あめが降るのはいつだっけ。

桜吹雪

第1話 僕の好きな人には大切な人が……

「舞雨(まさめ)さん、好きです!」 


僕、藤都(ふじと)の告白は失敗に終わった。


数ヶ月前……

「ねぇ、私の親友が経営してる店で働かない?」

バイト先で悩んでいた僕は姉の勧めでカフェで働くことになった。


「あの……今日からよろしくお願いします」

「うん、よろしくね!店長の舞雨です」

バイトの初日、緊張してカチコチの僕を見て店長の舞雨さんは少し微笑みながら優しく話しかけてくれた。

(この人となら楽しく働けそう……!)

舞雨さんの綺麗な顔に少し見惚れながら僕はとても安心した。

毎日、大学に通いながらカフェで働く日々が始まり、仕事をしていくうちに舞雨さんと食事に行くほど仲が良くなっていった。舞雨さんはとても優しく一緒にいると時間があっという間に過ぎていく。舞雨さんに会いたくて、つい早めに来てしまうバイト。舞雨さんのことを友人として好きだと僕は思うようになった。


舞雨さんへの気持ちが大きく変化したのは夜遅くまでカフェに残って掃除をしていたときのことだ。

(結構暗くなっちゃった。雨降りそうだしそろそろ帰ろうかな…)

「あの、舞雨さん僕そろそろ……!」

仕事終了の報告をしようと舞雨さんの方を見たとき僕は、思わず目を見開いた。

舞雨さんの様子がいつもと違っていたからだ。

まるで恐ろしいものを見るかのように窓の外をずっと見つめている。顔は恐怖に満ちているのにどこか悲しそうな雰囲気のする舞雨さんから僕は目が離せず、近づいてはいけないと頭ではわかっているのに気がついたら舞雨さんを後ろから抱きしめていた。

舞雨さんの力になりたい。舞雨さんに頼ってほしい。舞雨さんの側にいたい。色々な思いが僕の脳内にあふれだしていく。そしてその思いはつながっていき一つの感情になる。


(僕は、舞雨さんのことが好きだ。)



そして今日、僕は舞雨さんに告白した。

「舞雨さん、好きです!」

僕の告白を聞いて舞雨さんはとても驚いた顔をしたあと少し悲しそうな顔をして言った。

「ごめんなさい……」


(そっか……だめか……)

僕は、涙が目から零れ落ちないように少し上を見ながら舞雨さんに話しかける。

「告白の返事、きちんとしてくれてありがとうございます……これからもカフェの店員として頑張ります……」

僕の言葉に舞雨さんはまた悲しそうな顔をする。

(どうして……舞雨さんが悲しい顔をするの?)

その顔に僕は耐えきれず聞いてしまった。

「どうして舞雨さんはときどき悲しそうな顔をしているのですか?」 

少しの沈黙のあと、舞雨さんは言った。


「わたし……大切な人がいるの。」





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