第20話 イグの正体
「お前らそれは良いけどよ。まだ邪神イグの魂はソイツの中にいるんだろ?さっさと聖魔法で排除しねーのか?」
僕はバダガリ君らしい意見だなーと思ってちょっと笑った。
ナナヨさんはちょっとハッとしたような仕草をした。
「あ、そうでした。聖魔法の準備は出来ています!」
僕は地面まで頭を下げてナナヨさんに降りてもらった。
「案内致します!ちょっと歩かないといけませんが」
僕はナナヨさんが手を向けた方向を見ると、木も建物も何もない大きな原っぱが広がっているようだった。
しかしよく見るとかなり多くの小さな人影が立っているのが分かった、つまり彼らが術者なのだろう。
ライラがナナヨさんに確認するように話しかけた。
「聖魔法の魔術書、修道院からちゃんとそっちに届いたんだね。良かった」
「ええ、私が新たに教主になって新生イグドールを発足させて数日後のことてした。ネイパリル修道院の使者からイグに似た大蛇がいるという話を聞いたとき、私は飛び上がりました!」
嬉しそうに話をするナナヨさん。
「しかし同時に旧教主ヴァイオが一般人の夫婦に聖魔法の魔術書を盗ませようとしてい事も分かりました。私は慌てて話し合いで譲ってもらうように使者に伝令を伝えました」
それを聞いて僕は納得した。
「なるほど、急にイグドールの態度が軟化したのはそういう理由があったのか!まさかナナヨさんの計らいだったとはね、あのときは助かったよ」
僕達はちょっと前の事を思い返しつつ儀式の行われる広場へと歩いていった。
――そこには50人近い魔術師たちが揃っていて蛇である僕の姿を観察するように見据えている。僕はちょっと怖いなあ……、と思うのだった。ここでナナヨさんが前に出ると彼らは一斉に頭を下げた。
そして恐らく代表格であろう一人の魔術師がナナヨさんに宣言した。
「ナナヨ様。いつでも破邪の聖魔法を使えるよう準備は出来ております」
そこには円形の巨大な魔法陣が描かれており、その中央に僕が居座れば配置完了というものだった。早速移動しようとすると僕の体の後部がピクンと動いた。お、これは……。
『おい貴様ら。本当に良いんだな?後悔しても知らんぞ』
僕はいつぞやの彼の声を思い出し、ちょっと懐かしむようにイグに答えた。
「やあ、久しぶりだねえイグ。元気かい?」
イグは苛立ったように答える。
『体を乗っ取られて元気なわけがあるか!貴様、やはり世の中を舐めているな!』
「ああごめんごめん。そういうつもりは無いんだ」
僕はイグをなだめるようにそう話した。しかしそれを見ていたアル、ライラ、バダガリ君、周囲の魔術師達、そしてもちろんナナヨさんも含めて皆驚いていた。ナナヨさんは僕に確認した。
「タロー、今の声はもしかして……イグですか?」
僕は即答した。
「そうそう。ちょっと前の話しだけど、僕が夜寝てたらイグに体を乗っ取られそうになっちゃってさー」
呑気に僕がそう話したことでイグは怒りを爆発させた!
『貴様~!!何が乗っ取られそうになっただ!この体は元々我のモノだろうがー!殺すぞぉ!!』
僕はもっともだ、と思いイグが少し気の毒になった。しかしナナヨさんは厳しく対応した。
「イグ、お前は散々悪さをしたから人々に追われる事になったのでしょう?自業自得ではありませんか?」
『しばくぞお前!我はお前ら人間が攻撃してくるからその度に撃退しているだけだ。こちらから人を襲ったことなど一度も無い!』
ナナヨさんは即反論した。
「嘘おっしゃい!あなたは昔からとんでもない力で町や村を襲い人々を恐怖に陥れて来たと歴史書に書いてありました!」
『……そもそもそれが間違いだのだ』
僕は僕の内部から発せられるイグの声に妙な違和感を感じた。以前彼が出てきた夜も思ったのだが、やや攻撃的ではあるがあまり邪悪さのようなものが感じられないのだ。邪神なハズなのに……。その辺ちょっとバダガリ君に似てるなーと思った。
――と思っていたら、それまで大人しかったそのバダガリが近づいてくる。まずいぞ、……これは良くない組み合わせの予感……。
「おいコラ!イグ。お前の昔の武勇伝なんざどうでもいいけどよ。俺は強いやつに興味があるんだ!ちょっとヌメタローと交替して俺と戦えや!」
ああーもうバダガリ君のバカ!今戦ってどうするんだよ!?
アルとライラもバダガリ君を止めるため、両手を引っ張って後ろへ下がらせようとする。
「ちょっとアンタ!今から邪神を消滅させるってのに出て来て戦えなんて頭おかしいんじゃないの!?」
「アホも大概にして下さいー!」
「ちっなんだよお前ら。……どうせ消えるんならその前に一回戦っときたいだろうが!」
なんとも脳筋な男だ。しかしイグには好評だったようだ。
『ぐはははは!面白いヤツだな。しかし一つ間違いがあるぞ。我は
あれ?そういえば前イグと話した時もそんな事言ってたような……。
するとその場にいた魔術師達がざわめき出した。
「聖魔法が効かないだと……!?」
「そんなはずはない……でたらめだ。イグのいう事を鵜呑みにするな」
ざわざわ……。
側にいたナナヨさんもジッと僕……というよりイグを見て、何かを考えている。
「強がるのはおよしなさい。邪神は聖魔法によりその魂を消失する――というのは他の国でも実例があり証明されています!」
と力強くイグに反発した。
『邪神……そうか。貴様らにとっては邪神に見えるかも知れんな、だがこちらから言わせれば守り神だ』
イグは煽りや強がりではない大真面目なトーンでそう話した。これについて僕は詳しく聞きたいと思っていたところ、魔術師の代表らしき人物がナナヨさんに忠告をした。
「ナナヨ様。騙されてはなりませんぞ。蛇は太古より人を惑わす存在です。さあ、早く儀式を……」
その言動には何やら焦りがにじみ出ているようだった。
ナナヨさんは手を代表者に向けて無言で黙らせ、
「タロー、あなたはどうお思いですか?」
……やっぱり僕はこのイグの意見を聞いてみたいという気持ちに変わりはなかった。
「イグと以前会話したことがあったんだけど、なんかそんなに邪悪さを感じないんだよねー。彼の話も聞いてみたいかな僕は」
それに魔術師の代表者はすごい勢いで反発した。
「なにを悠長な事を言っておられるのか!イグは邪神なのです。話し合いなど無駄ですっ!!」
その鬼気迫るような異様な魔術師の様子を見て少し違和感を感じたように首をかしげるナナヨさん。
「話を聞くだけなら良いでしょう。どっちにせよ今のイグは身体を動かせませんから」
「し、しかし……」
僕もイグに話をするように促した。
「あ、イグ君ちょっとさっきの守り神ってとこから説明してくれない?」
『……まあいいだろう』
イグはちょっと気を許したのか落ち着いて喋りだした。
『我のように力の突出した存在は太古よりその領土を守護するものとして神と呼ばれた。神は土地によっていくつか存在する』
「へえ、じゃあ他にも神がいると?」
『そうだ。そしてある時この国に他の
イグの言葉に皆は押し黙った。僕も驚いた。この事がもし本当ならイグを消滅させる理由がなくなる。しかし……、これだけは聞いておこう。
「以前僕が寝ている時、君はこの町を超強力なエネルギーの塊で攻撃しようとしてたじゃないか。あれはどう言う事?君は守り神じゃなかったのかい?」
するとイグは鼻で笑い説明した。
『我はずっと貴様の中に居ながら
「ある所?……」
『ああ、あの巨大な魔法陣のその先……あの屋敷だ!』
ナナヨさんは目を見開き魔術師達の方を見て、少しだけ声を震わせて言った。
「あれは、今回集めた術者の皆さんの宿舎です……!」
僕らは皆、すぐそばにいる魔術師達を緊張の面持ちでみつめた。
すると魔術師達は皆不気味な笑顔を浮かべた。あっ……。
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