わしは魔女のララ! こっちは最近投獄された聖女メリダ!
月待 紫雲
「わしはララ・ピカ。正真正銘の魔女よ!」
コキュートス牢獄。
海に囲まれ、脱出する手段は政府の使用する船のみ。言うなれば脱出不可能の牢獄だ。
囚人に与えられる部屋は絶対に外せないであろう柵のつけられた小窓と最低限の布で定義された寝床。あとトイレ。
わしは薄暗いその部屋の中心で足を組んで座っていた。小ぶりでプリティなお尻が冷え込んでいる。床はわしに冷たい。
普段は閉じっぱなしの牢屋の扉が開いていた。意気揚々と出ていっても看守にねじ伏せられて終わりじゃが。
「やめてください!」
看守に後ろ手を掴まれながら囚人が放り込まれる。
びっくりするほどの美人だった。ボロ布を着せられているものの、見事な金髪碧眼をしておるし、胸もデッカ……え? デッカ……。
わしは自分の胸を触る。そして倒れ込んでいる美女の胸をまじまじと見直した。
「……デッカ」
「……はい?」
たわわなその胸に目を奪われていると、美女はゴミを見るような目でわしを見た。
看守が咳払いをする。
「今日から魔女仲間になるメリダ・エウラだ。面倒事は起こすなよ」
蔑まれながら牢屋の扉が閉じられる。メリダって最近なんか聞いた気がするな。
まぁいいか、思い出せんし。そのうち思い出すじゃろ。
わしは姿勢を正して頭に手をびしっと当てて敬礼した。
「イエッサー!」
「そんじゃ、頼むよ。あとで布持ってくる」
牢屋の鍵がしまる。
わしはニコニコしながら、看守が牢屋から離れていく姿を見送った。
しばらくしてメリダが牢屋の柵にしがみつき、ガタガタと揺らし始める。
「待ってください! 私は魔女じゃありません! ここから出してください!」
柵と胸を揺らしながら必死に訴えるメリダ。
わしはその横に座り込んでその光景を眺める。
あぁ絶景かな。
ガンガンと柵を鳴らしながら叫び続けるメリダ。
しかしここ、娯楽というものがなかったからこの乳が揺れる光景だけでも結構な感動があるな。
──ガンガンガン!
結構、力強いなこの娘。よく見れば腕もよく鍛えられて……うん、脇もなかなかエッチだな……。こう腕との境目ぽいラインがなかなかそそるものが。
「出して! 出してぇ!」
この元気がいつまで持つのやら。疲れたら落ち着いて話を聞いてやろう。
……ちょっとだけ胸触らせてくれないかのう。
──グシャ。
うん?
わしが鉄柵に目を向けると何やらメリダの握ってるあたりがひしゃげている。
……嘘じゃろ?
「ちょ、ちょっと待て!」
わしはメリダの手首を掴み、捻り上げた。その過程で柵から手が外れる。
「な、何するんですか」
「そなたこそ何するんじゃ! 扉壊れるじゃろ!」
「壊れたらいいじゃないですか、外出れるんですし……!」
こやつ力強いな!?
振りほどかれそうな勢いに抵抗しながらわしは鉄柵を守るように移動した。
「外に出て何とする!?」
「ここを出るんです!」
「出てどうする!?」
押されたり押したり、グギギ……囚人に筋肉を使わせるな。
「敵を倒すのです! 帝国を!」
「帝国の牢獄で言うな! じゃあ何か!? あの看守を突破して海渡れるんかそなたはァ」
急に力が弱まったので手を放すと、メリダは床に手をついた。
「無理です……!」
迫真であった。
「な? 無理じゃろ」
わしはメリダの肩に手を置く。
「諦めろメリダよ」
メリダが顔をあげ、怯えた表情をみせる。
「どうして私の名を……」
「いや看守が思い切りそなたの名前言っておったじゃろ、メリダ・エウラよ」
周りが見えてなかったのかこやつ。
気を取り直し、わしは立ち上がる。
「地獄にようこそ! メリダ・エウラ」
わしは両手をひろげ、笑顔でそういってやった。
「歓迎するぞ。わしはララ・ピカ。正真正銘の魔女よ!」
きらーん。
頭に手を当ててピースする。ふふん、決まったな。
「……あの、本当に地獄と思ってます?」
「思ってない」
即答した。だってここにいるだけでご飯出るし。床は冷たいが寝れるし。
「住めば都というやつじゃ」
「牢獄ですよ、ここ」
「魔女にぴったりじゃな」
胸をはると、メリダは飽きれたような表情になった。
「あなたは魔女なんですか」
目いっぱい頷く。
「背中にあるぞシルシ」
魔女というのは悪魔と契約し、異端の術を身に着けたものをさす。わしの背中には上に羊の角、中心に蝙蝠の翼、下が蛇の尻尾がモチーフとなった赤い紋様が刻まれている。
メリダに背中を向け、肩紐を外して上着をめくる。そうしてシルシを見せた。
「どうじゃセクシーじゃろ?」
「……いえ全然」
「なんじゃノリが悪いのう」
「痛々しいというか、あの」
布擦れの音がして気配が近づく。わしはちらりと後ろを見た。背中に手を伸ばしかけたメリダの姿が映る。
「触るか?」
「……遠慮しておきます」
どこか悲しげに身を引くメリダ。わしは気にせず肩紐を戻し服を着直す。長年この黒いワンピースを着ているが、脱ぎ着が楽でいい。白じゃないので汚れが目立たないのもグッド。
「というかそなたも魔女じゃろ?」
さっきそう紹介されておったし。ここに来るくらいじゃ、本物でも驚かぬ。
まずわしが本物だしな!
「ほれシルシ見せてみい」
ついでにそのバルンバルン揺れそうな乳も見せてみい。
手をワキワキ開いたり閉じたりしてにじり寄るとメリダは首を振った。
「私はあなたとは違います!」
メリダは自分の肩を抱くように掴む。
「私は、冤罪です。決して悪魔と交わってなんていない」
「そうかそうか」
なんだ、いつものパターンか。
「信じて、くれるのですか?」
メリダの不安げな問いに、わしは普通に頷いた。人差し指を立てて、説明してやる。
「昔悪魔に教えられたことがあってな。本物の魔女は聖人と同じくらいの人数しかいない、と」
聖人。徳が高く、人として最も優れた者とされるもの。
要するにいい人じゃ。ただこれに「奇跡を起こした」の前条件がつく。海を割ったとか竜を倒したとか、今の世の中じゃ確かめようもない伝説級の偉業じゃ。そんな奇跡を起こして世界をひっくり返してきた聖人と同じ程度の人数しか、本当の魔女はいない。そんなポンポン出てくるものでもないのに世間は異端審問だ、魔女狩りだ、と。魔女を撲滅するのに躍起になっておる。
そこに果たして魔女がいただろうか。
「ま、ここに放り込まれれば魔女と扱い同じじゃ。わしがそなたを魔女じゃないと知ったところで意味ないんだがなー」
わしは鉄柵の扉から離れると床に転がった。重苦しい天井が目の前に広がる。
「しかし何か相当なことやらかさないとここには突っ込まれない。何をしたんじゃ?」
わしが問いかけると、メリダはとんでもないことを言った。
「牢の扉を三回壊し、脱獄をはかりました」
「魔女って言われるわそりゃ」
わしは呆れるしかなかった。
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