親愛なる星「きみ」へ
庵野ゆたか
第1話 彼女は宇宙人
突然だが、宇宙人を見たことはあるか?
十中八九いや絶対に見たことがある人はいないだろう。そんな当たり前が僕にとってはそうでもない。
少し肌寒くなってきた10月上旬。
猛暑であった夏から脱却し、半袖から長袖を衣がえする生徒が増えてきた頃。教室に向かう人並みを見ている。
「おっはよー!」
「げっ!?」
「なんだよ〜。人の顔見るなり嫌そうな反応して」
朝から小学生みたいに元気よく挨拶するのは、僕の幼なじみの
「今日なんか反応薄くない?」
「眠たいだけだよ」
「これはゲームのし過ぎで夜更かしとみた!さてはスマートブラウン、略してスマブラをしていたな!?」
「初めて聞いたわそんなゲーム!」
反射的にツッコんでしまい、薫と目が合う。
「やっと私を見てくれた」
「……別にみてねーし」
「私のこと好き?」
「人としては」
「素っ気ないな。私、泣いちゃうよ??」
「………」
「ねぇ、反応してよ。こんなにかわいい乙女が泣きそうなのよ」
「泣きそうに見えないので」
「ひどーい。私と結婚してくれないと本当に泣いちゃう」
「勝手に条件変えないでくれます?」
「だって告白したのに振られたんだもん」
そう、僕は薫に告白された。
およそ2ヶ月前の夏祭りの日。花火が心臓とともに高鳴る中、薫は僕の耳元で愛の言葉を囁いた。少しドキッとした。けれど正直なところ幼なじみには恋愛感情を持っていない。4人に1人ぐらいには分かって欲しい。他にも理由はあるのだが、
キーンコーンカーンコーン
HRを知らせるチャイムが鳴り、各々が席に着きはじめている。薫も僕の前から居なくなった。ここからは退屈な時間が過ぎ、気づけば6時限まで授業が終わり、放課を迎えていた。
特殊なオタクである僕は、放課後は図書室に入り浸っている。芥川龍之介、夏目漱石、森鴎外などが書いている近代小説オタクである。そのため、ここには僕にとっての宝の山がある。そうだな、今日は夏目漱石の『こころ』を読もうか。もちろん下巻。
図書館は利用者が少なく、読書にはもってこいな環境である。『こころ』があるのは文学コーナーのカ行。本の名前順で置かれているのは、いつになっても慣れない。下の棚から見るとすぐ見つけれた。少し黄ばんでいるが、このくらいの方が味があっていい。
「今日は夏目漱石か」
「!?…川田先輩、居たなら話しかけてよ」
「私ならずっと隣にいたわよ」
心臓が高鳴る。
今僕の隣にいる川田由奈さんは僕の近所に住んでいる1つ上の先輩だ。ちなみにだが、薫の家は僕の隣である。
「あと、先輩呼びやめて欲しい」
「…分かりました、川田さん」
「下の名前で呼んでよね」
「…由奈さん」
由奈さんはいつもこんな感じで、普段から何を考えているのか分からない。本当に、幼い頃から。
「今どきの高校生の間では夏目漱石が流行ってるの?」
「あなたも現役の高校生ですよね!?」
「あー。そっか。そうよね。一応高校生だもんね」
川田由奈には秘密がある。それは───
「だって私、宇宙人だもの」
宇宙人であり、僕の初恋の人だ。
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