第22話

「もしもし。」

「ごめんね、奈央ちゃん?春馬の父です。」

「あ、あの、おはようございます。」

「おはよう。朝からごめんね。あの、春馬と住んでた家のことなんだけど。」

「はい。」

「確か、借り始めたの年明けだったかなと思って。」

「はい。」

「申し訳ないんだけど、」

「はい。」

「あのね、申し訳ないんだけど、解約した方がいいと思って。春馬の名前で借りてたから。今ね、いろんな手続きしてるんで、それで。」

「そうですよね、わかりました。」

「また、詳細は追って連絡するね。」

「はい。ありがとうございます。」

「うん、またね。」

「失礼します。」

そうだよね。春馬くんからの電話はもうかかってこないし、あの家は私の家じゃない。

春馬くんはいないってことをただ生きてるだけで思い知らされる。

私は今、クッキーを届ける途中だったことを思い出して、歩き出そうと前を向くと人が立っていて、ぶつかりそうになった。

「すみません。」

「あ、こちらこそ。すみません。」


そう言って振り返った人は、大きな花束を抱えていた。

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