ep15.転移者vs転生者

エスト …… 29.7%

ツツミコト …… 24.8%

**** …… 20.5%

****** …… 24.9%

****** …… 00.0%



『エスト、エスト!! またバグが暴れてるぞ!!』


『最悪です……何で私に影響があるところでばかり暴れるですか!?』


『元々ぬしの駒なのにの、哀れ哀れ』


『前の提案に乗らなかったこと根に持ってます?』



 ~ ~ ~ ~ ~ ~



■後神暦 1325年 / 夏の月 / 黄昏の日 am 03:30


――オーレリア中枢区 門前


 考えろ……

 まず僕がウォークに勝った場合はラミアセプスが彼を殺す――却下。

 次に僕がウォークに負けた場合は僕がウォークに殺される――却下。

 最後は二人でラミアセプスを無力化する、出来るわけがないので却下。


 全然ダメだ、どれも詰んでるよ。



「いくぞ咎猫とがねこ!! ――剣の七重奏ブレイド・セプテット!!」


 ウォークは魔法で生み出した七本の剣から二本を手に取り、残りを空中に待機させた。


 剣を構えた彼はこちらに斬りかかってくるが動きが素人だ。

 もちろん僕も素人ではあるが、今までずっと編成から外したことのない”オルカ”のお陰で剣技は軍人にも遅れを取ることはない。


 彼が振るう剣は問題なく捌けるけれど、浮いてる剣が気になる。

 もしかして遠隔で飛んできたりするのかな? だとしたら相当厄介だ。

 それにラミアセプスは僕が手を抜いてると判断したらウォークを殺すと言っていた。

 アイツなら本当にやる。どうにか時間を稼ぎながら打開策を考えないといけない。


 ウォークの大振りの一撃をほんの少し横に跳んで躱し、持ち手を蹴り上げて剣を手放させた。彼を追従する剣を警戒して一度距離をとり出方を窺ったが、次の行動は予想をしていたどれとも違った。


 待機させていた剣を手に取り、再び二刀流の構えに戻ったのだ。



「え、待って。もしかしてその浮いてる剣って予備なの?」


「当たり前だろ!」


「アハハハハハ!!」


 きっと大真面目なのだろうけれど、特に時間をかけずに剣を生成できてたのだから手放したときにまた作れば良いのではないか?

 今回は魔法名の意味は通ってるけれど用途がおかしな方向に向かっている……

 ラミアセプスもツボに入ったようで大爆笑だ、あんなに笑ってるところは初めて見るかもしれない。


 楽しんでるのは結構だけど、これはマズいぞ。

 これって手加減してもしなくてもウォークは死んじゃうよ。

 どうにか死なないように僕が負ける方法はないか?


 ――……いや、ちょっと待てよ。


〈ねぇ、身体を麻痺させる魔法とか使えないの?〉


〈戦いの最中に話しかけるな!!〉


 ウォークの剣撃を捌きながら日本語で僕の考えを伝えようとしても、余裕のない彼は聞いてくれない。それでも今のところお互い生き残る方法はこれしかない。



〈いや、ちゃんと聞いてよ。死にたくないんでしょ?〉


〈当たり前だ!〉


〈だったら質問に答えて、麻痺系の魔法使えるの? 使えないの?〉


〈使える!!〉


 よし、それならいける。

 アイツは確かに僕が動けなくなればウォークの勝ちって言ってた。

 ”殺したら勝ち”とは一言も言っていない。



〈思い出して、アイツは僕が動けなくなったら君の勝ちって言ってた。だから身体を麻痺させる魔法を僕に撃って。避けないで受けるから〉


〈……わかった〉


〈ただし、麻痺だって分かる名前にしてね。意味わかんない魔法名だったら躱すから〉


 作戦を伝えることができたので今度は機会を作る。

 ウォークの剣を二本とも弾き落とし、ついでに蹴り飛ばして強制的に距離を取った。

 後は彼が上手くやってくれればデスゲームを切り抜けられる。



「喰らえ……麻痺の夜想曲パラライズ・ノクターン!!」


 だからなんでいちいち楽曲に結びつけるんだ!?

 素直に”麻痺パラライズ”で良いだろう!!

 いや違う、次は僕が自然に受けないといけない、集中しろ。


 飛んでくる魔法を身を捩って躱すフリをし、肘から下のない右腕でワザと受ける。

 腕の感覚がいつもと違い躱すのに失敗した、そんな演技をしたつもりだ。

 後はウォークが勝ち名乗りをすれば終わり……ってあれ?



「ンフフ……」


 気持ち悪い、これ麻痺じゃない……毒だ。

 やられた……ウォークは僕を信じてなかったんだね……


 口の中が鉄臭い、内臓のどこかは知らないが出血してるのだろう。

 散々考えが足りないと思い知らされたのにまたやってしまった。



「続けて喰らえ……――獄炎ヘルフレイム協奏曲コンチェルト!!」


 あぁくそ、ニヤニヤしやがって……

 アイツの善性を信じてた僕がバカだったよ。


 今更になって覚悟が決まった、やらなきゃやられる……!!


 僕は今までずっと打撃武器を使ってきた。

 刃物で獲物を仕留める時に血が飛ぶのを嫌ってたからだ。


 それは”オルカ”を編成しても本領を発揮できないこととイコールだった。でも今は違う、スキル発動条件の”剣”を持っている。


 僕がずっと頼りにしてきた”オルカ”の本当の力を見せてやるよ……――



「……覚悟しろ、深い深い海のおとを聴かせてやる」


 ――”強化ブーステッド戦闘技能コンバットスキル 深海の哀歌アビサル・エレジー


 高倍率の火力スキル、でもこのスキルの真価はそこじゃない。

 遠距離攻撃だろうがステルスだろうがシールドだろうが全てを叩き斬る。

 どんな相手でも無条件で小細工なしの斬り合いに引きずり込むギミックブレイカーの大技だ。


 楽曲に結び着いたスキル名なのがアイツと同レベルみたいで癪だけど、そのふざけた魔法ごと斬り伏せてやるぞ……



「おぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!」


 海のように蒼く波打つ半透明のオーラを纏い刀身以上のリーチを獲得した僕の剣は、ウォークの膨張する火球を縦に切り裂き両断した。


 ――このまま突っ込んで手足を斬り飛ばしてやる。


 そう思ったが身体が限界のようで脚がついてこない。

 それでもここで攻めなければ負けてしまう。

 僕は最後の意地で驚愕するウォークに向かって剣を投げつけた。


 それが命中したのかは分からない。

 ただ、意識が飛ぶ直前に不快な悲鳴とラミアセプスの声だけが聞こえた。



 ――ンフフ、良い教訓になったかしらぁ?



 ~ ~ ~ ~ ~ ~


 ■後神暦 ????年 / ?の月 / ?の日 ?m ??:??


 ――????


 スペア機 ノ フォーマット開始…………完了


 最終バックアップ ヲ インストール…………完了


 支援機 トノ ペアリング…………完了


 再起動リブート 開始……

 …

 ……

 …………

 ……………完了 起動シマス


「a……lmA……?」


 ずっと会いたかったalmAに会えた安堵で僕はまた気を失った。

 僕が覚えている最後の記憶は浮かぶ多面体だった。


深海の哀歌アビサル・エレジー イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/kinkuma03/news/16818023213463362466

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