死神詐欺師

@yufin

第一章 幸せを捨てた

 人間は何のために生きているのか。僕はこの答えをひたすら考えるようになっていた。

 今日が僕の最後の日となるのに……。

 日没が近づいている中、僕は森の中の道を歩き、山を登っていた。

 周りには誰もいない。いるのは植物と虫だけだ。

 もしかしたら熊でも出るかもしれない。そう思うと森の中は恐ろしい場所なんだなと感じる。

 「今さら怖い事なんて、ねぇよ。」

 僕は今から、この山で自殺をする。だから物に怯えるなんて無駄である。

 右手にはロープを持ち、左手には水の入ったボトルを持ちながらひたすら歩く。

 僕が今から行く場所で本当に死ぬ事ができるのかは分からない。でも僕は本気だ。

 この先の事なんてどうなっても構わない。

 人として終わった人生だったから、どうせ今後生きても、クソみたいな人生で何も変わらないだろう。

 数十分歩き、目的の場所にたどり着いた。

 僕が住む町を見下ろす事ができる秘密の場所。

 僕が小学生の時に友達と秘密基地にしていた場所でもある。

 「懐かしいな。あの時の形は残ってないけど」

 僕は十五歳。あの時、友達と一緒に遊んだ最後の日から何年も時が過ぎていた。

 僕はいろんな失敗をして、いろんな幸せを奪って、友達も恋人も失った。

 もう過去の人と、この場所に来る事は無い。

 あの楽しかった日々に戻りたい。戻りたい。今すぐ……。戻りたいよ。

 でも、どう足掻いても無理な事は知っている。

 過去だけを考えて、これからの事は一切考えない自分が嫌いだ。でも、将来に希望が持てない時点で、これからの事を考えても意味がないと思う。

 僕は近くにある大きな木の枝にロープを巻き付けた。

 固定されるまでに時間を要してしまった。

 もう空は暗い。

 今後、陽の光を見る事は無いと思うと少し悲しい気持ちになる。

 でもこれから死ぬ自分にとって、陽の光なんてどうでもいい事だが……。

 「ここで輝くのは、僕のスマホだけだね」

 僕の過去がいっぱい詰まったスマホである。

 もう増える事のない、大切な人との写真。既読のつかないライン。

 僕がこんなことをしているなんて、誰も知らないよね。

 僕はボトルから最後の水を飲み、最後の言葉をこの世に残した。

 「人間は何のために生きているのか。それは自分の幸せのため。幸せを探し、幸せを見つけ、そして幸せを感じること。」

 人間には何が必要なのか僕には分かっていた。

 生きる人は幸せを見つけようとする。

 自殺する人は幸せを見つけるのを諦める。

 僕はこの後者の方だ。

 僕は諦めた。諦めたんだ。

 生きるって難しいね。

 そう思い、僕はロープを首にかけた。

 やはり最後は涙が出る。どんな最後も涙が出る。

 ごめんね。

 でもこれで終わり。ようやくこれで終わり……。

 僕は自分に合った幸せを見つけれないまま、この世を去った。

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