きっと、どうでもいい。だけど。
谷川いちか
第1話
「奈央、起きて。」
まだ私のスマホのアラームが鳴る前だというのに、春馬くんは早起きで困る。最近やたらと、朝の散歩に誘ってくるのが、正直迷惑だと言いたいけど言えない。
「奈央、今日めっちゃ天気いいよ。」
春馬くんの声が好きだ。
私を呼ぶ声。
「奈央、今日休みだし、こないだ言ってた新しいパン屋行こうよ。」
流石にパン屋さんは、まだ開いてないんじゃない?
そう答えたいけど、まだ目は開けたくなくて、もぞもぞと動く。
「奈央、起きた?ねぇ、パン屋の前に散歩行かない?」
んー、行かない。
とは言えない、私は春馬くんのことがだいぶ好きなんだと思う。
「いいよ。」
少しだけ瞼を開けると、子犬のようにまんまるの目で、尻尾をブンブン振っているように見える春馬くんがいた。
「奈央、おはよう。」
「うん。」
「おはようは?」
「おはよう。」
「うん、おはよう。」
満面の笑みで、満足そうにしている。こういう、うざいこと言うところも多分、好きだ。
のそのそとベッドから出て、朝日が入り過ぎている窓に近づいてレースのカーテンを左右の手で掴んで、引っ張った。
もう少し寒くなったら、散歩に行きたくないと伝えよう。
春馬くんの右手が暖かいのは知ってるけど、きっとそれだけじゃ足りなくて、私の右側が寒くて耐えられそうにないから。
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