アイドルを狙う者

スマホに着信音が鳴り、リョウガはすぐさま手に取り、誰からの着信か確認し、電話に出る。


『もしもし、リョウガさん?例の日時が決まりましたのでお知らせに来ました。今から一週間後なのでよろしくお願いします』


リョウガは話せないのでスマホを指でコンコンと叩き、了承の意思表示をする。護衛の事もあるが、何よりも生のライブドルのライブが見られることに内心興奮しているのだ。


(しかし…彼女を狙うとは全くどういう輩なんやら…。まさかそいつも彼女のファンか?いや、そんなことはないか…)


そう思いながら準備を進めていると、ドアからノックする音が聞こえる。リョウガは一旦手を止めてドアを開けるとゼリームが立っていた。


「リョウガ、確かあなたは護衛の依頼に就くのよね?あなただけじゃ心配だからあたしも客に扮して参加するから」


(過保護だなぁ…)


急遽、ゼリームも参加することになった。



ライブ当日、リョウガはライブ会場の舞台裏の控室に案内された。案内人がドアを叩き、リョウガが来たことを報告する。


「リョウガさんがいらっしゃいました」


「どうぞ、中に入れてください」


許可が出たため、控室に入る。そこには、にゃすたーの他にエルフ、人狼、吸血鬼、ドワーフなどの様々な種族の女性がおり、アイドル衣装を身に纏っていた。


「え?誰?あの人...」


「確かにゃすたーちゃんの護衛の人って...」


「えぇ!?彼が!?」


「なんでも属性無しらしいよ?」


ヒソヒソと話し声が聞こえるがリョウガは気にしない。するとにゃすたーが近づいてくる。


「皆、紹介するわ。私の護衛依頼を受けてくれたナナセ・リョウガよ」


リョウガはアイドル達に頭を下げる。しかし、アイドル達は微妙な反応だった。


「ちなみに言っとくけど、彼は諸々の事情で口が聞けないみたいだからそこのところよろしくね」


「「「......」」」


アイドル達の反応は微妙でどうやらあまり期待されてないようだった。


(やはり属性無しだからか...?)


リョウガはふとにゃすたーの方を見ると彼女もどこか不安げにな表情をしながらリョウガを見ており、目が合うとすぐ逸らす。


(……)


リョウガはまるで見下されているような感じがし、アイドル達に対して苛立ちを募らせていた。



『皆ー!今日は盛り上がっていこー!!』


「「「ワァァァァァァ!!!」」」


ライブが始まり、観客達は歓声を上げる。


(流石はライブドル。多数の種族達が一つの空間にいるというのに、一体感があるな…)


ライブが始まってすぐに会場は熱気に包まれる。そして歌が始まり、観客達はさらに盛り上がる。


(凄いな。いつも動画配信などでしかライブを見たことがなかったが、生でライブを見るのもまた新鮮だ。あ、ゼリーム発見)


リョウガは生で見るライブもまた違った楽しみがあると感動していると観客席にゼリームがおり、あたりを見渡していた。


(それにしてもなんか今日は身体の調子が悪いな…)


だが、何か違和感を感じていた。何故だかわからないが体調が悪くなっている気がするのだ。


(まあいいか。今は目の前のライブに集中しよう)


ライブは順調に進んでいき、そしてラスト一曲となった。


『これでラスト一曲!最後まで盛り上がっていくよー!!』


観客達の盛り上がりも最高潮になるその時だった。


バチン!!


突然電気のような音が響き渡り、照明が落ち、暗くなる。


「なんだ?何が起こったんだ?」


「停電?」


観客達が混乱する中、リョウガはふとステージの方を見た。暗くてわかりづらいが、アイドル達も何が起きたのかとキョロキョロしていた。リョウガはにゃすたーを目を凝らして見る。すると大きな黒い手のようなものが暗闇から現れ、にゃすたーを捕えようとした。彼女は気づいていない。


「!!!」


リョウガは即座に帽子型収納ボックスから槍を取り出し、黒い手に向かって投げた。すると、槍は見事黒い手に突き刺さった。


「グギャアアアアアアア!!」


この世のものとは思えない叫び声が会場に響き渡り、会場は騒然とする。その瞬間、電力が回復し、会場が再び明るくなると...


「「「キャアアアアアアアア!!」」」


ステージにいたアイドル達は悲鳴をあげた。そこには黒い大きな禍々しい姿の悪魔のような存在が手に刺さった槍を抜こうとしていたのだ。


「うわああああああ!!」


「なんだあれはー!?」


会場全体がパニックになり、もはやライブどころではなくなった。するとリョウガのスマホにゼリームからの着信が入った。


『リョウガ!あれはデビル化といって悪魔と契約して得た姿よ!あれは悪魔と契約した何者かで間違いないわ!』


デビル化は槍を引き抜くと再びにゃすたーに手を伸ばす。


「ひっ…!」


彼女は腰が抜けてしまい、動けないようだった。


(危ない!)


間一髪、リョウガが助けに入り、デビル化の手をかわす。そのまま槍を拾い、構える。


『会場の皆さん!すぐに避難してください!』


放送が流れ、観客たちは一斉に避難しようとする。ゼリームはリョウガを援護しようとステージに上がろうとする。


「リョウガ!あたしも…ってちょ…!」


しかし、逃げ惑う人々に押されてそのまま流されていった。


「グガアアアアアアアアアア!!」


デビル化はどうやらにゃすたーを集中的に狙っているようで、彼女を庇っているリョウガを引き剝がそうとする。リョウガも身体強化で槍を振るい、応戦するが圧倒的に不利な状況だった。


「…!…!」


首を振ってにゃすたーに早く逃げるよう促すが、彼女はまだ腰が抜けており立つこともままならないようだ。


(クソ…!俺じゃこいつに勝てない…!誰か来てくれ…!)


内心そう思いながら抵抗していると、槍を弾き飛ばされてしまう。デビル化はもらったと言わんばかりにニヤリと笑うと右手を振り下ろした。


ドーン!!


「……?」


デビル化の手がリョウガの目の前で止まっていた。よく見るとリョウガの身体から腕が出てきてデビル化の手を受け止めていたのだ。


「…え?」


にゃすたーも何が起きたのか分からない様子だった。


「やれやれ、こっそり着いて来てみればまさか同族と会うことになるとはな」


聞き覚えのある声がしたかと思うとリョウガから出てきた腕は火球を放ち、デビル化を怯ませると、リョウガの身体から出て姿を現した。


「え…?悪魔…?」


(ジャレッド!?)


リョウガの身体から出てきたのはジャレッドだったのだ。


「契約を終える前に死なれちゃ困るんだよ」


「契約?あなた悪魔と契約してたの!?」


にゃすたーはリョウガが悪魔であるジャレッドと契約していたことに驚いていた。


「おい、いるんだろ!”オリアス”!」


ジャレッドがそう叫ぶとステージの影から一人の悪魔が姿を現した。黒いボロボロの衣装に二本の角、ジャレッドと同じような皮膜の翼があった。


「誰かと思えば…”ラーぺ”じゃないか」


オリアスと呼ばれた悪魔がジャレッドをラーぺと呼んだ瞬間、ジャレッドは目に見えて不機嫌になった。


「その名で呼ぶんじゃねえ…」


「おお、怖い怖い」


ジャレッドの頭から火が出て如何にも怒っている様子だった。


「それよりも、邪魔しないでくれるか?このデビル化は俺と契約の代償としてその人猫の娘を俺に引き渡さなきゃいけないんだ」


オリアスはそう言いながらにゃすたーを指さす。どうやらこの悪魔とデビル化がにゃすたーを狙っていた犯人だったようだ。


「そうはいかないわ!」


その声と共に発光体が高速で飛んで来て着地するとゼリームが姿を現した。どうやらあの人ごみから抜け出したらしい。


「お前のうわさは聞いている。ラーぺと行動しているもの好きな天使だってね。確か…"ローシェル"って名だっけな?」


するとゼリームが顔を顰める。どうやらオリアスはゼリームの事も知っているようだった。そんな中リョウガは訳が分からない状況に陥っていた。


(ジャレッドがラーぺ?ゼリームがローシェル?どういうことだ?)


「な…なんなの…。何が起きているの…。悪魔だったり天使だったり…。」


にゃすたーはそれ以上に混乱しているようだった。


「リョウガ!彼女を連れて早く避難して!他の皆さんも早く!」


ゼリームに言われ、リョウガはひとまずその事は置いておき、にゃすたーやアイドル達を連れてその場から離れる。


「逃がさない」


「そうはいかないわ!」


オリアスは逃がすまいと追おうとするがゼリームが立ちはだかる。


「お前達はこいつらとでも遊んでな!」


オリアスの影から数体の悪魔兵士を呼び出され、ジャレッドとゼリームの前に立ちはだかる。


「我等、ツヨイデビー!覚悟!」


「クソダサい名前!」


なんともダサい名前に二人は拍子抜けしてしまう。


「雑魚は引っ込んでろ!」


ジャレッドが床を殴るとツヨイデビー達が一斉に空中に打ち上げられた。


「ぎゃあああああああああ!!」


それをゼリームが高速で一体一体蹴りを入れて倒していった。


「これで最後!」


ドゴッ!!


「ブゲェ!?」


「あ…」


しかし、ゼリームが蹴ったのはジャレッドだった。


「おい…、誰狙ってんだゴラアアアアアアアア!!」


ジャレッドはゼリームの足を掴むとジャイアントスイングのように投げ飛ばした。


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…!!」


ゼリームは会場の天井を突き破ってそのままどこかに飛んでいった。



「もうなんなのよ!何がどうなっているのよ!」


リョウガとにゃすたーはデビル化から必死に逃げていた。デビル化はしつこく追ってくる。リョウガはどうしたものかと考えていると、ライブ会場にいく準備をしているときにゼリームがやってきたことを思い出した。



『リョウガ、あとこれを...』


ゼリームは小さな十字架のアイテムをリョウガに差し出した。


『これはいわゆるお守りのようなものね。もし危機が訪れたときにこれを掲げてみて。一度しか効果がないけどきっと助けになるから…』



今がその時だろうと察し、リョウガは懐から取り出して掲げる。すると十字架は眩い光を放った。


「グギャアアアアアアア!!」


デビル化はその光に怯み、悲鳴を上げた。するとデビル化は小さくなっていき人間くらいの大きさになるとにゃすたーと同じ種族の人猫族の女性になった。


「...!(人猫が契約していたのか...!)」


デビル化が元の姿に戻ったと同時に十字架のアイテムは風化して消滅した。


「...お母さん?」


「...!?」


にゃすたーが目を見開きながらそう呟く。それを聞いたリョウガも驚愕する。


「どういうことお母さん...。私を...私をあの悪魔に売るつもりだったの...?」


にゃすたーは信じられないという表情を浮かべながら涙を流している。彼女の母は何も答えない。


「黙ってないで何か言ってよ!」


「本当だよ」


リョウガの後ろから声が聞こえ振り向くとそこにはにゃすたーの母が契約したであろうオリアスがいた。


「彼女は一生暮らしていけるほどの金が欲しいというからその代償として娘である君を差し出すという契約を交わしたんだよ」


「そんな...嘘...」


「まあいい、これで契約完了だな。契約通り、娘はいただいていく」


オリアスがにゃすたーに近づこうとするとリョウガが彼女の前に立った。


「なんだお前は?どいてくれないか。」


リョウガはオリアスに向かって槍を突きつける。


「俺とやろうっていうのか?舐められたものだな。...いいだろう。最近鈍り気味だしお前を始末してからゆっくりとあの娘をいただいてやるか!」


オリアスは闇属性のオーラを放ちリョウガを威圧する。リョウガも槍を構えてオリアスに向かっていった。

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