貝塚探偵と狐

@wacpre

「むかしばなし」

 これはこの頃になると毎年思い出す、貝塚探偵事務所に依頼しに行ったときの話です。


『足も出ない手も出ない。そんな貴方のお悩みを口先だけで解決してみます。』そんな謳い文句に引かれて、まだ若かった私たち夫婦が向かった先はとあるお屋敷。呼び鈴を押すと着物を着た方が出迎えてくれました。無言のまま案内された和室には座卓、座布団、少し高めのソファー、そこに鎮座する生首。

「ようこそ、私こそが探偵、貝塚さ。筥崎くん、彼らにはお茶、私にはアイスコーヒーを。砂糖多め、もちろんストロー付きで頼むよ。おや、立ったままじゃなく、まずは座ったらどうだい?正座が慣れていないなら、もちろん足を崩してくれて構わないとも。」

想像よりも低めの声で私たちに挨拶をしたくれたのは、ネットでは首塚と揶揄されているとても綺麗で長い黒髪の生首探偵さんでした。


先程の着物の方がお茶を運んできた頃に金縛りがとけたかのように座った私たちは、堰を切ったように事情を話し始めました。地元の神社での夏祭りに出かけたまま子供が帰ってこない、警察の捜査は3ヶ月も進展がない、是非とも探してほしい、と。

「良いとも、良いとも。私たちに任したまえ。1ヶ月ぐらいで調査結果をお伝えできると約束しよう。もちろん何も見つかりませんでした、なんてことは言わない。なんらかのカタチで、だ。どうだい?」

そうストローでコーヒーを啜る首塚、もとい貝塚探偵にはよくない噂もありましたが、藁にもすがる思いでやってきた私たちはお願いすることにしました。

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