君は言った「距離を置こう」
@kitty97319
喧嘩の発端
私、本郷彩、22歳大学4年生。これは同じ大学の彼氏、颯太との話だ。
颯太が嫌いなこと。そのうちの一つは、他人が自分のやり方に干渉することだ。
毎週木曜日は颯太の家に行くことがお決まりだった。
そして今、いつもなら甘い雰囲気に包まれている筈の家の中は険悪な空気に包まれていた。
『はあ……そーゆうの嫌いって前に言ったよな?』
「私は心配だから言ってるんじゃん」
『だから、そういうの要らねえって、ただのおせっかい。俺は俺のやり方があるんだから、干渉される筋合いない。』
「っ、何よその言い方…」
『......おい、ここで泣くのは卑怯だろ…はぁまじで面倒くせえ』
「……………もういい」
耐えきれなくなった私は、上着と鞄を手に取るとその場から逃げるように颯太の家を出た。
外に出れば冬の夜特有の空気が漂っていて、それはなんだか余計に切なくさせて今の私に追い打ちをかける。泣きたくなんかないのに、ぽろぽろと止まらない涙を静かに流しながら自分の家へとゆっくり歩いた。
あの夜、心のどこかで追いかけて来ることを期待した。追いかけてきて、ごめんって言って、そしたら私もごめんって言って…。そうやって仲直りしてまた颯太の家に2人で帰るのだと、そう思っていた。
だけど結局、颯太が追いかけて来ることは無く、それどころか連絡の一つも無いまま1週間が過ぎようとしている。
彼氏の颯太と付き合い始めて1年半。これまでだって喧嘩は幾度もしてきたけれどこんなに連絡を取らないなんて初めてで、流石に危機を感じ始めていた。
「だいち〜…どうしたらいいと思う?」
〈先輩はお前が謝ってくるの待ってるんじゃないの?〉
バイト先のカフェで仲良くなった大智は、偶然にも颯太と同じダンスサークルの一員で、喧嘩する度に愚痴を聞いてもらっている。
「そうなんだろうけどさ、今回だけは譲れないんだもん」
そう、今回だけは絶対に私からは折れたくないのだ。
喧嘩の原因となったのは颯太のダンスのことだった。
うちの大学のダンスサークルは全国でも有名な実力の高いサークルで、その中でも際立って実力のある颯太。
ダンスに関しては周りが見えなくなるくらいの情熱を持っていて、常に向上心を燃やしては練習に打ち込んでいたし、そんな姿に惚れたのも確かだった。
そんな颯太は2ヶ月後に開催される大会に参加することになっているのだけれど…。
努力する姿は常に見てきたけれどここ最近は見ていられないほどに疲れ切っていた颯太。
朝練して授業に出て、その後すぐにレッスン室へ足を運んでは朝方まで入り浸っていた。ご飯だってろくに食べていないことを知っていた。
少し休んだら?と声をかければ、時間があまり残っていないからと思い詰めたような表情でまたレッスン室に戻っていく。
日に日にやつれて暗くなっていく表情を1番側で見ているのに、ただ黙って見守るなんて私には到底出来なかったのだ。
〈お互い意地張り合ってても解決しないでしょ。仲直りしたいなら彩から歩み寄らなきゃ。まあ別れてもいいって言うなら話は別だけど〉
「う…そんなあ……」
大智はいつだって意見をはっきりと述べる。痛いところを突かれるのだけど、それが同時に有難くもある。
〈ほら、これでも食べて元気出しな。そんで先輩に連絡することだね。〉
そう言って目の前に差し出されたのは、うちのメニューで私が一番好きなチョコケーキ。
「わ、やった!大智さん頂きまあす」
〈ちゃんと連絡しなよ?〉
「…分かったよ。ケーキに誓って連絡します」
このままじゃもっと仲直りしづらくなるだけだしね…
家に着いたら連絡してみよう…そう思いながらチョコケーキを頬張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます