第11話 ミサンガ
クロウから来た手紙を読んでいると、家族も寄ってきた。
バカ馬鹿しい。もう婚約者では無い癖に、クロウはまだ私を縛りつけれると考えているのかしら。
書かれていた内容は簡単にまとめると“すまない“という謝罪と“パーティの事はすまなかったもう一度やり直したい、だから明日俺の家に来てくれ“という言葉。とりあえず、絶対に行かないという事は自分の中で確定している。
しかし家族は…違うようだった。
「行きなさいイアリス。婚約をもう一度行えというわけではありませんが、相手方からの謝罪金がもしかしたらあるかもしれない」
「そうね…明日は私達用事があるから貴方の行った後で午後から向かいます。」
お母様とお父様は私の肩に触れて言う。
思わず、本気?と口が滑りそうになった。
慰謝料なんてあんなにプライドのあるやつからと取れるかどうかもわからないし。…いや、クロウの事なら噂を私に取り消さす為に渡してくるかもしれない。
私の事を唯一に家族は考えてくれると思ってけれど違うみたいね。
私はミサンガをぎゅうと握りしめた。
嫌々、返事をすると翌日馬車が来た。きっとクロウのものでお迎えが来たのだろう。
御者らしき人に「本日はよろしくお願いします」と少し頭を下げると、無視された。あんなに目の前でしたのだから、見えていないはずも無いだろう。このまま自分も無視をしていいが、それはそれで負けた気がして不快なのでもう一度行ってみた。
「御者様、本日は、よろしくお願いします」
赤子に絵本を読み聞かせるようなスピードで、使用人達にも聞こえる声量で。
「ン」
一度狼狽えたが、御者はその後目も合わせずに頷くだけだった。
前にクロウの使用人は大変そうねといったけど、撤回するわ。素晴らしく典型的な嫌な御者ですわ。
イアリスが馬車に乗った後、御者も馬に乗る。そして御者は呟いた。
「クロウ様を不快な目にあわせやがって…」
実は御者は出発する前、車輪を凸凹にする為、馬車を改造したのだ。きっと中は揺れまくりで不快な思いをさせられるだろうと。
そしてジグザグに走ってみたり、馬を叩き、勢い良く走ってみたり。
中に座るイアリスに散々な嫌がらせを行った。そんな派手な動きに馬車はついていけなくなったのだろう。ぶちりと何かが千切れる音がした。しかも走っている今のところは崖が近くにある道。ガコココ、と車輪が穴にはまり、バランスの取れなくなった馬車は激しく傾く。
崖、傾く、紐が千切れる、馬が暴れる。
その瞬間全ての最悪な事が重なって最も起きてはいけない事が起こったのだ。
ーイアリスを運んでいた、屋形の部分が落ちたのだ。深い、底に。
馬はなんとか抵抗した為、御者も無事だった。
「うわああっ…!!どうしよう、どうすれば」
御者は馬から降り、現実を受け入れられず、走り出す。
どうしてもバレたくなかったのだろう。これからどうしようとも考えた。
イアリスの死体なんてすぐ見つかるだろう、犯人は俺だということもすぐバレるだろう。言い訳や、アリバイ、色々作ろうと御者はとりあえず息を切らしつつ、街へ走り続けた。
クロウら家がイアリスが来ない事、崖周辺にて壊れた部品、そして覗くとボロボロになった馬車が見えることに気がついたのは三時間後だった。
まあ…何か起きそうとは思っていましたけれど……ッ
私は崖から落ちる前に飛び出た大きな石を掴んでいた。馬車がしょぼかったせいか、扉が落ちる前に簡単に開いて良かった。いいや、良くは無いけれど…。
女性の腕力では、持って後数十分という所だろうか。今でさえ、腕が震えている。そして、そんな短時間の間でここらに人が通り、自分に気づいてくれる確率はどれほどだろうか。多分10%にも満たさないだろう。こんな道、誰も通らない。誰もこんな崖、覗こうとしない。絶対絶滅じゃない。
本当、クロウと関わると碌な事が起きないわね。
いますぐにでも死ねそうだ。
今死んだらクロウや親達はどんな気持ちでこれからを過ごすだろうか。一度、幽霊になったなら顔を見に行きたいわね。
…まだまだやり残した事もあった。シエルとだってこれからもっと関わろうと思っていた。ケイリー様とだって色んな約束が。
ふと、ある事が頭によぎる。
“ もし来たいってなったらこれに願って欲しい。僕が迎えにくるから”
“ 願えば、ケイリー様が出てきてくれたりするのだろうか “
ゴクリと唾を飲む。そしてミサンガを見た。
もし…万が一これが本当に魔法がかかっていて今すぐにでも彼が来てくれるとしたら。私はすぐさま、石を掴んでいる腕と反対の手でミサンガに触れた。そしてケイリーを思い浮かべる。
眩しい光が私を包み込む。
「イアリス様、来てくれる…ッ、て!え、イアリス様何処に!」
上から声が聞こえる。ケイリー様の声だ。本当に来てくれたのね。
「こ、ここですわ。覗いてみてください… …っ」
「…ッ?!イアリス様どうしてそんなところに」
ケイリー様が私に向かって紫の光を放ったとたん、私の体は浮き、上の方まで上がっていく。助かったのだ。彼のおかげで。
私は足を地面につけるとケイリー様にお礼を言おうとした。
「え、ケイリー様その瞳の色は」
「ああ…こっちに集中しすぎて効果がなくなったんだね……ごめんイアリス、いつか言うつもりではいたんだ」
ケイリーは髪をぐしぐしと触りながら私に目線を合わせる。
確かにさっきはケイリー様の声だったし、私はケイリー様を呼んだはずだった。 しかし、今目の前にいるのは赤髪に金目、私の良く知る姿。
シエルだった。
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