン達の村に水害レベルの大雨が降り注ぎ・・・・・・村の農作物や家を全て飲み込んでしまったのだ。
村人達は遠くの村にすぐ避難したころで難を逃れることができたが、衣服や金品など最低限の物しか残らなかった。
村人達はホームレス同然の生活を送りながら、村の復興に全力を注いだ。
しかし……体力のある若者はまだしも、体の弱い老人や育ち盛りな子供達がそんな過酷な環境に耐えられる訳がない。
特に子供達にとって、空腹は命だけでなく今後の成長にも影響を及ぼす。
スレンの両親を含めた村の大人達は背に腹は代えられないと借金を決意した。
もちろん返金能力のない人間に金を貸す人間などまずいない。
だが例外もある。
それが裏の金貸し……言い換えれば闇金である。
それがどれほど恐ろしいことかは承知していた……だが子供の未来を危惧する大人達はそれに頼るしかなかった。
徐々に村の姿がもとに戻ろうとしている矢先……その反動が来てしまったのだ。
「そんな! 私たちが借りたのは200万クール……」
「お前利子って言葉を知らねぇのか!? そんなんで金を借りたとか舐めてんのか!?」
「800万の利子なんてめちゃくちゃだ!!」
法外な利子など闇金の常套手段ではあるが、貧困で世間から疎外されていたパークス夫婦はそういった常識が欠如していた。
「なんだと? それが金を貸してやった恩人に向かって言う言葉か!?」
「ゴフッ!!」
「あなたっ!!」
見せしめと言わんばかりに殴られるスレンの父親と駆け寄る母親。
農作業で得た屈強な体とはいえ、殴り合いなどしたことがないスレンの父親は力に屈服せざる負えない。
何よりも金という大きな恩恵を受けている以上、彼らに何も言う資格はない。
生きていくだけで精一杯などという定型文的な言い訳など、金に生きる者たちには通用しない。
「お願いします! どうかもう少し待ってください!!
お願いします!!」
「お願いします!!」
力も金もないパークス夫婦は涙ながらに懇願するほかなかった。
殴れらようが地べたに顔をうずめられようが……歯を食いしばって己の心を無にする。
それが下層に生きる者たちに強いられる残酷な使命……。
「うるせぇ!! さっきから同じことをピーピーと……マジでいい加減にしねぇとぶち殺すぞ!!」
借金取りが懐から取り出した銃が冷たい銃口をパークス夫婦に向けられる。
引き金にかけられている指には迷いや躊躇といった精神的なストッパーは微塵も掛かっていなかった。
「今すぐ金を返すか……一生を俺たちに捧げるか……選ばせてやる」
理不尽な所はあるが……金を借りた以上、夫婦には返済義務がある。
その義務が果たせないとなれば、彼らの言いなりになるしかない。
だが1度彼らの手に堕ちたが最後、永遠に救いなき闇の世界で苦痛とともに生きるしかない。
借金取りが待てないと言う以上、夫婦に選択肢などない。
「あなた……」
「母さん……」
震える父親の手を母親の温かな手が重なる。
それと同時に、目には覚悟が灯っていた。
スレンのためとはいえ、すべて自分たちの自業自得。
「(せめてスレンだけでも……)。 わかりました、私達の命を差し出し……」
愛する娘にこれ以上迷惑をかけてはいけない。
意を決して、闇に足を踏み入れようとしたその時!!
「待って……」
夫婦の決断に待ったを掛けたのはスレンだった。
隠れていろと母親にベッドの下に押し込まれていたものの、両親と借金取り達の会話は耳に届いていた。
娘のために闇金にまで手を出すような両親がこの状況下でわが身を捧げることなど火を見るよりも明らかだ。
とはいえ、このまま黙って隠れていればスレンだけは助かる可能性があった。
両親からすればそれが唯一の救いとなっただろうが、スレンはそれを望まなかった。
「あたしが行く……それでチャラにならない?」
親は我が身が危なくなれば平気で子供を見捨てて保身に走る非情な存在。
親子の愛情など所詮は親が利益を得るために見せるまやかし。
それが前世でスレンが身に染みて学んだ世の理。
それは転生後も変わらない。
にも関わらず、親の身代わりになろうとする自分の行動はスレン自身も理解できなかった。
愚かな行為だとは思いつつ、不思議と彼女に後悔はなかった。
「なっ何を言っているんだ!? スレン」
「そうよ! 馬鹿なことを言わないで!!」
両親は当然スレンの身代わり要請など受け入れるはずはない……だが受け入れるかどうかを決める権利は借金取り達にある。
「ほう……貧乏人共のガキにしては良い素材じゃねぇか……」
品定めと言わんばかりにスレンの体を視線で嘗め回す借金取り達。
男を知らぬ体でありながら妖艶なオーラを纏うスレンの魅力に金の匂いを嗅ぎつけた借金取り達が彼女を取り囲む。
「いいだろう……お前でチャラにしてやる」
「やっやめろ!!」
男達の薄汚い手がスレンの手に伸びようとした瞬間、両親が我が子の盾になろうと立ち上がった。
「娘にだけは手を出さないでください! どうかお願いします!!」
「俺たちはどうなってもいい!! だからこの子だけは……この子だけは……」
「黙れ! 金を返せねぇお前らが悪いんだろうが!!」
多勢に無勢に敵うはずもなく、両親は借金取り達によってスレンから引きはがされ、取り押さえされてしまった
「この娘はさっさとあきらめて女房に新しくガキを仕込み直すんだな」
血も涙もない言葉を吐き捨てるとともに、スレンの肩に我が物顔で腕を通す借金取り。
「すっスレンを返せ!」
「うるせぇ貧乏人だな……マジ1発死んどくか?」
イラ立った借金取りの再び両親に銃口を向ける。
確実に頭を打ちぬけるよう取り押さえられている父親の頭に銃口を密着させ、引き金に掛けた指に少し力を加えている。
その姿勢や表情からそれが脅してはないということ物語っている。
仮に両親を撃ち殺したところで彼らにデメリットはない。
闇に生きる者たちにとって人殺しは日常茶飯事……殺人の後処理も熟知している。
科学捜査など存在しないこの世界では、1度闇に消えた真実が明るみに出ることはまずない。
だからこそ、彼らには人殺しに対する躊躇というものがないのだ。
「やめて! あたしが行けば済む話なんだろ? だったらさっさと行こうよ」
「フン! ガキの方が物分かりがいいじゃねぇか」
「スレン! お前が行くことはない! これは俺達が招いたことなんだ!」
「お願いスレン! 行かないで!!」
「……」
両親の静止を振り切り……スレンは借金返済のために自らの体を売った。
これが心から自分を愛してくれた両親へのせめてもの恩返し。
「(どうせ1度は捨てた命……これくらいマシな使い方をしたってバチは当たらないでしょう)」
自己犠牲……恩返しとはいえあまり褒められる行為ではないだろうが、人が選ぶ道は必ずしも正しいこととは限らない。
これはいわば……スレンの義なのだ。
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それから2年の月日が流れた。
借金のカタに我が身を売ったスレンはそのままバルーン小国の娼館に娼婦として売られ、毎日男の相手をする日々を過ごすことになった。
女としての純潔はテストという名目で娼館のオーナーに奪われる形になったが、スレンは特に気にしなかった。
娼婦の仕事も前世での経験が皮肉にも活かされ、わずか2年の間に娼館のトップへと登りつめた。
トップという肩書きがあるものの、スレンはあくまで借金の代理品にすぎない。
そのため稼ぎは全て借金返済に充てられ、水や食料といった必要最低限のものしか与えられず、私生活に潤いはなかった。
仮に蓄えがあったところで日中牢獄に幽閉されているスレンには意味をなさないが。
外出はおろか客以外の人間と会話すらできない彼女達に唯一自由が与えられるのは仕事中のみ。
その生活に耐えきれずに逃げ出す人間をスレンは何人も見てきたが、そのたびに裏の人間達の手によって消されていった。
逃げる気もないスレンにはあまり関係のない話ではあるが……。
「(結局あたしの人生なんてこんなもんか……)」
鏡に映る自身の顔にかつての香帆の顔が重なる。
事情は異なるものの、前世と大差ない立場にいるのもまた事実。
肝心の借金についても完済の兆しすら見えない。
というのも……今のスレンの稼ぎであれば借金は難なく完済可能ではあるのだが、稼ぎ頭であるスレンを手放すのが惜しい店のオーナーが、スレンの稼ぎを全て着服しているのだ。
スレン自身もそのことには感づいている。
そもそもの話……日に日に金遣いが荒くなっていくオーナーを見れば、娼婦たちの稼ぎで私腹を肥やしていることは誰が見ても明らかではある。
だが明確な証拠などなく、あったところでもみ消されるのがオチ。
結局のところ……スレンを含めた娼婦たちは泣き寝入りするしかないのだ。
「おい!スレン、仕事だ」
「……はい」
今宵もスレンは男達の慰み者となる。
借金という楔から解放されるありもしないゴールにたどり着くまで……。
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「はぁ……だりぃ……」
小休憩に入ったスレンは店の裏口の階段に腰を落として煙草をふかしていた。
入り乱れる男女の淫猥な声……欲情を彷彿とさせる音楽やお香……そんな無法地帯から離れる時間を欲するスレンのちょっとした日課である。
店のルール上、娼婦が外に出ることは禁止されているので内密の休息ということになる。
「どいつもこいつもサルみたいに盛りやがって……マジで死にたくなるわ……」
愚痴をこぼしながらただただ地面をぼんやり眺めているスレン。
そんな束の間の安息に身を置く彼女に近づく人影が1つ……。
「見つけた……」
「あ?」
スレンが顔を上げると、目の前にフードを被った女が立っていた。
派手に彩るバーンに似つかわしくない地味な服装が、スレンにはかえって物珍しく見える。
「あなたをずっと探していました……」
「……は? っていうか、誰?」
「あっ! 申し遅れました。 小生は”プレンダー エムガス”と言います。
失礼ですが、あなたは?」
「スレン パークス……」
「パークスさん……訳あってあなたをずっと探していました」
「探してたって……あたしを?」
「はい……」
返答とともにプレンダーはフードを脱いだ。
その瞬間、目の前の怪しげな女は見るも可憐な美少女へと姿を変えた。
美しく長い金髪に幼げな顔つき……透き通るよう美しい目は全てを慈しむような温かみがある。
童顔ではあるものの……服の上からでも確認できる抜群のスタイルが目を引く。
スレンとは対象的ではあるが、女としてのレベルは引けを取らない。
「今……この大陸には歪んだ正義が蔓延っています」
「歪んだ正義?」
「この大陸の中央に位置する大国……【ムナヤ国】。 そこでは”正義は絶対であり、悪は死あるのみ”というのが常識として強く浸透しつつあります」
「……別に間違ってないと思うんだけど?」
「小生はそうは思いません。 悪に堕ちても人はやり直すことができます。
確かに……死に値する悪人がいるのは事実です。
でも……人にはそれぞれいろんな真実や心情があります。
それを軽視して悪を処罰することが正しいことだとは、どうしても思えません。
だから小生は……己が正義を信じ、もっと大きな正義と戦っているんです」
「……それとあたしと何の関係があるわけ?」
「まだまだ未熟な小生だけの力では限界があります……だからこそ、力を貸してくれる仲間を欲しているのです!」
「(まっまさか……)」
「パークスさん、どうか……小生と共に歪んだ正義と戦ってはいただけないでしょうか?」
「冗談はやめてくれない?」
プレンダーとの会話をバカバカしく思ったスレンは腰を上げて立ち上がるが、プレンダーは食い下がった。
「冗談ではありません! 本気です!!」
「あたし、ただの娼婦なんですけど?」
「そんなの関係ありません! 小生にはあなたが必要なのです!!」
「100歩譲って今の話を信じたとして……なんであたしが巻き込まれないといけないわけ?」
「あなたが……選ばれたからです」
「選ばれたって……誰に?」
スレンの問いかけに、プレンダーは懐から取り出した”機械”を突き付けることで答えた。
「何これ?」
それは現実世界の記憶を持つスレンも見たことがない機械。
否、似たような物ならばテレビなどで存在していた。
それは特撮ヒーローが悪と戦うために用いる変身アイテム……イメージ的にはそれが当てはまる。
「”マインドブレスレット”です」
「マインドブレスレット?……」
「マインドブレスレットは小生達の心の力……そして、この機械は自ら主を選びます。
小生はこのマインドブレスレットの導きのままここへ足を運び……あなたを見つけました」
「まさか……その機械があたしを選んだからあたしに戦えとかほざいたわけ?」
「信じられないというのは重々承知しています……ですが、本当のことなんです!」
無論、スレンはこのようなオカルトじみた話など信じたりはしない……。
かといって、嘘か真かの水掛け論をする気も彼女にはない。
「1万歩譲ってそれが事実だとしましょう……でもあたしがあんたの誘いを受ける道理はないわ。
他を当たりなさい」
スレンは肺に溜まった煙を溜息交じりに外へと出す。
「ですから……あなたしか……」
プレンダーの静止を無視し、スレンが店の中へ戻ろうとドアを開けた瞬間……。
『きゃぁぁぁぁ!!』
突如として店内に響き渡る恐怖の金切り声……。
「なっ何!?」
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「なっなんだこいつ……」
『うぉぉぉぉ!!』
店内に戻ったスレンの目に映ったのは、血まみれで倒れている数名のスタッフ……そして、この世の者とは思えない1匹の化け物だった。
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