第一章:快適な拠点作り〜中身の材料はこいつだ!〜
【悲報】ストックが全て消えました。修正魔なのでちまちま修正しながら投稿していたのですが、いっそのこと直書きします。ご了承下さい。
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★★★★
この日、俺は温めていた計画を実行することにした。
俺の名は秋原 誠、24歳。大学を卒業してから今までブラック企業で働いていたのだが、つい先日首を切られた。理由は良く分からんが、社長が変わったのが原因の1つだろうと思っている。まあそんなことはどうでも良い。会社に勤めて3年、計画を温め始めてから2年、身を削って少しずつ計画を進めてきた。
俺は今日! この日をもって!
「ダンジョンに住むぞ!!!!」
誰もいない部屋で一人、拳を突き上げる。
「手紙よーし! 一週間分の食料よーし! テントとその他の装備! よーし!」
携帯は置いていく。学生時代はネサフや動画、音楽など大変お世話になったものだが、今となってはいつ着信が鳴るか分からない恐ろしい呪物と化している。これも全て、あんのクソ会社と取引先の馬鹿どもの所為だ!!!
「もう働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない……俺はニートになるんだ!!! 誰が働くかっ!! クソがっ!」
世間様から見たら禄でもない発言だろう。だがこれは俺の夢なのだ。希望なのだ。誰にも邪魔させない!
熱い思いを胸に俺は家を出た。家族には手紙を置いてるから放ってくれるだろう。場所が場所だからもしかしたら死んだと思われるかもしれないが、まぁそれもある程度仕方ない。俺の気持ちが落ち着いてもしかしたら家に戻ることもあるかもしれないから、その時にでも生存を報告したらいいだろう。
「さぁ! 出発だ!」
目的地は電車で揺られて一時間の場所にあるダンジョンのセーフエリアの一つだ。勿論場所を発見してから少しずつ物資を揃えてはいるのである程度快適になってはいるだろう。
セーフエリアとはモンスターが一切現れない、来ない謎空間だ。そのお陰で探索者は安心して泊りがけで探索することが出来るのだが。
まぁ人気なダンジョンやエリアは人が途切れることを知らないから住むには不向きなのだ。その点、俺が見つけたエリアは人が入った形跡も出た形跡もない真っ新なエリア。良く見つけられたものだと自分でも思う。
少しでも時間があると物資を置きに行ったが一度も盗まれたことはないから、未だに発見されていないのだろう。暫くはテント暮らしだが、セーフエリアの近くに森のダンジョンがあったから、余裕が出来ればDIYしてみるのも悪くないかもしれない。
でもやっぱり飽きるまでのんびりするんだー! とこれからの未来に想いを馳せながら電車に揺られる事1時間。目的のダンジョンにたどり着いた。
受付に探索者証を出し中に入る。一応身近なものになったとは言え命の危険があるのは変わらない。つまり何の知識や経験がない状態で入れる訳はなく、訓練や講習を受け試験に合格しなければダンジョンに入ることすらできない。それも一番難易度の低いダンジョンに限るのだが。
難易度の高いダンジョンに入るには経験を積み、高難易度のダンジョンに入っても問題ないと証明しなければ入れない。
まぁこれは安全第一の日本や他の国に見られるやり方だ。ダンジョン先進国であるアメリカとかでは『死んでも国は責任を取らない』と同意書にサインをすれば直ぐに入れるらしい。まぁ向こうは学校で死ぬほどスパルタ教育を施されるらしいが。
閑話休題。
中に入った俺は暫くは人の居る場所に進み、今度は人一人通れる程度の狭い路地を行く。それから右、左、左、右と曲がりくねった道を歩き続け、あとはこのまま行って見つけにくい狭い通路を通れば……あれ?
「人の気配?」
俺しか知らない筈のセーフエリアに、人の気配と声が聞こえてきた。
何故こんな所に人が? と疑問に思いつつ気配を消して近づいていく。
賑やかな声にあれ? と首を傾げた。もの凄く聞きなれた声が聞こえてきたのだ。
ちらりとセーフエリアを覗けば、朝に出かけて行った家族の姿が。
「はっ!? 何で!?」
思わず体を乗り出して声をあげる。すると父の英人が「おお、やっときたな」とにこやかに笑う。
「いやいやいや!!! やっと来たなじゃなくて! 何でいるの!?」
そこには両親だけではなく、danライバーとして活動している姉と兄の姿も。
danライバーとは、ダンジョンライバーの略で、文字通りダンジョンの探索を配信するライバーの事である。姉と兄は結構人気があるらしく、精力的に活動している。
「何でって……そりゃあ私たちもここに住む為よ。当たり前でしょ?」
そう語る姉は装備もばっちし、いつでも探索に出かけられる格好で自分の寝床の用意をしていた。いや、まだ朝だぞ。何やってるんだ。
「そうそう。流石にセーフエリアとはいえダンジョンはほぼ無法地帯だし、そんな所に一人で住ませるわけにはいけないだろ」
兄はそう言いながら焚火の傍で肉を焼いていた。何の肉かは分からないが漫画肉のような形からして、モンスターの肉かもしれない。
「夏樹、麗華、ここの土を移動したいんだけれど、ちょっと手伝ってくれる?」
軍手をして片手にスコップを持つ母がテントの向こう側から歩いてきた。その様子に姉が「母さん、まじでここで家庭菜園するの?」と引き気味に聞いている。
「は? 待って待って待って、ちょっと理解できないんだけど!?」
兄と姉が居るのは100歩譲って良いとしよう。ただここに両親がいるのはなくないか!?
父、秋原 英人は俺が幼い頃に会社員を止め、それ以来フリーランスで働いている。だからネットとパソコンさえあれば仕事自体は出来るだろうけど、ここはダンジョン。魔石を利用したネットワーク回線しか使えない。つまり、ここで暮らすにはその特殊な回線と契約しないといけないわけで……そんな直ぐに出来ないだろう。そもそも俺は自給自足のスローライフをしようと思ってたから電力は使わない方針だったし。
「親父! 仕事はどうするんだよ!? ここじゃ仕事なんてできないぞ!?」
もう俺がここでニート生活を送ることをバレたのは良い。生存報告の手間はなくなったと思えば悪くない。悪くないが俺のワガママの所為で親父の仕事が滞るのはダメだ。そう思って言えば父はにんまりと笑った。
「大丈夫。いつでもここで仕事出来るように1年前から回線契約してたから」
サムズアップする父の告白に唖然とする。いちねんまえから……?
「そうそう。誠が会社で働いてからずっと落ち込んでたたのに急にその様子がなくなるし。何かあると思って私と夏樹二人がかりで調べ上げたんだから」
ふふん、と胸を張る姉に茫然とする。ここを見つけて半年でばれて居たというのだから当然だ。尾行を警戒するとかは無かったから姉や兄のレベルの冒険者になると追跡は容易だっただろう。
「いや……だったら言ってくれたらいいのに……」
何故俺に秘密にしていたのか分からない。溜息を吐きながら首を振る。そんな俺に家族全員が顔を見合わせて困ったように笑った。
「だって、あんた楽しそうだったんだもん」
と姉。
「子供の頃、夏樹が家の近くの公園に秘密基地を作った時を思い出したわねぇ」
「誰にもバレてない、って中々高揚感が合って楽しいんだよねぇ」
と母と父。
「ま、秘密基地は男のロマンだからなぁ」
兄の止めの一言に俺は崩れ落ちた。誰にもバレてないと確かにウキウキしてたことは認める。認めるけど!!
バレてると知った時の恥ずかしさも分かってくれ!! 本当に!!
……一度深呼吸をして落ち着こう。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
なんて冗談は置いておいて、真っ先に確認すべきことを確認しよう。
「……母さん、確かダンジョン入ったことないって言ってなかった?」
そう、ダンジョンは探索者証を持っていないと入れない。持たずに入れば本人と持っていないと知っているのに一緒に入った第三者も刑罰に処される。つまりこの場合、全員が刑罰の対象なのだ。もし持っていないのなら何としてもこのダンジョンから出さなければ。
「あら、言ってなかったかしら? お母さん頑張って探索者証を取ったのよ~」
うふふふふ、と笑いながら母は自慢げに探索者証を見せびらかしてくる。取得日を見ると半年前。どうやら俺の計画がバレてから直ぐに行動に移したらしい。
「……いやいやいや、取り立てでダンジョンに住むとか意味わかんないから。第一元の家はどうすんだよ!」
「大丈夫、これでも父さん強いから。母さん一人くらい守って見せるさ。家はたまには帰って掃除するつもりだし。セキャムにも申し込んでるから、何かあれば連絡が来るし問題ない」
何でこんなに用意周到なんだ。はぁ、とため息を吐く。俺は知っている。この人たちは思った以上に頑固でこういう時は梃子でも動かない人間だ。俺が折れるしかないのだろう。
「一人になんてさせないさ。それにニートは家族が居ないと出来ないんだぞ?」
お茶目にウィンクする父に苦笑いする。
こうして俺の計画は半分崩れ、ダンジョンに逃げ込んでも家族がいると言う何とも奇妙なスタートを切ったのだ。
少し落ち着いたところで兄が焼いていた肉と、母が家から持って来たおにぎりを頬張り腹を落ち着ける。
「んまー……」
兄が焼いていた肉は弾力はあるのにちゃんと噛み切れて肉汁が口の中に広がる、大変美味しいものだった。
兄曰く、深層――ダンジョンには入口から近い順で上層、中層、下層、深層とあり、深層に深ければ深いほどモンスターが強くなる――に居るモンスターの肉らしい。今日の為に頑張った! と自慢していた。
「さーて、腹も落ち着かせたし、寝床も整えた! 夏樹、探索行くよ!」
満足げに自分の腹を叩いた姉は兄の名前を呼ぶとセーフエリアを出ようと歩き出す。
「待てよ麗華。お前水筒忘れてるって」
兄はそう言いながら姉のであろう革袋の水筒を持ち、姉を追いかける。その後ろ姿に「気を付けろよー」と父が声をかけていた。
「お昼ご飯作って待ってるから、一度帰ってくるのよー」
母もそう言って見送り、俺も手を振って送り出す。そうして自分のテントを設営し中に寝転がった。
「んー!!」
思い切り伸びをする。最初はどうなるかと思ったが無事、ニート生活開始である。
テントに籠って暫く。俺は硬い床の上をゴロゴロしていた。ただゴロゴロしているわけではない。ベストポジションを見つけるべく、試行錯誤しているのだ。
「くそ……やっぱ布団買っておけばよかったか?」
こんな硬い床の上に寝そべっていると、帰れずに会社のかっっっったいソファで仮眠を取っていた日々を思い出してしまう。折角ニートになったというのに、なんであんな所の事を思い出さなければいけないのだ!!!!
俺が夢見るニートって言うのは死ぬほど自堕落な生活をしたり、頑張っている会社員を横目に二度寝を決め込んだり、たまーにおじいちゃんおばあちゃんの雑談会に混ざってお喋りをしたり、そんなニートだ!
それなのに、こんな硬い床の上だと会社を思い出して二度寝なんて夢のまた夢。疲れ切ってないと寝る事さえままならないだろう。俺の睡眠に悪影響しかない。
「んー……でも今から買いに行くのもなぁ」
郵送をお願いしたい所だが、ダンジョンの中まで届けてくれる業者なんてないだろう。持って帰れはするが……外に出るの、ヤダなぁ。
「でも硬いのもヤダし……いっそ作る?」
絶対買った方が楽なのは分かっている。分かってはいるが……あれだ。
家に材料はあるけど作るの面倒だから惣菜を買いに行く手間を選ぶ、みたいな。
手順的には絶対そっちの方が面倒が少ないのに気持ちで負けちゃって行動に起こせない的な。分からないか。
「ベッド……布団の方が簡単か? でも羽毛どうしようか、下層のボスくらいしか思い浮かばないしなぁ」
モンスターの素材でベッドを作ったほうが簡単な気が。実際、海外のブランドではモンスターの素材を使った家具が売られているらしい。クオリティは下がるだろうが、床で寝るより100倍マシだろう。
「ん~、ガワはスワンプ・フロッギーの皮でいけるか? 中は……どうするかなぁ」
ダンジョンの下層よりの中層には沼地があり、そこに居るカエルのモンスターの素材は生地に最適だろう。実際色々なものに使われているらしいし。
問題は中身だ、中身。
「ん~、あれ? もしかしてスライムゼリーとかありなのでは?」
外枠を作ってその中にスライムゼリーを入れるだろ? そして外枠にフロッギーの皮を固定すればウォーターベッドモドキができるのでは。
そうすると外枠用の木材も必要だが、丁度近くに森のエリアがあるしそこの木を伐採できないだろうか。やったことはないが木なら直ぐ切り落とせるし。それが出来ればトレントの相手をする必要もない。あれ、楽そうだぞ。
「んんん……良い気がしてきた」
ガバッ、と身を起こし準備を始める。順番的には森エリア・スライム・スワンプ・フロッギーの順かな。スライムは中層に良い奴がいるんだ。
「父さん、母さん、俺ちょっと森のエリアに行ってくる」
持ってきていたブレスレットと短剣を装備して一緒に土を弄っている両親に声をかける。
「ああ、行ってらっしゃい」
「お昼までには戻るのよー?」
そう言って再び土弄りしている二人に背を向けセーフエリアを出た。
……ここの地面は岩肌なんだけど。もしかしてあの土、わざわざホームセンターで買って来たとかないよな?
10分程歩いたところに森が広がっていた。ダンジョンの中だというのに頭上には空が広がっている。
まぁ、そんな摩訶不思議な事はダンジョンには当たり前なのだが。
俺はベッドフレームを作ろうと森の少し中に行き、木を見て回っているのだが、正直言って何が良いのか悪いのかさっぱりだ。
「んー、とりあえず真っすぐな木でも切っとくか!」
そうすれば加工も楽だろう。素人判断だがここには素人しかいないのだ。仕方ない。
「それじゃあささっとねー」
森にはウルフやトレントなどのモンスターが多い。そいつらに嗅ぎ付けられる前にさっさと事を終わらせたい。
ブレスレッド真ん中にある玉を触り起動させる。このブレスレッドはただのブレスレッドではない。中に無数の糸が仕込まれており、それを操ることによってモンスターを仕留めたり拘束することが出来るのだ。
高校の時に見つけたこのブレスレッド、最初は生糸みたいに柔らかかったが、真ん中にある玉にモンスターの核を吸収させ続けた結果、鉄線よりも硬い糸となっている。今は集中すれば50本は動かすことが出来る。動き回りながらだとその半分位になるが。
木を切り落とすくらいなら数秒もあれば十分だ。と、思っていました。
「あああああああ」
俺の目の前には大漁のトレントが。木材をゲットしようと木を切ったら、次の瞬間にはトレントが大量に目の前に現れたのだ。
何故だ! 俺はただ楽に木材が欲しかっただけなのに! 結局トレントを倒して木材を得るしか無くなってしまった。トレントくらいなら何体居ても問題ないけど! ないけど!
「面倒くせぇぇぇぇ」
糸を使ってトレントを切断していくがどんどん現れるトレントに思わず叫んだ。
「くそ、簡易魔法でも覚えておけばよかった!」
座学がどうしても嫌で魔法と言う選択肢を最初から捨てていたがトレントの弱点は炎。火の一つ出せたら一網打尽に出来たのに。
まぁブレスレッドがあるだけ有難いというものか。
枝を鞭のようにしならせて襲い掛かってくるトレントの攻撃を避け、ブレスレッドの糸で切断していく。避ける場所が無くなればトレントの巨大な体を使って飛び回った。こんなデカいのに密集してるから飛び回り放題だ。
俺が飛んだ場所を鉄線で切断する。そうすればその巨体はまるで紙切れのように切れ崩れ落ちた。
それを繰り返すこと数分、大量にいたトレントは全て木材へと変貌を遂げていた。
「ふぅ、生きてる時はあんなデカいのにドロップするのは半分以下になるの、どうにかして欲しいよなぁ」
まぁ大漁にゲットしたしベッドフレームを作っても余るだろう。
「次はスライムゼリーかぁ。思ったより時間が掛かったし、一旦帰るかぁ」
ダンジョン産のポーチに収納する。このポーチは下層のダンジョンボスを倒すとゲットできる拡張機能のあるポーチだ。見た目は財布とか携帯とかそう言った小物しか入らないが実際は1畳~2畳くらいの大きさはある。時間経過が違うのか生モノも腐りにくい優れモノだ。更に奥のダンジョンボスを倒すと完全に鮮度を保ったままだと言う噂もあるが、眉唾だな。
「ただいまぁ」
家ことセーフエリアに戻って来たら既に姉と兄も戻ってきていた。
「お帰り」
「あら、あんたも出てたの?」
装備を外しながら話してくる姉と兄に「ちょっと木材取りに行ってた」と軽く答える。
「木材? トレントの森?」
姉の意外そうな声に「ん~」と生返事する。
「大丈夫だったの? トレントって結構面倒くさいでしょ?」
「大丈夫、トレント狩りは高校の時何度もやってたし」
心配そうな声に無傷だったと笑えば、兄が意外そうな声をあげた。
「トレントを一人で狩れるって中々やるなぁ。しかも殆ど何も装備してないじゃないか」
「俺は速度重視だから装備はあんまり好きじゃないんだよ。軽装でも結構重いし」
俺は鉄線を駆使しつつ短剣でサクッとやるタイプなので似たような動きをする人が着る皮装備も負担に思う人間だ。本当は着た方が良いんだけど、このスタイルに慣れちゃうとどうしても重荷になってしまう。
「えぇ? せめて皮装備くらいは着なさいよ。毒持ちがいたらどうするのよ」
「んー、まぁ攻撃されても避ければ良いだけだし。それに皮装備だったらトレントの攻撃を完全に防げないから意味ないと思う」
「だからって装備無しは極端すぎだろ」
皮装備は上層のモンスター相手なら十分効果を発揮するが、中層・下層となると完全に防ぐことは難しい。下層に潜る用の皮装備ともなると値段が跳ね上がるのだ。装備を作る職人は数が少ない。それなのに需要はあるからもう、値段が吊り上がるのは仕方ない。仕方ないが。
「だって皮装備1つで数千万だろ? それに日々のメンテも面倒くさそうだし。それなら装備無しで動き回ったほうが良いよ。お財布にも優しいし」
軽い怪我はポーションで直るし、重症でもハイポーションがあれば即座に動けるようにはなる。それに比べて装備は壊れたらメンテに倍以上も掛かるし、そうじゃなくたって日々のメンテにも金が掛かる。即死は免れるとはいえ、ちゃんとした装備を揃えられるのは金持ちの証拠なのだ。
「まぁ俺も気持ちは分かるけどなぁ。良く潜ってた時は俺も装備って言う装備は着てなかったし。まぁあの頃はメンテも装備も人間の手では出来なかったから、完全に使い捨てだったけど」
親父がのんびり当時の事を口にする。親父の時代にはまだまだ技術が発展してなくて大変だったと聞くし、実際そうだったんだろう。
「えぇ!? 使い捨てって、勿体なくない? 壊れても持って帰ればお金にはなるでしょ」
「いやいや、そもそもその素材を扱う技術が発展してなかったから、売る場所が無かったんだよ。一部の大企業は色々試してたみたいだけど、その素材も一部のトップランカーからしか買い取ってなかったし」
親父の言葉に兄が「へぇぇ」と言葉を出す。確かに、今じゃスクラップになった防具類も探索者協会に引き渡せば小遣い程度にはなる。少しでも金が欲しい人間なら捨てることはないだろう。逆に金が有り余ってる探索者は捨ててるみたいだが。
「さぁさ、お話はこのくらいにして、お昼ご飯にしましょ。今日はカレーよぉ」
雑談に花を咲かせていると母がそう言って大鍋を持ってくる。そこからはカレーのいい香りが。
「よっしゃ! 俺皿持ってくる!」
匂いに釣られて腹の虫が鳴り出した。俺はさっさと食事をすべく、テントに向かって走り出した。
ご飯を食べて後半戦。俺は悩んでいた。
と言うのも、スライムと一口に言ってもたくさん種類がいるのだ。出入り口からすぐ見つかる特に特徴のないスライム。奴は体当たりしてくるだけであまり危険はない。
中層近辺になると酸を吐くアシッドスライムや魔法を使うファイアスライムなど種類が増え、下層ともなると隠密して上から攻撃してくるカヴァルドスライムやダークスライムなど、上級者でも命を落としかねない恐ろしいスライムも居るのだ。
まあ、下層のスライムはベッドに適さないだろう。奴らが落とすスライムゼリーは魔法や魔道具に使うし。そのクセ触り心地は上層の浅瀬のスライムと同じなのだ。下層のスライムを狩るくらいなら浅瀬で無双したほうが早い。
「でもなぁ、ウォータースライムはひんやりしてて気持ち良いんだよなぁ…」
夏場に狩りに出て、やつが落としたスライムゼリーで涼を取るのは有名だ。と言うか夏場に重装で潜るやつほど必須である。重さはないのにひんやりがずっと続くのだ。使わない手はないだろう。
閑話休題。
色々話はそれだが、ウォータースライムだと冬場に地獄を見そうなので、取り敢えず浅瀬のスライムを狩りに行くことにした。浅瀬は子ども連れが多いが気にしない。俺が行く場所には子供連れや探索者は行かないところだからな。
「よし! 母さん、俺ちょっと浅瀬に行ってくるわ!」
前は急げとアウトドア用の椅子から立ち上がり、未だに父と土いじりしている母に声を掛ける。父は何も言わないが母は一言言わないと五月蝿いのだ。
「はーい。気をつけてね〜。あ、何かお土産あったら宜しくね」
ダンジョンで土産とは一体……。いや、一応色々あるけど浅瀬で取れるもんなんて大体安価で販売されてるのばっかだぞ? 一体母は何を求めてるんだ。
母の言葉に笑いで誤魔化しながらセーフエリアを出て曲がりくねった道を歩き続け、隠れるようにして出来た道を人に見つからないよう神経を尖らして出る。
ここがバレてしまうと俺の見つけたセーフエリアが周知されてしまうからな。ニートは大変だ。
「さって、スライムスライム」
気配を探り人が居ないことを確認した俺は素早く死角から出て歩き出す。向かうは浅瀬のスライムが大量に居るモンスターハウスだ。
モンスターハウスとはモンスターが大量に出現するスポットだ。場所によって出現するMONSTERの種類や数が異なる。浅瀬にあるモンスターハウスは一種類のモンスターが湧き、分かっているのがスライム、ゴブリン、コボルトだ。探索者として稼ぐためにわざと入る奴も居るが所詮浅瀬のモンスターハウス、過疎に過疎っているだろう。実に狙い目である。
因みにスライムは核を壊せば死ぬ。確率でスライムゼリーやら核やらを落とすが換金しても雀の涙だ。浅瀬だから子供も居るし、需要と供給のバランスが崩れているのだろう。
「ま、今の俺にとっては最高だけどね」
なんせ入れ食い状態なのだ。最高のベッドを作るため、犠牲になってもらおう!
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