Restart 2nd Season

須川  庚

第1章 合唱コンクール

第1話 梅雨明けのダンス

 六月の下旬、日菜ひなが少しだけ考え込んでいたの。

 彼女がうちの席にやってきて、すぐに話を始めたの。


「ねえ、美琴みことは免許取る?」


 昼休みはとても賑やかで他のクラスからやってくる子が来て、話したりしていることが多いので静かな場所を求めてきたのが中庭だ。

 校舎と別棟と呼ばれる場所を繋ぐ場所で、そこは意外と人が少ないのでここでご飯を食べたりしているんだ。


 わたしは普通に父さんが朝にありあわせのもので作ってくれるもので、めちゃくちゃ上手いのでついつい多めに頼みそうになる。


「日菜、どうしたの?」

「ああ、免許について……親が十八になったから、取ってみたらって」

「ああ~、でも日菜って目が悪いんじゃ」

「うん……がちゃ目なんだよね。ここ最近、左の視力も落ちてきて……メガネで矯正するのはきついかもしれない。美琴は関係ないよね」

「なるほど」


 わたしは視力が良いのでわからないけど、おそらくだいぶ不便かもしれない。

 免許は十八になれば取ることができるから、十一月生まれのわたしは冬休みか春休みになるかもしれない。


「でも、免許って必要かな?」

「就職してからだったら無理だって言うし、営業とかで乗るかもよ?」

「あ~、それは言ってたね。ここ、暑すぎない? ゆでだこになる」

「というか、雨が夕方から朝まで毎日降ってほしい。親がエアコンもう買い替えようかって言ってるくらいだし」


 校舎の日陰で涼むのは良いんだけど、六月なのに真夏さながらの酷暑が続いている。

 ここ数日で史上最短で梅雨明けしてしまい、これから過ごすのが嫌になるくらいだ。


 しかも今週に入ってからは電力がひっ迫していて、節電をしてくれってめちゃくちゃ言っているくらいだ。


「節電をしながら、熱中症予防にって……矛盾してるよね」

「してる。でも、仕方ないよ」


 わたしは弁当箱を保冷バッグに入れて教室に置いてきて、図書館に移動して涼みながら話し始めた。


「日菜、今度の期末余裕?」

「無理だわ、ただでさえ日本史の範囲が広いのに、対応できない。珍解答しそうで怖い」

「ああ……この前、セリヌンティウスって書いたもんね」

「それね。エジプトのときにカエサル以外のクレオパトラの旦那を書こうとしてダメだったんだよ」

「でも、ちゃんと勉強してれば行ける」

「そうだよね」


 そんなことを話しながらご飯を食べ終えて、笑顔で話していることが大きいかもしれない。

 そろそろ七月、学校では期末テストがある。


 バイトも少しずつ減らしていて、まだ給料は貯めているから少しだけ余裕を作っておきたいから……夏休みまではバイトを入れるつもりでいる。

 九月からは受験に専念することを伝えているので、金曜日の夕方と日曜日しか入れないようにしてもらった。

 それがとても良いかもしれないけど、しばらくはカフェで働けなくなるのが寂しい。


「あ、そろそろ予鈴が鳴るね」

「急がないとね」


 今日は水曜日なので文化祭でクラスの出し物を何にするかを決めることになった。


「二年のときさ、五組のファッションショーすごかったよね」

「でも、三年は基本的に模擬店でしょ? あとは何をするの」

「あ、舞台発表か模擬店じゃない? 劇とかやってるじゃん」


 黒板には模擬店か舞台発表という文字が書かれてあって、みんなが話しながら模擬店ではなくて舞台でダンスをしたいという話が出てきた。


「でも、踊れる曲にしないといけなくない? このなかでダンス経験者は」


 そう言うとパラパラと手が上がって、そのなかでわたしも含まれていた。

 その後多数決でダンスをすることになったんだ。模擬店みたいに一日中外ではなく、舞台で午前と午後の二公演をするのが楽みたいだった。


 簡単に踊ることができる曲と上級者用の曲を用意することになった。わたしは元ダンス部なので上級者のなかで一番難しいと言われている曲のメドレー曲をする。

 ほぼシンクロダンスの振付や激しい曲が多めで覚えるのが大変そうだった。


「最初にチームが組めたら報告して」

「はい」



 それから週に一度体育の始まる前に早めに体育館に来て踊っていくことが増えてきた。

 最初は基本のステップから踊ってからフォーメーションなしで踊っていくことが多い。


 振付はもう二日で覚えて、踊るのは初めてだった。

 わたしのなかでチームのリーダーはダンス部に二年までいた子で、いまは独学で振付とかを踊っているみたいだ。

 その他にはダンス部には入っている子はいない。


「音を流すから覚えてる限り踊ってみてね」

「は~い」


 宮野みやのさんと渡辺わたなべさんもバレエとジャズダンスを得意としているみたいだし、曲のジャンルとは違う動きが多くて苦戦しているみたいだ。

 そのなかで市ノ瀬いちのせさんとうちが振付を覚えるのが早くて、左右反転にした振付の部分はシンメトリーになって踊っていくのが多いかもしれない。


「それじゃあ、繰り返していこう」


 わたしは子どもの頃に笑顔で踊っていたけど、とても夢中になって踊ることができたかもしれない。

 音をかかとで取る形のダンスが体になじんでいて踊りやすい。

 楽しい気持ちが戻ってきたかもしれない。


 チャイムが鳴る二分前に宮野さんが声をかけて来た。

 汗を拭いてから、みんなで整列することにした。


「市ノ瀬さんと瀬倉せくらさん、覚えるの早いね」

「普通だよ。今季の振付師さんに教えてもらう期間が一週間でショートとフリーを覚えていかないとヤバかったから」

「うわ、そっか……ヤバいね」


 それを聞いて宮野さんは驚いていた。

 市ノ瀬さんはフィギュアスケートで日本代表として活躍している。

 今年も国際大会にエントリーされているので、秋くらいには欠席が目立つかもしれない。


「宮野さんたちはあまりバレエの意識をなくすのはできないかもしれないけど、音を聞いて踊っていればハマったような動きができると思う」


 チームリーダーの伊藤いとうさんが簡単な振付のアドバイスを受けた。

 そこから音楽を流して踊っていくことにした。

 リズムと音の流れるタイミングを見ながら体を動かしていく。

 鏡を見ながらみんなの動きが合ってきているのがわかる。


「最後のラスサビでターンが入るけど、そこはもうピルエットで良いから」

「あ、良かった」


 それを聞いてラスサビ前のメロディーを口ずさみながらターンをすると、渡辺さんと宮野さんがピルエットをして市ノ瀬さんはラフなターンをしている。

 わたしは少しだけお手本の動画をイメージして踊っていく。

「それじゃあ、今日は終わりにしよう」

「うん」


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