第18話 発光

 夕日が傾き始めている。街の時計は既に五時半を指していた。


「食べたことだし、そろそろ帰ろうか」


 青山先輩はカバンを担いで言った。私たちも続けて立ち上がる。

 今日は何事もなく済んでよかった……。久しぶりに遊んで楽しかったし。ヴァイスも連れてきたら良かったかな。

 私たちが店を離れてからしばらく歩いた頃。私たちの通信装置の警告音が鳴り響く。


『付近に怪人が出現。出動できる魔法少女はすぐに現場に向かうこと』


 さよなら、私の平穏。地図ではこの近くの家電量販店の辺りに怪人が出ているようだ。先ほどの決心を胸に、私は怪人のいる場所へと向かう。


 ☆


 家電量販店の前の狭い通路。そこを通り抜けながら、怪人を探しだす。市民は避難を終えているようで、人の姿は全くなかった。だが怪人も見つからない。


「どこにいるの……?」

「油断しちゃいけないよ」


 と青山先輩は言った。私はシュバルツを構え、敵の襲撃に備える。

 先輩の言う通り、油断は禁物だ。どこから敵が出てくるか分からない。そう、上から来るかもしれないのだから。

 狭い間を通ってガラスの塊のような物が飛び降りてきた。着地した地面にはヒビが入っている。


「あたしは電球女! あんたらを消し飛ばしてやる!」


 そう言って、蛍光灯のようなステッキを構え、電撃で攻撃してきた。魔法陣から雷のビームが飛び出る。


「喰らいなさい!」


 不規則に動き回る電撃に翻弄される。真っ直ぐ飛んでくるものもあれば、突然進路を変えるものもある。電撃が当たると、その跡は焦げついていた。


「【ウォータービーム】」


 青山先輩も応戦する。水の球と電撃がぶつかり合って相殺した。


「琴音、私たちも行くぞ!」

「はいっ!」


 赤澤先輩に続いて相手の懐に突撃する。彼女は素早く後ろに回り込み、私は前から全力の攻撃を叩き込む。


「【パワースラッシュ】!」

「【フレイムソード】!」


 同時に攻撃を喰らっては相手も耐えられまい。そう思って大きくシュバルツを振りかぶるが、相手の厄介な技が私たちを妨害する。


「【フラッシュ】!」

「うわ!」


 突然まばゆい光を放ってきた。咄嗟に目を閉じる。

 その隙に敵は大きく距離を離してしまった。


「ううっ……、目がチカチカする……」


 私は目を抑えながら立っていた。あまりの眩しさに立ちくらみがする。


「琴音! 大丈夫か?」


 赤澤先輩が心配してくれる。そうは言うものの、先輩だって無事ではないはず。


「先輩こそ……、大丈夫ですか?」


 私は少しずつ目を開けながら赤澤先輩に尋ねる。先輩はしばらく目をぱちくりさせていたが、ようやくそれが直ってきたようだ。


「大丈夫。次こそは倒すぞ!」


 いつもの元気な赤澤先輩に安心する。

 さて、ここからどう出るか。近づいて攻撃するのは難しいとなると、遠距離から攻撃したい。私には飛び道具がないので、青山先輩に頼り切りになるのでは……。


「奈々美、あれだよ」


 青山先輩が視線を送る。赤澤先輩は無言で頷く。


「【フェニックスアロー】!」


 赤澤先輩が唱えると、周りに魔法陣ができ、鳥の形を模した無数の火の矢が飛んでいった。その攻撃は次々に電球女の方へと放たれる。


「何よこれ!」


 電球女は必死に電撃を飛ばして対抗する。だが、赤澤先輩の魔法は強力で、全てを打ち消すことはできない。一つずつ命中していく。


「すごい……」


 私は思わず息を呑む。周りは赤い炎に包まれ、まるで火の海。熱さがここまで伝わってくる。

 勝負あったかと思われたが……。


「あれは……!」


 電球女は残りわずかに力を残して耐えていた。黄色の魔法陣が守っている。その模様は電球女のものとは違っていた。


「誰か他にいるの……?」


 私はあたりを見回す。すぐには見つかりそうにないが、誰かが敵を支援しているのには違いない。電球女はゆっくりと立ち上がって怒りを表情に滲み出させている。


「もう怒ったわ……。あんたたち、あたしのパワーを思い知るがいい!」


 そう言うと電球女はステッキを空に掲げた。その瞬間、空が真っ暗になる。これは……。


「雲……?」


 空には真っ黒の雲が浮かんでいた。どんどん大きくなるその黒い塊を見ていると怖くなってくる。だがそんな暇もなく雷が鳴り始めた。耳をつんざくような轟音と共に稲妻が降り注ぐ。


「うわああ!」


 これに当たったら大ダメージだ。これほど大きな攻撃範囲があると避けきれないかもしれない。恐怖心から思わず目を閉じる。


「【アイスウォール】」


 上には大きな氷の壁が。青山先輩の魔法が間に合ったみたいだ。


「琴音、今だ!」

「はい!」


 青山先輩の掛け声に合わせて突撃する。相手はこちらの攻撃に意識が回っていないようだ。


「【パワースラッシュ】!」


 私はシュバルツを思い切り振りかぶる。電球女が気づいた時にはもう遅い。全力で切りかかる。


「ぐっ!」


 ステッキで防御しようとするが、威力は絶大。防ぎきれず、トドメを刺すことに成功した。


「うわあああ!!!」


 電球女は銀色の光を放って消滅した。


「やった……、倒せた……」


 いつにも増して大変な戦いだった。でもこれで、みんなの幸せは守れたのかな?


「お腹空いた……」


 青山先輩はお腹が空いて座り込んでしまった。


「私も〜……」


 いつもなら止めるはずの赤澤先輩までだらけている。私はそんな二人を見て、思わず笑ってしまった。


「私もお腹空いちゃった……」


 魔力を使いすぎるとお腹が空く。それは青山先輩の冗談ではなく、本当のことなのだと理解した。空に浮かぶ雲がわたあめのようで、食べたくなってしまうほどだった。

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