運命の赤い糸を信じる彼女曰く
青空のら
第1話 運命の出会いっておいしいの?
ほんのイタズラ心だった。本当に!神に誓ったっていい。
寝ている同居人の
まさか、こんな事になるとは思ってもいなかったんだ。
***
「ふう、疲れたー! 今日も収穫なし。私の王子様はどこにいるのかしら?」
ため息と共に
当然のような感じで僕の部屋を占拠するのはやめて欲しい。
「ああ、こらっ。靴下くらい脱いで! あっ、化粧落として、ふとんにつくから! もう、服にもシワができるから着替えて!」
僕の言葉を無視して咲良が枕を抱えて爆睡モードに突入する。
「ちょっと、ちょっと、本当にやめてよ。っていうか、自分の部屋に帰ってよ」
「うるさい、静かにしてよね! ただでさえ出会いがなくて
今週のコンパでも男を捕まえる事に失敗したようだ。
毎週末コンパに出かけてはその成果を報告しに、つまり、
ベロンベロンに酔ってる姿は百年の恋も冷める程で、社会人になった今でも学生時代からの酒癖の悪さは治らない。
よくまあ、お持ち帰りされないものだと感心する。もっとも、すでに何度かお持ち帰りされてると考えるのが妥当なのだろう。
でも、そんな個人的プライバシーに僕は踏み込む気はない。
伯父さんの
相手は女の子、なので気分次第でこの
もしそうなった場合、後からいくら冤罪だと証明できたとしてもお世話になっている伯父さんに余計な心配や悲しみを与える事になる。それは避けたい。
つまり、咲良の機嫌を損ねないに越したことはない。
君子危うきに近寄らず。
スヤスヤと寝息を立て眠りについた咲良を起こさないように抱き抱えると、彼女の部屋に移動する。
咲良の身長は見た目で150cmちょっと、体重は持ち上げた感覚だと50kg前後、少し小柄なので人並みの体格の僕でもふらつかずに抱える事が出来る。
足の踏み場もないくらいに散乱した床の上。脱ぎ捨てられた衣類とゴミをかき分けてたどり着いたベットの上に、起こさないように注意しながらそっと咲良を下ろした。
抱きついて離さない僕の枕は明日回収する事にしよう。
酒の匂いとヨダレまみれになった枕は一度洗わないと使い物にならないだろう。
もし、酒まみれ、ヨダレまみれの枕の事をご褒美だという変態がいるならノシをつけて咲良ごともらって欲しい。
彼氏ができて咲良も満足、お互いにwin-winの関係だ。
そもそも二十歳過ぎても白馬に乗った王子様、運命の相手を信じてるという時点で本気で彼氏を作る気があるのか疑いたくなる。
今はこんななりでも、小さな頃は三つ年上のお姉さんという事で美人でカッコ良く見えたものだ。親戚の集まりがある度に逢えるのが楽しみで仕方なかった。
こう毎日顔を合わせる関係になるとは思っていなかったし、これだけだらしない性格だとも思っていなかった。
隣の芝生は青い、とはよく言ったものだ。
女性に対する少年の憧れを平然と100tハンマーでぶち壊してくれた咲良には感謝しなければならない。
付き合った彼女と結婚する前には絶対に同棲しなければならない、と僕に教訓を与えてくれた。本気で感謝している。
「ちょっと聞いてよ、マジでなんなの? こんなに可愛い子がいるのに声さえ掛けてこないのよ! どういう事よ?」
今日もまた、酒臭い息を撒き散らして咲良が僕の部屋に侵入して来た。
「部屋に入ってくるなら、ノックぐらいはしてくれないかな? 鍵かけていないからいきなり開けられるのは困るよ」
「何が困るっていうのよ? 急に扉開けられた位で困ることなんてあるの? あっ、もしかして女!? いいこと、この家に女連れ込むの禁止だからね! 私でさえまだ彼氏いないんだから駿河に先越されるなんて私のプライドが傷つくわ!!」
ふむ、健全な男子、人に言えない秘密の一つや二つくらい持っていて当然――
「ああ、でもこの家の壁薄いから、変な事したら外にダダ漏れなんだよね。エッチなビデオ観る時はきちんとヘッドフォンしなさいよ。あえぎ声なんて漏れてきたら動画撮影しながらこの部屋に突撃するからね」
「えっ? 音漏れしてたの?」
「うーん、可哀想だからノーコメントにしておくわ」
ふふふ、と咲良はほくそ笑んでいるが、世間ではそれを肯定しているって言うんだよ。
「いや、待って――そもそもエッチなビデオなんて見てないし、ネット動画を観る時はちゃんとヘッドフォンしてるんだけど?」
「そんな細かい事はどうでもいいのよ。それよりも私の出会い。いつになったら運命の相手と出会えるのよ!」
暴論で強引に話を元に戻した咲良が壁の薄い僕の部屋で絶叫した。
僕のプライバシーはどうでもいい細かい事なのかい?
彼氏がいないという咲良のプライバシーが部屋の外へ、下手をしたら屋外に漏れているかもしれないのに全く危機感がない。
この酔っ払いをどうしてくれよう?
「もっと大人しい感じにしてみたら? 高校生くらいまではそうだったよね。結構似合っていたのに」
「うーん、悪いけど
気楽とズボラの区別がついていない時点で彼氏なんて無理じゃないか。口を衝いて出そうになった言葉を飲み込んだ。
「気楽がいいなら、会社の同僚とか身近にいる男性から声を掛けてみればいいんじゃないかな? それが嫌なら諦めて結婚紹介所に登録するしかないよ」
「ええっ、結婚紹介所? まだ20代前半だよ。早すぎるよ。それにそんな所で私の運命の相手と出会える気がしないもの」
うーん、運命の相手とコンパで出会うっていうのも違和感あるんだけど、それは平気なんだ?
「いずれ咲良の良さをわかってくれる王子様が現れるよ。焦らずに気長に待てばいいんじゃない?」
「ええっ、もしかして駿河、自分の事言ってるの? ごめんなさい、歳下は守備範囲じゃないんだ」
もうやだ、この酔っ払い。面倒くさい、相手したくない。
運命の相手を求めていて、歳下は守備範囲外とか意味わからなすぎる。
どれだけ自分に都合の良い恋愛脳なのか。一度頭蓋骨を開いて脳の中を調べてみたいものだ。
「はいはい、それは残念だったな。ぜひとも咲良には素敵な男性と結ばれて欲しいな」
「ふむふむ、素直なところはいいぞ。こっちおいで、頭撫でてあげよう。よしよし、いい子いい子。駿河が五歳くらい年上だったら良かったのにな」
「ははは、そうなんだ」
謹んで辞退いたします。
トロンとした目で見てくる咲良の視線をかわして壁のポスターに視線を向けた。
「それにしてもこの匂いを嗅ぐと眠たくなる。もうダメ、おやすみ――」
「ちょっと! えっ? 自分の部屋で寝てよ。ねえってば! 危なっ!」
枕を抱えて眠り込む咲良の肩を僕がゆすった瞬間に、咲良が反射的に左腕を動かし、裏拳が僕の頬を目掛けて飛んできた。
触らぬ咲良に祟りなし。
うぬぬ、しかし一方的に被害を受けたままでは僕の腹の虫が収まらない。
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