第3話:俺 VS オレ

 この女が俺だという事は良く分かった。しかしここで問題が発生する。それは名前に関してだ。

 二人が同じ名前を名乗ったら、非常にややこしいことになる。

 という事で、名前を考えようとしたのだが――


「お前の名前はどうするよ」

「えっ、オレが変えるのか?」

「そりゃそうだろ。元は男の俺の名前だからな」

「ふざけんな! オレだって男だぞ!」

「今は女だろうが」

「そ、そりゃそうだけど……」


 まぁ、気持ちは分かる。ある日突然名前を変えろ!なんて言われたら俺なら拒否する。うーん、どうするか……

 ふと、床に落ちているゲームのパッケージを目にする。これだ!

 そのパッケージを手に取って見せた。


「これで負け越した方が名前変えるってのはどうだ?」

「……いいだろう」


 手に持っているのは、格闘ゲーム――格ゲーと言われるジャンルだ。こいつも俺なんだから実力も互角。いい勝負になるはずだ。

 さっそく、ゲーム機のスイッチを入れ、コントローラを手に取り、強く握った。




 つ、つまんねえええええええ!

 いい勝負どころじゃない……いい勝負すぎる・・・・・・・

 使用キャラクターはもちろんの事、動き方、コンボ、更にはコンボミスする所まで一緒だったのだ。するとどうなるか?

 勝ったり負けたりはするものの、どれも試合展開が似たり寄ったりなのである。これでは普通にじゃんけんするのと大差ない。


「なぁ。止めようぜ」

「そうだな」

「……オレが名前変えるわ」

「……悪いな」


 んで、名前を考える事にしたのだが――


「と言っても何にするよ」

「そうだな…………春日子ってのはどうだ?」

「安直すぎるだろ」

「じゃあお前が考えてみろよ」

「う……えっとそうだな……カスガコは?」

「一緒じゃねーか!」


 駄目だ……中身が一緒なせいで、思考まで同レベルだ……。二人居るのに一人で考えてるようなもんだ。


「んーと……そうだな……。春日子から日を取って……じゃあ春子はどうだ?」

「ふむ。悪くないな」

「このままだとあれだから……少し変えて……」


 紙とペンを取り、そこに『晴子』と書き、見せた。


「これでどうよ?」

「……へぇ。いいじゃんそれでいこう」


 という事で、もう1人の自分の『出久保 春日でくぼ かすが』は『出久保 晴子でくぼ はるこ』となった。


「よろしくな。『晴子』」

「おう、よろしくな。『春日』」

「……なんか変な気分だな」

「だよなー」


 互いに笑う。と思ったら突然、晴子がニヤリとした表情を浮かべた。


「それとも『お兄ちゃん』のがよかったか?」

「…………」

「冗談だよ。そう睨むなって」


 おい、こいつ性格悪いぞ。


そんな時だった。スマホが震えて音鳴ったのだ。たぶんメールが届いたんだろう。

確認しようとして手を伸ばすが……


「「あっ……」」


2人同時にスマホに掴もうとしてお互いの手が重なったのだ。


「……ああそっか。スマホは1つしかないもんな。つい癖で……」

「とりあえず俺が使っていいか?」

「いいぜ。頼んだ」


というわけで俺がスマホを操作することに。

画面を見てみるとやはりメールが届いたみたいだった。

どれどれ……


「んー……オレも見たい……あ、そうだ」


晴子がブツブツと言った後、後ろから顔を覗かせてきたのだ。


「お、おい……何してるんだよ」

「だってオレも見たいもん。スマホ1つしかないからこうするしかないだろ」

「後にしてくれよ。すぐ終わるからさ」

「いーじゃんかよ。オレにも見せてくれよ」

「だから後で渡すから――」


ムニュン


「……? どうした?」


 この背中に当たる柔らかい感触は……まさか……


ムニュン

ムニュン


「何で急に黙るんだ――ははーん、そういうことか」


 ムニュンムニュンムニュン


「お、おい! 何してるんだ!」

「当ててるんだよ」

「なっ――」

「こういうのも好きだったもんなぁ?」


 くそっ。やっぱり性格悪いぞ。

どうなって――いや、こいつは俺だったな。ということはつまり……周囲から見たら自分はこういう性格をしてたってことか?

 ……今度から気をつけよう。


「人の振り見て我が振り直せ。だな」

「俺の思考を読むんじゃねえ!」


 そうか……こいつには隠し事が出来ないのか……

 結局一緒にスマホを見る事にした。

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