第8話 あと3体

 あと三体残っているフォレストウルフ達は仲間が殆どやられたのを見て警戒を強めたようで僕たちを囲んだままジリジリとゆっくり円を描くように歩いている。


 フォレストウルフに噛まれた方の足を見るとじくじくとした痛みと一緒に大量の血が流れているのが見えた。


 今すぐにでも蹲って足を抑えたい気持ちになるがそんな事をやっていてはフォレストウルフにすぐさま倒されてしまうだろう。


「おい、傷は大丈夫なのか?」


 アレックスが心配そうに声をかけてくるも視線は前方に向き、油断なく剣を構えている。


「ちょっとここからは動けそうにない、かも」


 ...出来るなら泣き叫びたいよ。とは口が裂けても言えないよね。


「ワァオォォォ〜ンッ!!!」


「なッ!新手か!?」


「本当に不味いヤツ、だよね」


 突然左の茂みから狼の遠吠えのような鳴き声が響いてきた。


 新手かと2人で左の方にある茂みを警戒し、新しく襲ってくるであろう狼がどこから来るのかと緊張しながら待つ。


 だが、待っても新たな狼は現れず、代わりに警戒しながら待っている僕たちを取り囲んでいたフォレストウルフ達は僕たちには目もくれず一目散に様々な方向に逃げていった。


「逃げて、くれた?」


「あぁ、そうみたい、だな。きっとこれ以上フォレストウルフ側に被害が出るのを防ぎたがったんだろう。良かったぜ」


 「あぁ〜〜ッ!怖かったぁ〜ッ!本当に死んじゃうんじゃないかと思ったよぉ〜」


 今まで必死に押し殺してきた恐怖が戦闘が終わったら一気に押し寄せてきて、腰が抜けてどっさりと尻もちを着いてしまった。


 下手をしたら死んでしまっていたかもしれなかったんだ。これが旅をするってことなんだ。


「おい、スミスッ!応急処置だけして急いで街まで行くぞ!俺の背中に乗れッ!早くしねぇとお前の足を切り落とす羽目になるかも、しれねぇ...」


「え...。そ、そんな事、って」


「あるんだよッ!早く処置しねぇと傷口が腐っちまってさいあく切り落とすはめになる、って父ちゃんが言ってたんだ!」


 そう言いながらアレックスは手早く鍋に水を入れて焚き火の上に置いた。

 その間にカバンから包帯を取りだし、僕の噛み付かれた方のズボンを捲り上げた。


 捲り上げた先の足には痛々しい歯型が付いており今も血が溢れ出している。

 今更ながら自分の足を見て本当に噛まれたんだという実感が湧くと共に、噛まれた部分が、じくじくと傷んできた。


「ングゥゥゥ...ッ!」


 あまりの痛さに僕は足を抑えて蹲ってその場から動けなくなって始末まった。


「おい、大丈夫か!?今手当してやるからな!よしお湯はこんなもん、かな?で、1回冷めるまで待つ、だよな??」


「え、やったことあるんじゃないの!?...ッ!」


 アレックスの不安そうな顔を見て僕は痛みにこらえながらも大きい声を出してしまった。


「やった事ねぇよ!何時もはみんなで狩りするから怪我することも滅多にねぇし、したとしても大人がやってくれてたんだよ!」


「そうなんだ...」


 ど、どうしよう!?ものすごく怖いんだけど!これだったら何もしないで街にあるっていう教会を目指した方がいいんじゃないかな!?


 そんな不安な様子をアレックスも感じとったのだろう。


「安心しろって!!街まであとちょっとだし、しっかり応急処置はしておかないとだろ?そんで俺はちゃんとその方法を知ってるし、今間違えずに出来てる。頼む!俺を信じてくれ!」


 僕に安心させるように笑顔を浮かべながら、そう言った。

 ここまで言ってくれるのにアレックスのことを信じない、なんて出来ない、よね?


 頭に昇っていた血がスゥ、と降りていき、すごく不安だった気持ちが少し落ち着いた。


「ごめんねアレックス、こんなに頑張ってくれてたのに僕、ちょっと君のこと疑っちゃった」


「仕方ねぇよ、こんな大怪我すんの初めてだろ?俺もこんな大怪我の手当したこと無かったし、しょうがねぇさ。...よし、コレで終わりだな、テント畳んで急いで出立しよう」


「え?でもまだ夜中だし危ないよ!?いつさっきみたいなのに襲われるかもわかんないんだし!」


「関係ねぇよ。トイレに行った俺をお前が救ってくれたんだ、次は俺がお前を救う番だぜ?座っときな歩くと痛いだろう」


 それだけ言ってアレックスは僕の返事を待たずさっさとテントのある方へと歩いていき野営道具等を片付け始めた。


 その様子を僕はただ痛む足を抱えながら見ているしか無かった。

 アレックスはこう、と固く決めたらそれを曲げない性格なのを僕は知っていたからだ。


 それから暫くして野営の片付けを終えたアレックスは急遽作ったそりに荷物を置いて僕を背負い街に向かって歩き始めた。


 本当は僕もそりに乗せたら歩くの楽なんだろうけど。多分聞いてくれないんだろうなぁ。


 なんて思いつつも僕の事を気遣ってくれてるんだと分かっている為不快な感じしなかった。


「大丈夫だ。絶対街の教会に連れていくから」

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