ep16.地下貧民街のギャング2

■後神暦 1325年 / 秋の月 / 天の日 pm 11:00


――バベル 中層無法地帯ロウレスライン 柘榴鼠シーリュウスウ拠点


オオ、戻ったカ白猫バイマオ。どうダ、接触できたカ?」


「……はい、何だか思ってたより良い人たちそうでした」


? オイオイ、絆されるナ」


 リェンさんが立てた計画は僕がグラディオ・イーシスに接触してある程度信頼関係を築く、その後にダミーの別倉庫を大人数で襲撃させて一網打尽にする。

 下層街に出てきた者なら地下貧民街アンダーグラウンドに干渉しないマフィアの協定にも違反しない、らしい。

 その為に幾つかの彼らに有用な情報をリークして信頼を得るのもミッションに含まれる、もちろんその情報もダミーだ。



「もし、彼らを下層街に釣り出せたとして、その後はどうなるんですか……?」


「聞きたいカ?」


 そう言ったリェンさんの表情かおは、笑顔ではあったが酷く冷たく感じた。

 どれだけ友好関係を結べたとしても彼女らはマフィアなのだ、裏の道を生きる者なのだ、それでも……



「……彼らを捕えたらまず言い分を聞いてください。どうするかの判断はその後にすることを約束してください」


「我々ハ舐められタラ終わりダ。やられタ報いハ受けさせル」


「じゃあ僕はもう協力しません……」


 仮に、ここで暴力に訴えられたら僕は勝てない。

 それなりに武装していても、almAを連れていない今は柘榴鼠シーリュウスウに太刀打ちできるはずがない。

 それでもここで退いたら僕の心のモヤモヤは晴れることはなくなる。



「無理やり協力させルことも出来るんダゾ?」


「……なら死力を尽くして抵抗します。

もし僕の家族に手を出そうと考えてるなら、刺し違えてでも柘榴鼠シーリュウスウをここで壊滅させます」


 リェンさんから眼を逸らさず拒否の意を伝える、言葉も強いものを選んだ。

 地下貧民街アンダーグラウンドから編成を変えずに来て良かった、詐欺師スウィンダラー編成の力ちからがなければ動揺が顔に出てしまっていただろう。


 暫くの睨み合いの後、突然リェンさんがニヤリと表情を変えた。



「…………ッ、哈哈哈ハハハッ! 冗談ダ、元々白猫バイマオの意見ハ聞くつもりだっタ、何か感ジ入るモノがあったのだロウ? お前ノ勘を信じるゾ。それニしても……ッ、中々凄むじゃないカ、哈哈ハハ


「…………」


「お嬢様、白猫バイマオに謝っテあげた方が良いでスワ。からかうのは加減をしないといけまセン。ほら、プルプル震えて涙目で睨んでるジャありませんカ」


 何だこの二人……マフィアジョークは一般人には笑えないんだって!

 ジズさんもそれはフォローじゃなくて煽りって言うんだぞ?

 絶対に許さない、ラオばあちゃんに言いつけてやる……拳骨げんこつ喰らって泣いてしまえ!!



 茶化されはしたが約束はとりつけることが出来た。

 翌日から僕はグラディオ・イーシスに会いに何度も地下貧民街アンダーグラウンドへ足を運び、時にはダミー情報を渡して小さな倉庫の襲撃にも加担した。


 初めは嫌々受けた依頼だったけど、結果受けて良かった。

 何故なら思った通り彼らは”良い人”だったからだ。


 特にグラディオ・イーシスのリーダー、馬人族ばじんぞくの青年フィエルテはギャングとは思えないほどの人格者、襲撃の件だって理由が在るはずだ。

 そんな彼と彼の仲間を生き残らせるには約束をとりつけた今回の計画で彼らを捕まえるしかない。


 もし失敗すればグラディオ・イーシスに待っているのは破滅だ。

 今回がダメでも柘榴鼠シーリュウスウは絶対に彼らを逃すことはない。

 出会って日は浅いが、リェンさん、いや、マフィアが恐ろしいものだと僕は知っている。

 その恐ろしい存在が、当初は『襲撃者に報いを受けさせる』と言っていた。


 フィエルテたちを騙していることは気が咎めるが、彼らの生存の為だと自分を言い聞かせて日々を過ごした。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1325年 / 秋の月 / 海の日 am 02:00


――バベル下層街 柘榴鼠シーリュウスウ保有の倉庫付近


「ジェーン、あの建物だな?」


「うん、娼館のお姉ちゃんがお客さんに聞いたって言ってた。かなり沢山の物資があるらしいよ、薬もあるって羨ましがってた」


「そうか、確かにあの大きさならあり得るな。みなを連れてきて良かった、あれはグラディオ・イーシス総力で当たらなけばならない規模だ」


「フィエルテ、あれ見て、あそこの高台に多分見張りいるよ。僕が潰してくる」


「そうか、お前の勘は頼りになるからな。今度こそ十分な薬を手に入れて姉君を助けよう」


 僕はグラディオ・イーシスから離れ、近くの高台に登り彼らに合図を送る。

 もちろん見張りなんていない、嘘を吐いた。


 暫くすると倉庫から多数の怒声と金属がぶつかる甲高い音が高台ここまで聴こえてきた。



「覚悟はしてたけど、やっぱり嫌な気分だよ……誰も死なないで欲しいな……」


 音が収まり倉庫へ向かうと、彼らは柘榴鼠シーリュウスウに制圧されていた。

 番狂わせなど在るはずもなく、みな手足を拘束され一か所に集められている。


 フィエルテは僕を見つけると『逃げろ』と言ってくれたが、平然としている僕に全てを察したようだ。



「……そうか、余はまた騙されてしまったか」


「ごめん、フィエルテ……」


 項垂れる彼の代わりにとグラディオ・イーシスのメンバーが僕を”蝙蝠女”と罵倒する。

 言い返すつもりはない、理由はどうあれ騙したのは事実だ。


 彼らの気が済むまでそしりを受けようと思っていたが、罵倒ソレは長くは続かなかった。

 リェンさんが初めに声をあげた者へ近づき、手首の拘束を解いて指を一本切り飛ばしたからだ。


 その酷く冷たい瞳はラミアセプスを彷彿とさせ、彼女を止めたくても足が前に動かない。



「喚くナ。お前ラが今生きていられルのは、白猫バイマオがお前ラの言い分ヲ聞くようにワレに要求したからだゾ? 言いたいことハ罵倒ソレでいいのカ?」


「……違う、酌量の余地があるならば話をさせてくれ、余はまだ死ねんのだ」


 僕のいる倉庫の入口から離れた場所でいき、リェンさんと話をするフィエルテを祈るような気持ちで見守った。距離があり内容は聞き取れない、しかし段々とリェンさんの語気が強くなり、最後には僕の知らない言葉で怒鳴り、転がっている倉庫の物資を蹴り飛ばした。


 祈りは届かなかったと絶望したが、リェンさんはフィエルテに対して激昂しているワケではないとすぐに分かった。



******バベルスラング!! ジズ! 兵ヲ集めロ! 地下貧民街アンダーグラウンドに行くゾ!! チョンバイも呼ベ!!」



「落ち着いてくだサイ、協定を破るのハ不味いでスワ」


ッ! 先ニ破っていル奴が居るのニ遠慮すル必要などナイ!」


 僕たちの元へいつもより速い歩調で戻ってくるリェンさんの顔は、先ほどの冷徹な表情ではなく、煮えたぎる怒りを湛えている。ともすれば一人で駆け出して暴れ出してしまいそうだ。



白猫バイマオ! お前も来イ!!」


「ふぇ?」


「ルパ・リンチェ狩りダ……!」


 今の彼女はピンを抜いたグレネードのようにいつ爆発してもおかしくない。

 ジズさんも手に負えないと判断したのか、部下に急いでチョンバイさんを呼びに行かせたようだ。



 こんなにキレてるリェンさんは初めてみたよalmA。

 僕は浮かぶ多面体がいないことが心底不安で仕方がなかった。


【フィエルテ イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093073354332950

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