ep8.階層都市バベル4
■後神暦 1325年 / 秋の月 / 天の日 pm 09:00
――バベル 下層街 娼館フェーリン
「あの……このお金なんですか?」
「ミーツェ、わっちに雇われなんし」
予想と違う……”雇われてくれないか?”ではなく命令形なんだ……
荒事に対処する従業員はいると思うんだけど、何で僕まで狩り出されるんだ?
「どうして僕なんですか?」
「
「んぐっ……わかりました……」
カプリスさんは袖で口元を隠して悲しそうに眉を下げ流し目で僕を見つめる。
不安だと言うのは絶対に嘘だと解っていても、断ることができない……
何故だかここで断ることは屑の所業、そう錯覚してしまう。
これが百戦錬磨の女性の手練手管か……僕、怖いです……
そうして諦めて席を立つ。
「暴れてるのはソシオでしょうから、ピエタさんはここに居てくださいね」
「では、いきんしょうか」
和室を出て怒声が飛び交うエントランスへ向かい、2階の通路から階下を見下ろした。
思った通りソシオが喚き散らしていたけれど、今回は取巻きを連れているようだ。
服は汚れや破れが目立ち、それなりの服を着ているソシオとは身なりにギャップがある。
「
「そんなに顔に出てました……?」
心を読んだかのようにカプリスさんが違和感の正体を教えてくれた。
不意に内心を言い当てられるのはドキッとするものだ。
僕の問いに彼女は人差し指を顎に当てクスクスと悪戯に笑う。
「さてミーツェ、あいつらを蹴散らしておくんなんし」
「やっぱり護衛じゃなかったんですね……」
「
「……物壊しても怒らないでくださいよ?」
良いように使われてる気はするけど、今回は特に警戒しなくても良さそうだ。
何故なら、フェーリンのガードマンとの戦い方を見てもゴロツキたちに脅威を感じない。
彼らを甘く見てるつもりはないけれど、
「せっかくだし、コレの練習しようか。行こうalmA」
僕はサックから手に収まる程度の大きさの鉄球を二つ取り出した。
一つの重さは大体2kg強、投げつけても十分に危険だけれど、コレの使い道はそうじゃない。
「上手くできれば良いんだけど……」
――”
限定キャラ”レムレイス”のスキル。
一度発動すれば永続スキルなうえ、カバー範囲がかなり広い。
ゲームでは一時期使用率が異常に増え、所謂『おりゅ?』を引き起こしたぶっ壊れだ。
二つの鉄球が重力を無視し、僕の周りにフワフワと浮かび追従する。
両手を空けて戦えるこの戦法は今まで何度も使おうと思っていた。
だけどスキルを使いながら両手を使うのは脳の処理が追い付かず諦めていた。
感覚としては四本の腕を動かすような感じなんだ。
「先ずは鉄球だけの操作で練習がいいかな。almA、僕を護ってね」
almAに跨ったまま階段を滑り降り、一番近くにいたゴロツキの
次は遠くに飛ばして、引き戻すように別のゴロツキの後頭部に叩きつける。
段々と実戦のコツを掴めてきたが、どうにも自分の腕も一緒に動かしてしまう、傍から見れば何もないところで腕を振り回ている変人に見えてしまうかもしれない……
「ほっ! よっ! うーん……難しいね……」
ゴロツキたちも応戦してくるけれど、甘い甘い、激甘だね。
角材やナイフなんかでalmAを突破できるワケがない。
的当て感覚で練習をしているうちに、いつの間にか彼らは倒れ、気づけばソシオ一人になっていた。
戦うことを人任せにしてたので、スキルの射程に入らなかったようだ。
もう一人後ろにいたが、途中奇声を上げて何処かに行ってしまったので追う必要もないだろう。
「で、どうするの? もうアンタだけみたいだよ?
「また邪魔しやがって……俺はメドヴェージだぞ!? 終わりだよ、お前」
「メドヴェージ……!? ……ってなに?」
「あぁ言ってしまいんしたねぇ~。ジズ様、聴こえんしたか?」
メドヴェージとは何なのか、ジズ様とは誰なのか、完全に話に置き去りの僕をよそにカプリスさんは不敵に笑う。そして一拍置いてエントランスに面した部屋の扉を開けて長身の熊人族の女性が現れた。
鮮やかな紫の髪やキツめの目元が印象的だが、それ以上に服装に目がいってしまう。
……どう見てもチャイナドレスだ。
「えぇ、聴きましタワ。お前、メドヴェージと言ったナ? ウチの縄張りで好き放題してくれたことはお前のとこの親にしっかりとワケを聞かないとナァ?」
「ジズ……もしかして、ジズ=シュオン……?」
「おやぁ~、木っ端でもやっぱりジズ様は知っていんすねぇ」
「ひぃぃいぃぃぃいぃ!!」
先ほどまで威勢の良かったソシオが急に怯え、脱兎の如く娼館から逃げ去っていった。
全く話が読めないが、ジズ様と呼ばれた人がとんでもなく恐れられてることだけは分かった。
取り合えずソシオも逃げたことだし、僕も早く退散した方が良さそうだ。
「じゃあ、僕も帰りますね。almA、行こう」
「待ちなサイ」
「ですよねぇ……」
ずんずんと近づいてくる熊人族の女性……
180cmをゆうに超え、目の前に立たれると首が痛くなりそうだ。
それに纏う威圧感は身長こそ真逆だが、ヨウキョウで出会ったユウちゃんさんが本気で戦っているときのそれだ。
僕、超怖いです……
「あの……何か御用でしょうか、僕、さっきの男とは関係ないんですが……」
「分かっていまスワ。貴女、娼婦たちの為に商品を卸している商人ですワネ? 材料さえ揃えれば様々な物を用意すると聞いていマス」
「うふふ、ご免なんし、ミーツェのことは話しんした。ジズ様は
メイグロウさんの嘘つき!! フェーリンは黒い噂がないって言ってたじゃん!!
がっつりマフィアと繋がってるんだけど!? どうすんのコレ!?
「これから
「え……? うそうそうそ……!」
ガッチリと肩をホールドされた僕の体は押されるがままにフェーリンの入口に進んでいく、踏み止まってもブーツの踵が虚しく削れるだけだ。カプリスさんは僕を助けるでもなく、むしろ笑顔で手をひらひらと振っている。
「やだー! やだやだやだー!!」
助けて! 助けてー! almAー!!
僕は随伴する浮かぶ多面体に心底助けを求めた。
【ジズ イメージ】
https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818093072858836440
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