ドライバー3

羽弦トリス

第1話流れ

市役所勤務3年になる神田利秋(25)は、同級生だった彼女の倉橋真美(25)と、喫茶店でコーヒーを飲んでいた。

「ねぇ、トシ君。この前、由美ちゃんがね、まだ付き合ってもいない男の子とドライブに行って、その男の子の運転姿がカッコ良かったって、言ってたよ」

倉橋は、外をぼんやり眺めている神田に、

「ねぇ〜、トシ君。私達もドライブしようよ」

神田は、振り向き、

「車、持ってない。電車で良いんじゃない?」

「いいや、トシ君の運転姿想像するだけで、ワクワクするの。レンタカーを借りて、阿蘇へ行こうよ」

「あ、阿蘇?こっちは、鹿児島だぞ!桜島にしようや」

「桜島、灰だらけだから、やだ」

「ドライバーは、お酒飲めないじゃん」

「バカね。宿泊すればいいじゃない」

神田は諦めた様で、

「分かった。レンタカーでドライブしよう」

「レンタカーは良いけど、マニュアル車にしてね」

「な、何だって!」

「だって、AT車じゃかっこ良くないもん。由美ちゃんのお友達、スカイラインだったらしいの」

「……AT車で」

「トシ君、まさかペーパードライバーなの?」

「い、いやそうじゃ無いけど、渋滞でМT車はキツいんだよね」

と、神田はストローでアイスコーヒーをズズッと吸った。

「1日だけじゃない。再来週の土曜日ね。宜しく。旅費は私が出します。運転手お願いね」

倉橋は看護師なので、そこまでお金が苦しい訳では無い。むしろ、結構貯金している。

2人は喫茶店を出て、またね。と言って別れた。


神田は倉橋の姿が見えなくなると、本屋に寄った。

「МT車運転マニュアル」を購入した。

「何々、クラッチを踏んで1速に入れて、ゆっくりアクセルか〜。って、半クラッチって何だ?」

神田はそう言うと、

「クラッチを踏み、ギアを入れ替えて、半クラッチは信号待ちか、坂道発進の時か〜」

神田は、何を隠そうペーパードライバーなのだ。

帰宅して、自動車整備士の弟に頼んで、軽トラックで誰も通らない山道で、МT車の教えを乞うた。

夜の居酒屋代を持つと言う条件で、指導を受けた。

坂道発進が中々難しい。

だが、急勾配の坂道で何度も停車しては、坂道発進の練習をした。

そして、自動車学校の体験をすっかり取り戻した。

「兄ちゃん、もう、大丈夫だよ。彼女さんと、ドライブ出来るね」

「ありがとう。マイ・ブラザーよ!今夜は、ギンでじゃんじゃん飲んでくれ」

「サンキュ」

神田は行きは軽トラックで弟と居酒屋に向かい、帰りは代行を頼んだ。


あっと言う間に、ドライブデート当日。

レンタカーで、マニュアル車を借りた。古い車だったので、一泊二日で、8000円だった。後は、ガソリン満タン返し。

神田は、自信満々に助手席のドアを開き、倉橋を乗せた。

彼女の真美は喜々として、

「ありがとう」

と、言った。神田はかっこ良く運転席に座ろうとすると、ルーフに頭をぶつけた。

「いった〜」

「……」

「では、出発します!」

「わーい!安全運転でお願いします」

神田は、車のエンジンを掛けた。

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