第57話:人間湯たんぽ

「おーし、これで設置完了かな」

「意外と早く終わったな」

「だな。2人でやるとここまで捗るとは思わなかったよ」


 俺の足元にはコタツが設置されている。これは物置に収納されていたやつをここまで持ってきてやつだ。

 いつもなら自分の部屋に持ってきて使えるように準備するのに苦労するんだけど、今は晴子が居る。2人で協力して作業したお陰でだいぶ楽だった。


「よしさっそく入ってみようぜ」

「えーと、スイッチはどこだ」

「晴子のところにあるだろ」

「お、あった。んじゃ付けるぞ」


 スイッチを入れてから少し経つと、じわじわと暖かくなっていくのを感じる。


「おー暖かくなってきた」

「あ~冷えた体に染みるなぁ~」

「だな~。やみつきになりそうだ」


 やはりコタツはいい。こんな便利な物を発明した人は天才だと思う。もはや冬には欠かせないアイテムだ。


「コタツといえばみかんが欲しくなるよな~」

「あ~いいね~。確かに食いたくなってくるよな」

「それなら明日にでもオレが買ってきてやるよ」

「お、マジで? そりゃありがたい」

「甘いやつ買ってきてやるから、楽しみにしてろよな」

「おう、頼んだぞ」


 その後もコタツでぬくぬくしながらまったりする俺たちであった。




 夜になり寝る支度を始める。明日も学校があるのでそろそろ寝る時間なのだ。


「んじゃ明日も早いし、もう寝るかな」

「…………」

「晴子ー。電気消してくれよ」

「…………」

「ん? どうした?」


 あれ。返事が無い。

 晴子はなにやら考え事をしているみたいだ。


「おーい、なにしてるんだよ。早く電気消してくれよ」

「……実はさっきから思ってたんだけどさ」

「うん?」

「オレってどこで寝ればいいんだ?」

「どこでって……そりゃもちろん………………………………あっ!」


 しまった。うっかりしてた……


 俺たちが寝る場所については既に話し合いで決まっている。1人はベッド、もう1人が床に布団を敷いて寝ることになっている。

 だがしかし、今は床で寝る場所がコタツで占領されているのだ。これでは布団を敷くことができない。

 このコタツは無駄に大きく、そのせいでスペースを取っちゃってるんだよな。


「ごめん……すっかり忘れてたよ……」

「まぁオレもうっかりしてたしな……」


 去年まではコタツがあってもベッドで寝れば済むから問題なかった。だけど今は晴子が居るんだ。去年と同じ感覚だったせいで、寝る場所について頭から抜け落ちてたみたいだ。


「どうするよ」

「コタツ移動させるか?」

「いやぁ……スペース的に無理だろ……」

「ならいっそ片付けちゃうか?」

「コタツをか?」

「うん」


 さすがにそれは避けたい。せっかく苦労して設置したのに、一日も経たずにしまっちゃうのはもったいない。というか嫌だ。

 それ以前にこの時間から作業なんてしたくない。既に寝る時間だし、さすがに面倒なことはやりたくない。


「さすがにコタツをしまうのは無しにしようぜ」

「ならどうするんだよ?」

「う~ん……」


 本当にどうしよう。まさかこんな問題に直面するとは思わなかった。


「何か良い方法は無いかな……?」

「…………」

「晴子はいいアイディア思いついたか?」

「…………」

「やっぱりすぐには思いつかないか……」


 う~ん。どうしようかな。

 ああもう。眠くなってきたから頭が働かん……


「いや……このままでいいよ」

「へ? どういうことだ?」

「だから……このままでもオレは寝れるから……だ、大丈夫だよ」


 こんな状態で寝るだって? どういうことだ?

 まさかとは思うけど……コタツで寝るとか言い出すつもりじゃないだろうな。

 いやいや。いくらなんでもそれはどうかと思うぞ。そんなことしたら間違いなく風邪引くぞ。

 確かにコタツに入ったままうっかり寝ちゃったことは何度かあるけど、さすがに何時間も寝るようなところじゃない。


「なら晴子はどこで寝るんだよ?」

「…………」

「おーい、どうした?」

「……一緒になればいいだろ」

「一緒? どういう意味だ?」

「だから……その……春日と同じベッドで寝ればいいだろ……」

「……は?」


 なに言ってんだこいつは。俺と同じベッドで寝るだって?

 どう考えたらそんなアホな結論になったんだよ。


「ほら、明日も早いんだろ? さっさと寝ようぜ」

「ちょ……まだ話は――」


 有無言わさずに電気を消され、ベッドへと押し込まれた。

 ベッドの中に入ると続けて晴子も寄ってきて、同じようにベッドに入ってきた。


「もう少し詰めてくれよ」

「お、おう」


 ……なんなんだこの状況は。どうしてこうなった。こんな展開になるなんて予想外だ。まさか晴子と添い寝する日がくるとは思わなかった。

 いかん。ちょっとドキドキしてきた。仮にも晴子は美人な女の子だしな。そんなやつと密着していると思うと意識しちゃうな……

 いやいや、何を考えているんだ俺は。相手は晴子だぞ。変なことは考えないようにしないと。


 明日も学校あるんだし、早く寝ないと授業中に眠くなってしまう。

 だからさっさと寝付かないと――ん?


「ちょ……晴子。なんで抱きつくんだよ!」

「し、仕方ないだろ。さ、寒いんだから……」

「だからってお前なぁ……」


 本当に何を考えてるんだこいつは。まさかこんな状態で抱きつかれるとは思わなかった。

 そういえば女の人って冷え性になりやすいとか聞いたことあるな。もしかして俺を湯たんぽ代わりにするつもりなのか?

 だからってわざわざ抱きつかなくてもいいのに……


 しかしなんというか、晴子は柔らかいなぁ……

 って違う違う。何を考えているんだ俺は。これまでにも何度か抱きつかれたことがあるじゃないか。今さら動揺してどうする。


 あーもう! 

 晴子が変なことするもんだからアホな事を考えちゃったじゃないか。

 早く寝ないと。明日に支障をきたす。


 よし、いい加減寝よう。

 余計な事は考えずに目を瞑ればそのうち眠くなるはずだ。


 …………


 ……だ、駄目だぁ。眠れない。

 一度意識しちゃったらそればかり考えちゃう。


 密着してる部分が柔らかいし、いいにおいがしてくるし、吐息が感じられるぐらい近いし……こんな状態で寝れるかー!

 くそぅ。晴子のくせに、なんでこんないいにおいするんだよ……!

 女の子ってこんなに柔らかくていいにおいがするもんなのか?

 ……って、だから違うっての!


 やばい。ドキドキしてきて目が冴えてきた。もう寝る時間は過ぎてるってのに、こんな状態だと眠れないじゃないか。

 いい加減マジで寝ないと明日起きられなくなる。

 だからさっさと……


 あれ、足元に何か……これはまさか――


「お、おい! なんで足を絡ませてくるんだよ!?」

「べ、別にいいだろこれくらい……寒いんだし……」


 確かにこいつの足はひんやりしているけど、だからってここまですることないだろうに。

 というかどうして平気でこんなこと出来るんだろう?

 晴子だって元男だったんだから、男の俺に抱きついたまま寝るなんて嫌だと思うんだけどなぁ。本当に湯たんぽ代わりにしてるつもりなのか?

 というか今までで一番密着している気がする。半身が晴子の感触に包まれていて、もはや寝るに寝れない状態だ……


 そうだ!

 ならば外側に向けば少しはマシになるはずだ。

 さっそく体を動かして姿勢を変えて――


 …………


 って駄目じゃん!

 そうだよ。晴子に抱きつかれているんだから動けないじゃん!

 この状態だと横向きにすらなれないってことか。


 つまり朝までこのままか……


 ああもう……明日ちゃんと起きれるか不安だ……


 結局眠れたのは何時間か経った後になるのだった。

 翌朝。無事に起きれたのはいいけど、学校で何度も寝そうになったのは言うまでもない。


 ちなみに寝る場所についてだけど、部屋の配置を変えることで解決した。意外と面倒な作業だったけど、なんとか布団を敷けるスペースを確保することができた。

 これでようやく別々な場所で寝ることができる。さすがにもう一度添い寝するという事態は避けたいからな。なぜか晴子は残念そうにしていたけど。

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