第58話:おっぱいの重み
「最近さ、晴子ちゃんのおっぱい大きくなったと思わないか?」
千葉が唐突にそんなことを言い出し始めた。
ちなみに今は学校の休み時間である。
「そ、そうかなぁ?」
「間違いないって。絶対大きくなってるって!」
「う、う~ん……変わったような気がしなくもないような……」
さすがに天王寺も戸惑っているな。そりゃそうだ。いきなりこんなこと言われたら誰だって困惑する。
「というかさ、胸ってそんな急に大きくならないんじゃないの?」
「もしかしたら着やせするタイプかもしれないぜ?」
「そうかもしれないけどさ……」
「あ、実は今までサラシとか巻いてたんじゃないのか? いつも男の制服着てるからおっぱいが邪魔だったんだよ」
「じゃあなんで今さらサラシ外したのさ」
「うっ……それは……なんでだろうな?」
そういや晴子本人もおっぱいが大きくなったとか言ってたっけ。あれは本当のことだったのか?
「ならやっぱり大きくなったに違いない!」
「だから急には成長しないと思うけどなぁ……」
「きっと成長期なんだよ!」
「そんな無茶な……」
なんで今さら大きくなったんだろうな。本当に成長期なのか?
そもそも晴子ってどういう体質なんだろう。今さらながら曖昧なところが多いよなぁ。
「具体的にどれぐらい大きくなったと思うの?」
「そうだなぁ……たぶんあれはE……いや、Fはあるかもしれないぞ」
「そ、そんなに……?」
「少なくともD以上は間違いない。これは自信を持って言える」
「ごくり……」
ちなみに俺はあいつらの会話に加わっていない。なぜならクラスの女子達が、白い目であいつらを見ているからだ。さすがにあの中に加わる勇気は無い。
というかもう少し声を抑えろってんだ。
「はるくんは……大きいほうが……いいの?」
「……はい?」
隣の席に座っている美雪がいきなり突拍子もないことを言い出した。
これはやっぱり……おっぱいのことだよな?
「えっと……何の話だ? さっぱり分からんぞ?」
「…………」
「う……」
こっちをジーっと見つめてくる美雪。ちょっと怖い。
駄目だ。とぼけても無駄っぽいな。これは答えないといつまでも追っかけてくるパターンだ。
「えーと……そのだな……」
「…………」
「好みは人それぞれじゃないかな!」
「はるくんは……どうなの……?」
非常に答えづらいことを平然と聞いてきやがる。
美雪は背が小学生並なせいか、胸元も小学生並なんだよな。それは本人も気にしているらしく、なるべく話題に出さないようにしていたんだよな。
けどこの場合はなんて言えばいいんだ……?
「あーなんというか……」
「…………」
「な、何事も普通が一番だと思うぞ! うん」
「…………むぅ」
あれ。不機嫌そうな顔になっちゃった。
もしかして回答間違えたか?
つってもなんて言えば正解なのか分かねーよ。
ああもう。
「小さいほうが……便利だもん。大きくても……邪魔なだけだもん……」
隣から念仏のようにブツブツと独り言が聞こえてきたが、聞かなかったことにした。
学校も終わり、家に帰ってから部屋のドアを開けた。
中に入ると、外出用の格好をしている晴子が立っていた。
「お、戻ってきたか」
「どうしたんだその格好。どっか行ってたのか?」
「いや今から行こうとしてたんだよ。丁度いいや、春日も買い物に付き合ってくれよ」
「そういうことか。いいぜ」
晴子が準備をしている間に、俺も制服から私服に着替えることにした。
そんな時にふと学校での出来事を思い出す。
晴子って本当におっぱいが大きくなったんだろうか。
なんとなく晴子の胸元を見てみるが、いまいち分かりづらい。でも言われて見れば以前より大きくなった気がする。歩きときも揺れていたしな。
「ん? なんだよ春日。オレのおっぱいがそんなに気になるか?」
「えっ……いや……その……」
やっべ。さすがにこれだけ凝視してたら気付かれるか。
「そ、そうだ。前に大きくなったとか言ってたよな!? あれはマジなのかなーって思ってさ」
「ああ、あれか。本当だよ。ちゃんと測りなおしたからな」
「へ、へぇ……」
気のせいじゃなかったわけか。
「ち、ちなみにサイズはどのくらいなんだ?」
「んーと、今はFカップのブラ付けてるな」
「なっ……」
Fだと……!?
ちょっと待て。前はDだと言ってたじゃないか。
いくらなんでも成長しすぎじゃないのか!?
「といっても、正確にはEらしいんだけどな」
「えっ……? どういうこと?」
「まだまだ大きくなるかもしれないだろ? だから少し大きめのやつ買ったんだよ。いちいち買い直すのもバカらしいからな。ブラだって安くないんだし」
「な、なるほど……」
それでも問題なくつけれるってことは、実質Fってことじゃないか。
おいおい、どうなってるんだよ。ここまで急に大きくなるものなのか?
「けどまぁ、これはこれで辛いんだけどな」
「辛い? 何がだ?」
「ただでさえ邪魔だったのに、大きくなったら悩みが増える一方なんだよな」
「へ、へぇ……」
そういや巨乳の人は、色々と悩みを抱えてると聞いたことがあるな。やはり大きいと不便な部分も出てくるんだろうな。
「うかつに走れないし、階段下りるときも気を配らないといけないし、なにより肩こりも気になってきたし……」
「ほほう。やっぱり肩こりは辛いのか?」
「今はまだそこまで深刻じゃないよ。あくまでそんな感じがするってだけで」
「なるほどなぁ……」
やっぱり巨乳の人は肩こりが切実な悩みなんだろうな。こればかりは女である晴子でしか分からない感覚だ。
でも……ちょっと気になるな。実際どれぐらい重いんだろうな。
「気になるか?」
「ん? 気になるって何がだ?」
「おっぱいの重さだよ」
うっ……バレてら。顔に出てたかな?
「じゃあ実際に手で持ってみるか?」
「……へ?」
「オレのおっぱい」
「だ、誰が?」
「もちろん春日がだよ」
な、なんだと……!?
今こいつとんでもないこと言いやがったぞ。
「い、いやいやいやいやいや。べ、べべべ別にそこまでするわけには――」
「なーに今さら動揺してるんだよ。直接揉んだことがあるくせに」
「あ、あれはなんというか気の迷いというか……」
「それで、どうする? 持ってみるか? 気になるんだろ?」
気になる。めっちゃ気になる。すごく興味がある。
肩こりがするぐらいの重さってどれだけあるだろう?
ぶっちゃけ想像つかないんだよな。以前揉んだ時は重さとかほとんど分からなかったし、その時は考えてもいなかった。しかも今は大きくなっているんだから重くなっているはずだ。
うーむ。考えれば考えるほど興味を惹かれる。これはもしかして知るチャンスなのか?
どうせ本人がいいって言ってるんだ。ならば確かめてみるか……!
「じゃ、じゃあせっかくだから……」
「なんだ。やっぱり持ってみたいんじゃないか」
「う、うるさい!」
「冗談だよ。ほら」
胸を突き出してくる晴子。
そこに近づき、ゆっくりと下からおっぱいを持ち上げた。
……おお。これがおっぱいのも重さかぁ。
予想以上にずっしりしてるんだな。普通の缶ジュースよりも少し重いぐらいか……いやもっとあるかもな。
なるほどなぁ。こんなのを常に2つもぶら下げているんだ。そりゃあ肩もこるってもんだ。
しかし本当に柔らかいな。少し持ち上げようとしただけでおっぱいが手に沈む。
「な? 意外と重いだろ?」
「あ、ああ。確かに予想してたのとは違ったよ」
「これで少しはオレの苦労が分かったか?」
「……まぁな」
そういうことか。
わざわざこんなことさせてきたのは、晴子がいつも感じている大変さを少しでも伝えたかったからか。
まぁ確かに、こればかりは実際に体験してみないと分かり難いだろうしな。
しかしまぁ実に貴重な体験をさせてもらったな。こんなこと晴子がいなければ、一生に一度あるかないかの出来事だもんな。
「男の頃はおっぱいに関する苦労とか考えてもいなかったからな。でも今なら巨乳の人が抱えてる悩みも共感できるんだよ」
やっぱり女になってからは色々苦労しているんだろうな。
「だからよぉ、女の胸元をいやらしい目で見たりするんじゃないぞ?」
「べ、別にそんなことしてないし……」
「嘘付け。オレは覚えてるぞ。昔からおっぱいのでかい人を見つける度に目で追ってたくせに」
「んなっ!? う、うるさいなぁもう!」
くそぅ。隠し事が出来ないってのは本当にやっかいだ……
「この際だから言っとくけど、春日はデリカシーがなさ過ぎる。女の子に対する思いやりが足りてないんだよ」
「わ、分かった分かった。反省してるよ」
「いーや。まだ反省してないだろ。だいたい昔から春日は――」
カンベンしてくれ……
どうしてこうなった。なんで『自分』に説教されなきゃならんのだ。
その後も説教は続き、買い物に行ったのは30分後のことだった。
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