第9話街
僕を背負ったアレックスは街に向かって歩き続けていた。
一歩、一歩と歩く度にズキズキとフォレストウルフに噛まれた足が痛む。
「スミス、足、大丈夫か?」
「うん、大丈夫...」
「そ、そうか?ならいいんだけどよ」
大丈夫のはず。アレックスは僕をおんぶしてる訳だし、しっかりとは僕の顔は見えないよね。
今でも足を噛まれておんぶされて夜通し街に向かって歩いてもらうなんていう迷惑をかけているのに、これ以上アレックスに迷惑をかける訳には行かないよ。
それに僕が今『痛い』って言ってもアレックスに出来ることって申し訳ないけど何も無いしね。
言ってはいけないけど、歩いたり喋ったりする度ににズキズキ痛むから無言でそっと歩いて欲しい。なんて思ってしまうくらい。
「...スマンな俺のせいで。一人で夜中にトイレなんてしなきゃこんな事ならなかったのによ」
「それは違うよ!僕がもっと強くて頭が良かったら僕は怪我しないで良かったんだしアレックスはなんにも悪くないよ!」
「そんな事は、...いや、そうか。ありがとうな」
アレックス、やっぱり気にしてたんだね。何も言わないから気負わないでいてくれたんだと思ってたけどそんな事なかったんだ。...そんなの友達なんだし気にしなくっていいのになぁ。
「友達を助けるのは当たり前だよ」
「え?なんつった?」
「なんでもないよ」
そういったアレックスの耳は少し赤くなっていた。多分僕の耳も。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ!あれって街、っていう奴じゃない!?」
遠くに見える山の谷間に朝日が差し込んできた頃、一つの丘のてっぺんに登った僕たちの先には、視界いっぱいに大きな壁が広がっていた。
「きっとそうだ!もうすぐ着くから寝るんじゃなぇぞ!寝たら死んじまうって村のヤツらが言ってたからな!」
「死なないよ。あ、でも眠たいは眠たい、かも」
いや、当たり前に眠いよそれはだってフォレストウルフに襲われた時からずっと寝ずに歩いてるんだよ?逆にアレックスはそれからも歩いてるのになんで眠そうじゃないのか不思議だよ。
あと、大体の感覚だけど足を噛まれてもう3時間くらいは経ってる気がする。その間もずっと少しづつ血が出てきているし、何か変な事起きなければいいんだけどね。
なんて考えてる内に門の場所まで来たみたいだ。まだ朝が早いからか門に並んでいる人は二、三人でその人たちも何かを渡して街の中に入って行っていき、直ぐに僕たちの番はやってきた
「おっさん、そこどいてくれ!こいつが危ないんだよッ!」
「すまんな、規則で通行証を見せて貰わんと街には入れられんルールになっててな申し訳ないが見せて貰えないか??」
僕の状況が何となくでも分かっているのかすっごく申し訳なさそうに通行証?が欲しいって言ってきた。...でも通行証ってなんだろう?
「なんだその、通行証?ってのが無いと街には入れないのか?」
「いや、一応1000バーツを納めてもらうことで街に入れるんだが金を払って街に入るやつは少ないな...。ってどおでもいいんだよ!背中に背負われてるアンタ、何かにやられたんだろ?」
「あ、あぁ。フォレストウルフの群れに遭遇してな。何体か倒したらあとは逃げてったんだよ。んで戦ってる時にこいつの足が噛まれてな」
「それは災難だったな。まあ早く街に入るために出すもん出してくれ。 街にはここに居る衛兵をつけるからな!おいッ、誰かコイツらを教会まで連れてってやってくれ!」
衛兵のおじさんがそう叫ぶと門の横にあった鉄の扉から同じ鎧を着たおじさんが出てきた。
そのおじさんは衛兵さんの説明を一通り聞いて行くうちに真剣な顔になっていく。
「なあ、これで足りるか?」
「え?あ、あぁ。ちょうど1000バーツだな。さあ、その少年をそこの衛兵に預けな。良かったらここで少し休んでいくか?お前の顔もなかなかに酷いもんだぜ」
「いや、俺が悪いんだ俺も一緒に着いてくよ。く俺の事ほっといてはいいから先に走ってくれるか?」
そう言いながらアレックスは背中を衛兵に向け僕を衛兵に預けた。
預けられて気付いた。アレックスはずっと元気だと思い込んでいたけど、衛兵の硬い背中から見るとアレックスは目の下にクマがあり、猫背になってるしで限界だったんだと気付いた。
きっと僕に心配を書けないようになんでもないように振舞っていたんだと思うと胸が締め付けられるような気がした。
じっとアレックスの方を見ていると衛兵さん同士でなにか会話を始めたようだから、少し照れくさいけど僕の思いを伝えることにした。
「アレックス、今までありがとう」
「なに、お前の為だと思えばいくらでも頑張れるさ。...カッコイイだろ?」
「フフッ、最後の言葉がなかったらね?」
「えっと、もういいか?早く行くぞ?」
僕を背負ってくれている衛兵さんの方の会話が終わったようでそう声をかけてくれた。
「あ、はい!待ってくれてありがとうございます!よろしくお願いします!」
そう言うと僕を背負った衛兵はゆっくりと街の中へと歩いて行くのであった。
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