第8話
人の骨って、本当に白いんだなぁ。
喉仏って外から見てる時と、骨になった時と全然違う形な気がする。
お骨を拾っている横にいてもまだ実感が沸かなかった。
この灰色の粉と、白い骨が私の大好きな人だなんて思えない。
私を包むくらい大きな体や、控えめに笑う顔、大きな手のひらは、こんなに小さな入れ物に入るほどになった。
白い骨の中で、頭蓋骨だけは真っ白ではなくて、薄いピンク色。脳内で出血があると桜色になると話しているのが聞こえた。
生まれた時からあった、血管の奇形が破れて死んでしまったんだと昨日聞いたのを思い出した。
2人で見た桜の花びらのような淡いピンクをしたその中に、私たちが過ごした日々の記憶は入っていたのかな。
それはどこに行ってしまったのだろうか。
記憶も一緒に天国に連れて行ってくれたかな。でも、私を残して逝くなんて、地獄行きの可能性も否定できないよ?
ねぇ、聞いてる?
春馬くんが死んだと連絡が来てから、ずっと他人事のようだった。
朝、行ってきますと、玄関で手を振り合って、私も出かける準備をしていた。
連絡が来て、すぐに病院に駆けつけたけど、ベッドの上で白い布が顔にかけてある姿をみても、白い布を取ったらただ寝ているだけみたいで、涙も出なければ、声も出なかった。
斎場でぼんやりとしながら、祭壇の近くにいた。写真を飾るとか、好きなものは?とか、春馬くんのお母さんが何もできない状態だから私に聞いてくれるけど、私も上手く聞き取れなくて、結局春馬くんのお父さんが聞いているのをぼんやり見ていた。
祭壇の写真が、びっくりするほど若い春馬くんで、なんか笑いそうになった。
スマホの写真フォルダを開くと、最近の春馬くんがいた。パンを食べ終わって歩く後ろ姿。
金木犀に顔を寄せて匂いを嗅いでいる姿。どれも横や後ろからの写真ばかりだった。スクロールすると、私のふわふわのスカートのウエストがゴムだから誰でも履けると、ふざけて春馬くんが履いた写真が出てきて、思わず吹き出しそうになった。ロングスカートを胸まであげて履いている。バカなの?
こんな写真は誰にも見せられないと、スマホの画面を暗くして、顔を上げると、何歳の時だかわからない春馬くんと目が合った。
斎場で一夜を過ごし、父と母がきて、斎場でシャワーを浴びた。
いろんなことが勝手に進んでいってもなお、私はぼんやり座っていた。
ただ、もう最後だからと棺桶に入った顔を見て、そっと頬に触れたとき、普段触っていた感触と全く変わっていて、この人が生きてないと言う現実を突きつけられた。
そして今、丸裸どころではない骨だけの姿になってしまったのをみて、もういないことも理解した、つもり。
なのに、涙はまだ出なくて、なんとなく周りの人から取り残されている感覚はあった。
悲しんでないのかと問われそうだが、悲しいのかわからなかった。
この目の前の骨が、生きてないことはわかるけど、それが私の好きな人なのか、なんなのか。
本当にもう、いないの?
死んだら、どこにいくの?
なんで何も話してくれないの?
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