第一章:快適な拠点作り~提案~
「中層に深い崖があるだろ? あそこの下って実は目茶苦茶綺麗な景色が広がっててさ。一面花畑で幻想的だし、モンスターは攻撃しない限り襲ってこない。しかもピクシーだから可愛い。配信映えしそうだろ?」
俺の言葉に兄は少し驚いた表情を見せ、姉は「なにそれ! 私も行きたい!」と子供のように手を上げている。いや、コラボの話なんだから姉貴も一緒に決まってるだろう。
「良いわねぇ。私も行ってみたいわ〜」
俺達の話に母が朗らかにそう語る。だが半年前に資格を取ったばかりの母に中層は辛いだろう。申し訳ないが遠慮して貰おう。
「崖降りるの大変だし、足滑らせると大変だから……」
そう言うと母は「そうなの? 残念ねぇ」と眉を下げた。
「俺が抱いて行ったら良いんじゃないか? 全盛期程ではないがまだまだ動けるぞ? たまに深層も潜ってるしな」
母の残念そうな声に父が反応してそう口を出す。確かに二人を迎えに行った時の父の走る速度は現役のプロも顔負けのレベルだった。だが、なぁ。
「それなら明日は皆で下見に行かないかい? 父さんも、母さんを喜ばせたいのは分かるけど下手したら大怪我になるんだし、無理はだめだけど」
兄の妥協案にそれなら、と頷く。父も「任せろ!」と乗り気である。本当に分かってるのか? 普通に降りるのと人を一人、背負って降りるのは大分難易度が変わるのだが。
妙に自信満々な父を横目に、そっとため息を吐いた。
翌日。ダンジョン産と思われる胸当てとポシェットを肩に掛けた母と、全身を黒いレザーローブで覆い、顔を隠すように薄手のストールを巻いた父の姿が。
「それ、外でやったら完全に不審者だな」
思わず本音を漏らせば父は「ええっ!?」と驚いたように声を上げた。本人的にはこれがダンジョン用の装備で、ダンジョンに頻繁に潜って居た時は自宅からこれで通っていたらしい。なんかすまん。
「そういや母さん。そのポシェットは?」
俺の問いに母は嬉しそうにウフフと笑った。
「これね、私が探索者免許を取った日に、夏樹がプレゼントしてくれたのよ。麗華はのこ胸当て! 凄いのよ? このポシェットはこの見た目で大きなキャリーバッグくらいの容量はあるし、この胸当てだってすごく軽いのにオーガに襲われても大丈夫なんですって!」
母が自慢するように見せびらかしてくる。相当嬉しいようで満面の笑みを浮かべる母に、俺も思わず笑みを浮かべた。
「よかったじゃん」
嬉しそうな母にそう言いつつ、ポシェットって譲渡したら手続きが必要だったはずだけど大丈夫か? と不安になる。
ダンジョン産のマジックバッグはX線を遮断してしまう。なので所有出来るのは探索者だけだ。その上で前科のある者は所有できない。所有した場合は信じられないくらい思い刑が課されるのだ。
だがそれも仕方ない。数十年前、まだダンジョンに関する法律が曖昧だった頃、マジックバッグを使って飛行機をジャックし、その後数百人と言う被害が出た事件があったらしい。
その事件が合って以来、全世界はダンジョンに関する法律を厳しくし、マジックバッグに関しては取り扱いを一層厳しくしたのだ。
母もその当時を知っているはずだし、手続き系は兄も詳しい筈だ。何も問題はないだろう。
これが姉貴からのプレゼントだったら、目茶苦茶不安になっただろうけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます