視線

@Nico23

 あいつは決まって"事"の後、夜のプールに足を運ぶ。

 特に誰と関わるでもなく、薄暗く妖しいライトに照らされたプールの中で、ただ一人、泳ぎもせずに水面をただよっている。


 時折他人に声を掛けられている姿も見掛けるが、一言二言話したかと思うと、どちらともなくその場を離れていく。

 あいつはそういうやり取りの後は、毎度気だるそうに頭をかいた。


 プールに入って、しばらくその場でじっと水面を見つめた後、あいつは決まって両手で水をすくう仕草をする。

 したたり落ちる水を見て、酷くがっかりとした表情を浮かべる。そんな顔を見る度に、たまらなくなる。


 何を期待しているのか。

 どうしたいのか。

 何を求めているのか、と。


 今すぐプールに落ちて、ざぶざぶと奥へと進んで、水面を漂うあいつの腕を取って、強く引き寄せた身体を抱いて、その瞳に映り込むことができたなら。


 揺らめくプールの水面を眼下に見つめながら、幾度となく一人夢想する。


 自分のこの視線に、あいつは気付かない。



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