第42話:頼れる親友①

 晴子の男性恐怖症はどうやったら克服できるのか。そればかり考えていた。

 のんびりしていると症状は深刻になるだけだ。現状だと1人で外出するのも一苦労しそうだしな。


 いや、まさか……あの日以来、一度も1人で家を出た事がないのか?

 ありえるな。それなら尚更治さなくては。出来る限り早く治してやりたい。でも無理にやろうとすればかえって悪化してしまうだろう。


 だったらどうすればいい?

 何かいい方法はないのか?

 今俺にできることは何だ?


 ……くそっ。思いつかない……

 無理せずなるべく早く治す方法。そんな都合のいいやり方が存在するのか?

 何か……何かいい方法は……無いのか?


 ええい! 弱気になるな!

 諦めちゃだめだ。そうだよ、俺が何とかするんだ。俺が動かないと晴子はずっとあのままなんだぞ。


 考えろ、何かあるはずだ……

 俺が今できる手段、あとは何がある……?

 どんなことなら出来る?


 …………


 ……そうだ。これなら……これならいけるかも。

 この方法に賭けてみるしかない。その為にはあいつらに協力してもらおう。

 そう思いスマホを手に取った。




 ある方法を実行するために、晴子と一緒にとある場所へと向かっている。ある方法とはもちろん男性恐怖症の克服させる方法だ。

 その場所には別の2人も呼び出しているが、今は教えないほうがいいだろう。


「な、なぁ……どこ行くんだよ……?」

「着けばわかる」


 晴子は外に出てからずっと俺の腕にしがみ付いたままだ。やはりというか、1人だと外出できないのだろう。

 こんな晴子をいつまでも放置していられない。このままだとまともに生活できなくなる。一刻も早く治してやらないとな。


 歩く事数分、目的地である某喫茶店に到着した。この喫茶店は女性店員が多く、今の晴子には負担が軽減される思ってここを選んだ。比較的静かで何度か利用した事がある。穴場というやつだ。


 中に入ると、俺が呼び出した2人は既には到着していた。

 その2人とは――


「おーい出久保。こっちだ」

「結構早かったね」


 そう。千葉と天王寺のことだ。2人は席に着いていて、俺達を見るとすぐ反応してくれた。

 俺の考えた方法にはこいつらの協力が不可欠なのだ。だからこそ呼び出した。


 2人がいる席まで移動して晴子と一緒に座った。しかし座った状態でも腕にしがみついたままだった。


「悪いな2人とも。急に呼び出したりして」

「いいってことよ! ちょうど暇だったしな。それに晴子ちゃんにも会えるしな!」

「すごく真面目そうな雰囲気で呼び出されたからね。困った事があるなら力になれるかもしれないって思っただけさ。あと晴子さんにも会えるし」


 欲望がダダ漏れだけど……まぁいい。来てくれたことに感謝しなくては。


「それにしても……晴子ちゃんいつもより元気ないな」

「うん。さっきからずっと静かだし。どうしたの?」

「…………」


 目の前で男2人に見つめられているんだ。晴子はすっかり萎縮してしまっている。


「あー、晴子がこんな感じなったのにはわけがあるんだ。実はな――」


 晴子がこうなってしまった理由を話した。

 男に襲われそうなったこと、それが原因で男性恐怖症になっていること、1人だとまともに出歩けないこと……

 話している間は2人とも真剣な表情で聞いていた。


「――というわけなんだ」

「な、なんて奴だ! 晴子ちゃんに乱暴するなんて許せねぇ!!」

「そうだよ! 女性相手に力ずくで言い寄るなんて最低だよ! これじゃあ男性に嫌悪感を抱くのも無理ないよ!」


 やはりこいつらに相談してよかった。晴子のことを本気で心配してくれている。いい親友を持ったもんだ。


「晴子ちゃん! 何かあったらすぐ相談してくれよ! 力になるからよ!」

「ボクも手伝えることがあったら何でもやるよ! いつでも協力するからさ!」

「う、うん……」


 前のめりで熱弁する2人。そんな迫力に晴子は男性恐怖症とは関係なく怖がってる気がする……


「気持ちは嬉しいけど少し落ち着いてくれ。晴子がおびえてる。つーか大声出すと迷惑だ」

「あっ、そうだったな……すまん」

「ご、ごめんね。熱くなっちゃって……」


 つい叫んでしまうほど親身になってくれているのか。本当にいいやつらだよ。


「それで、今日呼んだのはどういう用件だ?」

「晴子さんがこうなったのはよく分かったよ。でもそれだけじゃないんでしょ?」

「……晴子の男性恐怖症を克服させてやりたいんだ」


 これが本題だ。晴子を元に戻すにはこいつらの協力が必要だったのだ。


「そういうことか……」

「確かにこのままだと大変だもんね」

「ああ。だからなるべく早く治してやりたいんだ。だから頼む! 協力してくれないか!」

「「…………」」


 もしここで断られたら計画がつまずいてしまう。

 俺にはこれしか思いつかなかったんだ。

 もう他に手は無い。


 だからお願いだ。断らないでくれ……!


 しばらく沈黙が続き――


「おいおい。水臭いぜ。さっき言ったろ? 力になるって」

「うん。晴子さんのためだもん。何でも協力するよ。だからそんなかしこまらないでよ」

「お前ら……」


 2人の優しさに思わず目頭が熱くなってしまう。よかった、本当によかった。思い切って相談して正解だった。

 これなら……これならなんとかなるかもしれない!


 そう思っていた。

 だがしかし――


「別にいいよ……」


 声の主は晴子だった。


「は、晴子? どうしたんだ?」

「だから……そんなことしなくていい……」

「お、おい。いきなりなに言ってるんだよ?」

「オレには春日がいるし……なんとかなるだろ……」

「…………」

「だから……いちいち面倒なことしなくていいよ……」


 すっかり弱気になってるな……

 でも――


「晴子!!」

「――っ!?」


 突然の大声にビックリした晴子だが構わず続ける。


「自分でも理解してるんだろ? このままじゃ駄目だって」

「…………」

「それともずっと俺に頼るつもりか? なら俺が居ない間はどうするつもりなんだ?」

「だ、だけど――」

「怖いのはよく分かる。だけどいつまでもそんな状態だとまともに生活できないだろ」


 いつもの元気な姿に戻って欲しい。

 一刻でも早く治してやりたい。

 その為には何だってやってやる。

 だからそんな弱気にならないでくれよ……


「そうだよ晴子ちゃん。おれも協力するからさ。今はあまり信用できないかもしれないけど……でもおれは真剣なんだ。だから信じてくれよ!」

「やっぱり元気な晴子さんのが似合うと思うな。ボクじゃあ頼りないかもしれないけど、全力でサポートするからさ。だから頑張ろうよ」

「…………」


 2人とも必死に晴子を勇気付けようとしてくれているのが分かる。本当に晴子のことを大事に思ってくれているんだな。


「晴子」

「……?」

「……!」


 晴子なら……もう1人の俺ならこの気持ちも伝わるはずだ。

 こんなオドオドした晴子は見たくないんだよ。見てるこっちだって辛いんだ。以前のように元気な姿でいてくれよ。もうあんな怖い目には遭わせないからさ。

 だから頼む――



 それから晴子はうつむいて黙っていた。

 しばらくしてから顔を上げ、俺達を見回した。

 そして――


「分かった。オレ……頑張ってみるよ」

「晴子!」

「よっしゃ! そうこなくっちゃ!」

「うん! やっぱり普通に生活したいもんね」


 よかった……本人もその気になってくれたか。これでやっと実行することができる。

 さて、ここからだ。待ってろよ晴子。俺が……いや、俺達がなんとかしてやるからな……!

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