雷みたいな。
のーと
蝶蝶結び
指紋認証で点灯する画面。いきなり現れるタイムラインには「テレビ離れ」した若者の声があった。理由は分かってる。つまんないから、だろ。想像通りを詳細に語る長文をスクリーンショットで捕まえる。そうして親指で上に弾いてしまうからやっと目をそらすことができるのだ。うん、後で確認するから、と自分に言い聞かせて。きっと直視してしまえば動悸がして本心で共感させられてしまう。そうして立ち止まっている時間は今の僕にはないから。
「う゛ーーん。」
頬ずえをつく場所もない。机の上は資料で埋め尽くされている。ただ頭を抱え続けた。それだけは諦めてはいけないと思って。
「お疲れ様です、青山先輩。」
コーヒーを置く場所に困った後輩に眉尻を下げて労いの言葉をかけられる。
「ああ、うん。」
まだ湯気が上がっているどす黒いカフェインを受け取りながら応える。我ながら返答があまりに適当だな、と流し込みながら考えた。熱い液体が体内を滑り降りる慣れた感覚にほんの少し目が覚める。この行為に昔はもう少しピリッとした刺激を感じていた気がするのだが。
「……コーヒー、砂糖入れた方が良かったですか?」
正直、苦いものは苦手で、熱いものも得意じゃなかった。だから今でもそれらを嚥下する時どうしても眉間にシワがよる。これはもう癖だな。後輩は気を使って持たない間に耐え兼ねて言ったのだろう。渡し終わり手持ち無沙汰だが離れるタイミングが掴めない、と言ったところか。
「いやこうでもしないとほら、寝ちゃうから。」
少し調子をあげたつもりで喋る。しかし空元気に捉えたのか後輩はきまり悪そうにお盆を抱える手を組み直した。
「あー……、なにか手伝えることあったら何時でも言ってください。」
丁度いいテンプレートをもって会話はオチた。
「うん、ありがとう。」
後輩はやっと私の元から離脱できた。変な気を使わせてしまった気もするが。
口の中はまだまだ苦い。糖分が欲しい。がっつりカツ丼とかが食べたい。ああでも食べたら眠くなる。そう反芻しつつ欠伸を噛み殺す。
余暇時間も無く、追われているその狭間で放心しているとそんな停滞した空気を割くように電話のベルが鳴った。
反射で受話器をとり、マニュアル通り受け答えする姿勢を作る。
「お電話ありがとうございます。株式会社サザンカでございます。」
『あ、あの、取材依頼したいんですけど。』
若い男性の声。このようなところに電話をかけるのは初めてなんだろう、緊張しているのが聴いて取れる。
「……地図にない島、ですか。」
先日亡くなった祖父から相続された無人島に入って映像を撮ってきて欲しい、との事。
「しかし、地図に載ってない事には場所が、」
『ああいえそれに関してはだいたいここ、と言うのはわかっています。』
断られるを恐れているのか被せて訂正に入る。
その後注意事項や要望など詳細をきかされた。
正直、棚からぼた餅だと思った。もし俺に未来が見えたなら絶対に断っていただろうけど。
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