第10話ひとときの平穏・1
「遅くなって申し訳ございません、
「いいのよ。誤解が解けただけで、十分ですから」
館を訪れた女官長から、罪人の身分は解かれたと説明された雪鈴はほっと胸をなで下ろす。
「最近、後宮に関わる官吏達の仕事に遅れが出ておりまして。私どもも厳しく言っているのですが……」
後宮を統括する女官長は、正殿で仕事をする官吏達よりも位は上だ。
なのに後宮に関する仕事を後回しにされるのは、理由があるのだろうと察する。
「あまり無理をしないでくださいね」
自分は後宮を去る身だけれど、彼女は今後も後宮で姫君達の生活を守らなくてはならない。
「労りのお言葉、ありがとうございます。せめて陛下が正妃を決めてくだされば、後宮が蔑ろにされることはなくなるのですが」
「そういえば、即位なさったのに渡りがありませんね」
「噂では正殿を抜け出して、どこぞへ遊びに出ているとか。政は真面目に取り組んでくださっているので、大臣達も強く苦言を呈せず困っているようですよ」
「……大変ですね」
お茶を飲みながら半時ばかり、女官長は愚痴をこぼして帰っていった。
「偉い人でも、気苦労が絶えないのね」
うーんと伸びをして、雪鈴は茶器を片付ける。
結局、簪の件の真偽は有耶無耶となった。
雪鈴の今後に関しても罪人でなくなったとはいえ、一度は疑われた身というのは色々と問題があるらしい。なので正妃選定の際に、皇帝が直接沙汰を下すとの事で、それまではこの館で暮らすように言われたのだ。
「とりあえず、そんなに悪いようにはならないみたいだし。良かったわ」
その女官長と入れ替わりで、
手には三段の重箱が抱えられており、出迎えた雪鈴と京は目を輝かせた。
「お茶菓子!」
「こんなに沢山! よろしいのですか?」
「気にするな。二人で食べなさい」
「ありがとうございます」
受け取った京が、何度も藍に頭を下げる。
「服や家具だけでも十分なのに、毎日の食事やおやつまで頂いてしまって。本当に助かります」
ほぼ毎日、この館を訪れる藍は必ず手土産として茶菓子を持参してくれるのだ。
食事に関しても厨房と掛け合ってくれて、今では温かい料理が三食届けてもらえるようになった。
すぐに京がお茶の準備をして、三人で一番広い部屋に集まる。
「では、良いかな?」
「はい」
お茶を飲みながら、藍が帯から下げていた袋を卓に置き中身を広げる。
(相変わらず、すごいとしか言い様がないわ)
色とりどりの簪や帯留め、首飾りに腕飾り。まだ加工されていない玉などが、山のように出てくる。
「いつもより多いが、頼めるか?」
「大丈夫ですよ」
藍の言っていた頼みたい仕事とは、宝石の鑑定だった。
彼の持ち込む宝飾品は全て素晴らしい品ばかりだが、精巧な模造品が含まれていたのだ。
雪鈴は一つ一つの品を手に取り、石達の言葉に耳を傾ける。
「……これもまがい物ですね」
「東の鉱山から採れた、稀少な品だが。違うのか?」
「この石は、高温で焼くと赤く変色するんです。本人も、東の出身ではないと言ってます。北の海岸で採れる、ごく普通の玉だそうです」
「そんな事まで分かるのか!」
「玉も石も、嘘を嫌います。本当の姿で愛でてもらえなければ、不満を持ちますよ」
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