冥王の妃~家を追放された少女は冥王妃の生まれ変わりだったので、冥王の城で最強の冥王軍を従える事にしました~
十目イチヒサ
第1話 冥王の妃①
大きな屋敷の中にある部屋。
何の家具も置かれていないその部屋で、ムンディルが部屋の真ん中に佇む少女、リタースに冷たく言い放つ。
「リタース。お前をこのサージキア家より、今この瞬間をもって追放する。予定通り、バデノーンの修道院へ行け」
リタースは小さく頷き、顔を上げた。
透き通るような白い肌。
整った顔立ちの美少女だが……、その顔には黒い痣があった。
その痣は顔の左側半分近くを占めており、その少女の美貌を台無しにしていた。
ムンディルの隣にいる少女の兄ディーベンが、リタースに吐き捨てるように言う。
「お父上に感謝するんだな。今日までこの家に居られた事、明日からも生きられる事をな」
そしてその隣にいる少女と双子の妹エウーリも、リタースに言い放つ。
「明日からアンタのその汚い顔を見なくていいと思うと、スッキリするわ! まあ、家ではほとんど会わなかったけど、アンタと姉妹というだけで寒気がするもの」
リタースは顔を伏せたまま動かない。
少女の父ムンディルが、リタースの後ろに控える執事セロンに命じる。
「セロン。早くリタースを連れて行け。リタース、お前にもうサージキアの名を名乗る事は許さん。まあ、外で名乗ったことはないだろうがな」
セロンがリタースの隣に来て、リタースを連れて部屋から出て行った。
「やっと厄介者を追い払う事が出来ましたね。お父上」
「いや、まだだ。ディーベン。念には念を入れておかんと…。あんな忌み子が我がサージキア家に今日までいた事など知られたくないからな」
「殺すの? パパ?」
「滅多な事を言うな。エウーリ。ただ修道院に入った盗人が中にいた人間を
3人それぞれの笑い声が部屋に響いた。
◇ ◇
その数時間後。
リタースはセロンと共にバデノーンの修道院にやって来た。
修道院に着くと、中から修道女が出てくる。
「セロンさん。リタースさん。お待ちしてました。どうぞ中へ」
修道院の部屋の中に案内され、リタースとセロンが椅子に座り、向かい側に修道女が座る。
「私はマァリロアといいます。リタースさん。今日からよろしくお願いしますね。ご気分は…いいはずありませんね。すいません」
リタースは小さく頷いた。
マァリロアがリタースに更に話しかける。
「すぐにここの生活にも慣れますよ。ゆっくりでもいいですから」
マァリロアは飲み物を入れてくると言って、部屋の外に出て行った。
リタースは今までの人生を落ち着いて振り返っていた。
ーお母様が亡くなって3日後の今日…。私は家を追放された。
生まれつき顔に黒い痣があり、忌み子と言われ、産まれてすぐに実の父親から殺されかけた。
母のホラリアは、私を家の中から出さないという条件で父を説得し、私はサージキア家の隠し子として16年間育てられた。
私と同じ日に産まれた双子の妹エウーリは普通に育てられたのに…。
私は家の奥深くの部屋に幽閉されるように育てられたが、母だけは私に愛情を注いでくれた。
父や兄、妹は私に見向きもしなかった。
稀に家の中で見掛ける事もあったが、まるで害虫でも見るかのように軽蔑した目を私に向けた。
母は執事のセロンを私の教育係にして、私が一人になっても生きていけるよう読み書きや魔法や外の世界の事を教えてくれた。
そして一週間前、病で死の淵にあった母がわざわざ私の部屋まで抜け出して来て、こう告げた。
『私がいなくなったら自由に生きなさい』
そして数日後、本当に母はいなくなった。
母を失った悲しみ…。
あの忌々しい家を出れた喜び…。
私の感情は不安定に混ざりあっていた。
不意にセロンが立ち上がり、私にここに待っているように言うと部屋から出て行った。
バンッと大きな音と共にリタースのいる部屋の扉が開いた。
リタースが見たことのない男だった。
その男はリタースの顔を見ると、腰の蛮刀を抜いた。
「その顔の痣…。お前だな」
リタースは自分に向けられた殺気に恐怖した。
声も出ず、身動きが取れなかった。
男が蛮刀を振り上げた瞬間、男が突然白目を剥いた。
そして腕がダランと垂れ下がり、男の首を後ろから誰かが掴んでいるのに気付いた。
男の体が床に寝かされ、後ろからその男を気絶させたセロンが入って来る。
「席を外して申し訳ございませんでした」
セロンはそういいながら、リタースのそばに来る。
リタースは強張りながらセロンに尋ねる。
「こ、この男は?」
「恐らく、あなたを殺す為にサージキアの人間が差し向けた賊でしょう。あっちにももう1人いて、そちらは始末しました。もう他に侵入者はいませんので、安心してください」
リタースの体がわなわなと震えだした。
それは恐怖ではなかった。
怒り、憎悪だった。
ーあの家の人間は私を追い出すだけでなく、殺そうとしたのか!?
リタースの顔を見たセロンに、驚きの色が広がる。
「ま、まさか…。ルセネール王妃…」
‘ルセネール’…その言葉にリタースが反応する。
すると、リタースの顔の痣が
そして、黒い痣は手のひらに到達する。
熱いっ!
リタースがそう感じた瞬間、両手から黒い光が放たれ、気付くと1本の大きく立派な黒い杖がリタースの両手に握られていた。
「と、とうとう発現されたのですね…。ルセネール王妃…」
リタースは手に握った黒い杖を見て、セロンの方を見た。
するとリタースに向けてセロンは跪くと、深く頭を下げた。
「おめでとうございます。ルセネール王妃!」
「え? な、何を言っているの? セロン?」
「貴女様は冥王ヘイデス様の王妃……ルセネール様なのです」
リタースはキョトンとしたまま、セロンと杖を交互に見る。
「申し遅れました。私は〈冥府の大地〉
セロンはそう名乗ると角が生え、体が一回り大きくなり、肌の色が真っ青に変化した。
「あ、貴方は冥府の住人?」
「左様でございます。そして貴女は我が主、冥王ヘイデス様の妃ルセネール様の生まれ変わりでございます」
ーわ、私が冥王の妃?
つ、妻なの?
「その‘冥王妃の杖’が何よりの証拠。そして産まれる時に付けられた闇印を頼りに、私はこの日まで貴女をお守りしておりました。その杖が発現されるまで!」
ーこの顔の痣が闇印?
この杖が証拠?
私が…そんなわけない……。
リタースが困惑していると、横たわっていた男が目を覚まし、リタースとセロンの姿を見て、座ったまま後退りする。
「あ、あ、お前ら…、冥府の住人…? くそっ! ムンディルめっ! そんな事言ってなかったのに…」
ムンディル……。
リタースはその父の名を聞いた瞬間、自分の中で何かが弾けた。
そして怒りに任せて男に向けて杖を振ると、杖から出た漆黒の刃が男の首を跳ね飛ばした。
ー反射的に殺してしまった…。
だけど、罪悪感はない…。
父だったあの男は、この男を使って本当に私を殺そうとしていたんだ…。
リタースはすっと立ち上がると、部屋の扉からマァリロアが入って来て、床に転がった男の死体を見て悲鳴を上げた。
マァリロアは角が生えたセロンと、怒りと憎悪で漆黒のオーラに包まれたリタースを見て、更に悲鳴を上げる。
リタースが顔色一つ変えず、マァリロアに告げる。
「床を汚してすみません。少し出掛けてきます。セロン…いや、アヘロンタス。その賊の首を持って来てもらえますか?」
「仰せのままに! ルセネール王妃!」
ルセネールとアヘロンタスは静かに部屋から出て行った。
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