第4話:初めてのお買物

 ぐぅ~


 二人同時に腹の音が鳴った。時計を見ると、既に昼過ぎだった。


「なんか食べに行こうぜ。ついでに買物もしたいし」

「そうするか」


 出掛ける為に着替えようとした時だった。晴子が上着を勢い良く脱いだのだ。しかし下には何も着ていなかった。そうなると当然――


「なっ――バ、バカ! いきなり脱ぐなよ!」

「ん? どうしてそんなに慌てて……ああ、そういうことか」


 上半身裸の姿が目に入る。

 初めて見た時は戸惑っていてよく見ていなかったが、こいつの容姿は全てが自分好みなのだ。いくら中身が俺だと知って居ても、そんな奴の裸体を見たらドギマギしてしまうのは必然なわけで……

 そしてニヤケ面をする晴子。


「何だったら見ててもいいんだぜ?」

「ア、アホか! 見るわけねーだろ!」


 すぐさま背を向ける。


「そうか? 本人がいいって言ってるんだ。オレなら見るけどな」

「中身は俺なんだぞ! ナルシストみたいじゃねーか!」

「そりゃそうか」


 何でこいつはこんな性格してるんだよ……。性格の悪さだけ晴子に移ったのか?

 ……着替える音が生々しい。


「終わったぞー」


 後ろに振り向く。そこには、Tシャツにパーカー、ジーンズを履いた晴子が居た。俺の服装だ。

 何やら服を摘んだりして、考え事をしているみたいだ。


「んー……。やっぱ縮んでいるな」

「そうなん?」

「ちょっと背比べしてみようぜ」


 そして目の前に立つ。背を比べてみると、確かに晴子のが少し小さかった。

 女になったせいで全体的に縮んだのか?


「女になったから全体的に縮んでるらしいな」

「みたいだな」

「ま、この位なら何とかなるだろ。オレは着替え終わったし。春日もさっさと着替えてこいよ」


 そう言い残し、扉を開け、部屋から出て行った。

 すぐ着替えた後、玄関先で待っていた晴子と合流する。


 何歩か歩いた時だった。晴子が突然立ち止まったのだ。


「どうした?」

「……いや、気にするな」


 何歩か歩き立ち止まり、再び何歩か歩いて立ち止まった。


 ???

 こいつは一体何をしているんだ?

 晴子も中身は俺だから、考えている事は大体分かる。しかし、今こいつがしている行動はさっぱり理解出来なかった。


「……なぁ。ちょっと寄りたい所があるんだが」

「?」

「下着売ってる場所ってどこだっけ?」

「何で下着?」

「その、なんというかさ……気になるっつーか…………擦れるんだよ」

「擦れる???」


 自身の胸元あたりを触る晴子。


 ……?


 …………


 ああ! そういうことか! やっと理解出来た。

 擦れると言ったのは胸の事だろう。

 部屋には、ブラジャーなんて物は当然あるわけが無い。つまり、今の晴子はノーブラなのだ。

 なるほど。男には分からないはずだ。


「薄々思ってはいたんだが……やっぱブラは付けるべきなんだろうなぁ……」

「そ、その……元気だせよ」

「はぁ……」


 気持ちは分かる。今まで男だったのに、いきなりブラジャーを付けるとなると、かなりの抵抗があるだろう。


「確か、駅の近くにそれなり大きい店があったはず」

「……あーあそこか。先にそっち寄っていいか?」

「いいぜ」


 予定を変更し、先に晴子のブラジャーを買いに行く事にした。

 胸元を押さえながら歩いてた晴子は、浮かない表情をしていて、その足取りは重そうだった。




「オレさ、こんな店に入った事無いんだけど」

「俺だってねーよ」


 現在、二人して立ちつくしている。

 目の前には、ランジェリーショップ――いわゆる女性下着専門店があった。

 店内には可愛らしいパンツ、ブラジャーなどがが並んでおり、男一人だと非常に入りづらい光景だった。


「どうやって買えばいいんだ?」

「えーと確か、サイズとか測って貰うんだっけ?」

「オレに聞くなよ」

「お前女だろ! 何とかしろよ!」

「無茶言うなよ! 昨日まで男だったんだぞ!」

「そ、そうだったな」


 困ったな。このままではブラジャーを購入出来ない。肝心の晴子は役に立たないし………。ええい! 男は度胸だ!

 店内に入り、女性店員に話しかける。晴子の正体を隠しつつ、事情を説明し、見繕って貰えるように頼み込んだ。

 最初は怪訝けげんな顔をしていたが、すぐに営業スマイルに戻り、晴子を連れて店内へと入って行った。

 さすがプロだ。


 晴子が出てきたのは、30分以上経ってからだった。荷物片手に、少しやつれたような顔をして店から出てきた。


「もう大丈夫なのか?」

「……ああ。上は付けてる」

「上?」


 唐突にレシートを見せてきた。見ると、どうやらブラジャーとパンツのセットを買ったみたいだ。上と言ったのは、ブラジャーだけ付けたという意味だろう。

 ――ってまてまて。なんじゃこりゃ!


「た、たっけぇ!」

「すまん……」


 そこに表示されている金額に目が飛び出そうになる。何故なら、諭吉1枚だけだと足りない金額だったからだ。


「な、なんでこんな高いやつ買ったんだよ!」

「店員の人がすっげー薦めてきてな……。結構親切にしてくれたし、なんか断りきれなくて……」

「だ、だからって……」

「サイズは覚えたし。次からはもっと安いの買うよ……」


 …………………………さすがプロだ。

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