僕らの天秤

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中

序盤

プロローグ

 世界はいくつも存在する。

 その無数の世界を管理する存在がある。それは人間の価値観で表すなら【神】と呼ばれるのかもしれない。

 しかしその存在は、自分を神だとは思っていなかった。世界の管理は、雑用でしかない。思い通りに世界を改変したり、動かしたりすることはできない。

 全ての世界はただだけ。それらが正しく在れるように、ほんの少し手を加えているだけ。

 あらゆるものは衰える。形あるものも、ないものも。

 そのほころびを修復する。

 楽器の調子を整えるように。運命という旋律を正確に奏でられるように、世界を調律する。

 

 その存在は、自らを【調律者】と名乗った。

 

 彼女は、どこでもない世界で、無数の世界を観測していた。

 あまたの世界の中で、一つ、大きなひずみを見せる世界があった。

 

 「……行くか」


 小さく呟いて、彼女は手にした【接界杖せっかいじょう】を、どこでもない空間に打ちつける。

 それは世界を繋ぐ杖。あらゆる世界を行き来する調律者には、欠かせない呪具。

 

 そして彼女は一つの世界へ飛ぶ。

 狂った運命を正すために。

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