ep11.奇跡の特効薬1
■後神暦 1325年 / 秋の月 / 空の日 pm 09:00
――バベル
娼館まで迎えに来てくれたジズさんに連れられ再び
(お嬢、大丈夫なんだよな……?)
(大丈夫、昨日僕も来たけど、ちゃんと生きて帰れたよ。あ、でもレイコフさんの名前は出さないでね、下手したら殺されるかもしれないよ)
(なんでだよ……!?)
部屋までの通路でザックと小声で会話をする。
恐らく此処で注意するべきは”レイコフさんの名前を出さないこと”、これに尽きると思う。
部屋に通された僕たちに花茶を出される、昨日と同じだ。
ただ違うのは今回は緊張をしていないのでお茶がとっても美味しい、ジャスミンの爽やかな香りが鼻を抜ける。反面、ザックはお茶を一口飲んだ後は湯呑の水面をじっと見つめ微動だにしない。
まるで昨日の僕みたいだ。
可哀想に、きっとお茶の味なんて分からないだろうね。
「待たせたナ」
「いえ、連日すみません」
「…………」
「お前……今小さいと思ったダロ?」
「――!! そんなこと思ってねェです!」
本当に毎回言ってたんだ……この後、ジズさんに諫められてむくれるまでがセットなんだね。
きっとザックは生きた心地がしないだろうなぁ、分かる、分かるよぉ。
「それデ、薬の件と言ってたナ」
「はい、先ずは謝罪させてください。昨日は薬を取り扱っていないと言いましたが、本当は作る時間が足りなかったんです、申し訳ありません。ですが、その問題を解決できそうなので改めて伺わせて頂きました」
「
「彼、ザックが居れば可能だと考えています。ただ、材料もですが、ある程度の広さがある作業場が必要になります」
「
思った以上に話が早く進み、作業場の条件をチョンバイさんへ伝え、僕たちはまたジズさんに案内されて下層街に戻った。
ザックに事前にもう少し情報をよこせと恨み言を言われたが、僕も本当に毎回同じやり取りをしていることは予想外だったんだ。
~ ~ ~ ~ ~ ~
――翌日 バベル下層街 作業場
「いくら何でも早すぎない……?」
「オレ、朝に心臓止まるかと思ったんだけど……」
正午前の下層街、僕たちは昨晩に
半日経たずに物件を見つけてくるのも驚きだが、それ以上に朝起きたら目と鼻の先にジズさんの顔があったことの方が衝撃だった。ザックはチョンバイさんに起こされたそうで、彼が今言った『心臓が止まるかと思った』とは然もありなんだ。
「どうでスカ? 棚ヲ沢山置ける開けた広い部屋、施錠できる個室、条件には合致していると思いまスワ」
「はい、完璧です。
こんなに早く見つけて頂けると思っていませんでしたが、さっそく今日から作業に取り掛かります」
「材料も用意してますぞ。それにしても……本当にコレで良いのですかの……?」
「材料も!? ありがとうございます。コレが沢山必要なので助かります!」
チョンバイさんが
彼に持ってきてもらったのは食べ物に生えた青カビ、
生物由来だから当たり前なのかもしれないが、この『殺す力』にも個体差がある。
先ずやるべきは、なるべく強い青カビを探す。
某ゲームの個体値厳選ともガチャとも言えそうな運と根気のいる作業だけど、ザックならこれを短縮できる。
「菌の培地は僕が作るから、ザックは腐化で菌をどんどん増やして。カビもお願いね」
「分かった、けど……本当にこれで薬作れるのか……?」
眉をひそめるのは分かるけれど、ここは信じてもらうしかない。
僕は前日に作っておいたシャーレの滅菌処理をして培地を作り、ザックの皮膚を削って少しづつ乗せていく。
腐化の魔法で増えていく菌についてザックにこれは何かと聞かれ、『お腹を壊す原因になるちっちゃい生き物』と答えたときは心底嫌な顔をしていた、誰しも持っている菌だから落ち込まないで欲しい。
「お嬢……これに何の意味があるんだ?」
「うーん、僕も上手く説明できないから、
培地に乗せたカビを中心に繁殖したブドウ球菌がみるみると退いていく。
本来なら数日かかる検証結果が魔法で加速されていく様は、まるで早送りの映像を見ているようだ。
「カビがちっちゃい生き物……ブドウ球菌って呼ばれてるんだけど、その菌を倒してるんだよ」
「マジか……じゃあ、カビを食わせれば良いのか?」
「ううん、そんなことしたらお腹壊しちゃうよ。
単離って言うんだけど、カビから菌を倒す力だけ取り出すことができるんだ」
単離は幾つかの工程が必要になる。
1.先ず培養したカビの培養液をこして液体だけ取り出す。
2.次に取り出した液に油を加えて
3.上澄みになった液体(油溶性・不溶性)を捨て、残った液体に活性炭を入れる。
この工程で炭にペニシリンが吸着する。
4.炭を取り出して、純水で洗い、酸性水を通す。
5.最後にアルカリ性水に入れて、ゆっくりと綿などでこした液体を少量づつ滅菌した瓶に詰める。
溶液の濃度など注意点はあるが、編成の力で
「やること多いな、覚えれっかな……?」
「最後の液体の順番が一番大切だからそこから覚えよう。何回も繰り返すことになるからきっと大丈夫だよ、頼りにしてるねザック」
他に用意しないといけないのは、注射器や点滴。
やると決めたからには
奇跡の特効薬、ペニシリンを必ず作るんだ。
誰かの力を借りる、大事なことだねalmA。
僕は浮かぶ多面体にいつも助けてもらっていることに感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます