第2話 謎の女
「さて、アルティーナよ。いきなりだが問題だ。食料がないぞ?」
「え?」
森の中で勇者パーティ『ホーリー』を追放されてたたずむ僕とアルティーナだったが、僕ら……特にアルティーナにとって重要な問題となるのが飯の事だ。
「僕も君も『ホーリー』を追放されたからお金が入ってこないわけだが……僕はそこら辺にいる動物やモンスターを捕食出来るけど、アルはどうするんだい?」
アルティーナはやや引きつった笑顔を見せた。
「そ、そういえばそうですねー。あー。私、お金なかったからホーリーに入ったのに……。うーん……」
のんびりとそう話すアルティーナ。彼女はちょっとゆるすぎる気がして心配である。
「よし、じゃあこの先にあるゼブロンの町まで行こう。そこで別のパーティに入れてもらおう」
「え?……も、もしかして一緒にパーティ探してくれるんですかー?」
「そのつもりだよ、お互い追放された身だしね。悪い話じゃないだろ?」
「……うっ」
僕がそう話すとアルティーナは顔を押さえて泣き出した。
「お?ど、どうしたんだいアル!?」
「グズッ……わ、私、今まで酷い扱いばかり受けてきて……こんなに親切にされた事無かったんですっ。ヌメタローさん、このお礼は必ずします!」
嬉しいことを言ってくれるねぇ。ますます気に入ったぞ。
「よし、じゃあその体で恩返ししてもらおう」
スルッ。僕はアルの首筋から服の中に舌を突っ込み艶かしい背中を軽くスィーっと舐めた。
「やんっ!あっ……ダメッ、あっあっ――」
アルティーナはいい感じによがっている。僕の顔も自然と緩んでくる。
――そうしてふざけあって歩いているうちに僕達はゼブロンの町に到着した。
「やはり中々でかい町だな」
「ですねー。人の行き来も多いですしー、絶対どこかのパーティーには入れますよ!」
「オラァー、見せもんじゃねーぞ!!」
いきなり誰かの怒鳴り声が聞こえた。その方向を見るとガラの悪そうな三人組が一人の修道女を囲っていた。
正直良く見かける光景だったが町中でというのは珍しい。
周りの住民達も見て見ぬフリをしている。
……しょーがないなー。
「おい、ネーチャン。ちょっと人気のないトコ行こうか?へへ、なーに怖い事はしねーよ。ずっと教会にいてばっかで退屈だろぉ?」
「グフフ。大人しく従わねーとそのキレーな顔が潰れたトマトみてーになっちまうぜ?」
やれやれ、何て分かりやすい奴らだ。僕は呆れながらシュルシュルと近づいた。
「はいはいすいません、ちょっと通りますよー」
等と言いながら、僕は修道女と輩三人組の間に割って入っていった。
「うわあああっ!何だコイツ!?」
「へ、蛇!?なんてデケえ蛇なんだ!……しかも人の言葉を喋ってるぞ……!?」
僕はとりあえずその三人に一瞬で素早く巻きついた!
もちろん回復のためのスキル「まきつく」ではなく物理的に巻きついただけだ。
「ぎゃあああああ!」
「ひぃーーた、助けてくれ!!」
口々に叫び声を上げる三人
「この状態で僕が力を込めると君達は全身の骨が折れるわけだが……この人を開放してくれるかな?」
「は、はいっ!も、もう二度と近寄りません!!」
「オッケー」
シュルル……。
僕が彼らを解き放つと大慌てで一目散に逃げていった。
さて、僕はこの人から感謝の言葉でも頂くかーと思って振り向いたら予想外の言葉が返ってきた。
「余計な手出ししないで!」
「え……」
気の強そうなその修道女は頭に被ったウィンプルを脱ぐと僕の前で仁王立ちした。
綺麗な金髪をなびかせ、整った顔立ちでまっすぐ僕を睨んでいる。おお!なんか凛として美しい……。僕こういう人も好きだなー、ふふ。
などと呑気に構えていると女はこう付け加えた。
「私があんな半端な奴らに負けるわけないじゃない。要らない助太刀をされて気分が悪いわ」
などと言い放ってくる女。な、なんて生意気な女だ!いやしかし凛々しくて美しい……。
そしてよく見ると確かに修道女にしてはやけに覇気というか武のオーラがあった。そもそも大蛇の僕に対して全く怯んだり怖がったりする気配がない。んんー?何だろうこの人は??
興味を持った僕は【慧眼】で女のステータスを確認した。
[???]
種族:人間
体力:180
魔力:45
攻撃力:210
防御力:187
スキル:【格闘】
……あー。この人絶対修道女じゃないな。
とりあえず聞いてみる。
「君さあ、何で修道女の真似事みたいな事やってるワケ?絶対それ本業じゃないよね?」
それを聞いて一瞬ピクリと女の眉間が険しくなった。
「私、普通の修道女だけど?ちょっと運動神経が良いだけよ」
「それにしても良すぎるんじゃない?どこの修道院かな?」
ふーっとため息を付いて女は続けた。
「……あんたみたいな得体の知れない生き物に教える必要ある?というかなぜ蛇のくせに人の言葉を喋れるの?変なの……」
ほぼ表情を変えず当然の疑問を投げかける女。
僕はだんだんこの子が好きになってきた。絶対に飲み込んでやるぞー!!
「僕が人の言葉を喋れるのは元々人間だったからだよ……多分。それはそうと君、なかなか良いボディ……美人だよねえ?」
「は?何アンタ、……アンタもさっきのチンピラ達と変わらないじゃない?」
割りと図星である。ここは開き直ろう。
「そうだね。でも僕はああいう連中とは比較にならないぐらい強いよ」
これもまた事実である。僕はめちゃくちゃ強い自覚がある。ちなみに転生してから今まで一度たりとも本気など出した事はないのだ。
そして僕がそう言うと女は挑発的な笑みを浮かべ、勇猛果敢にも僕に挑んでくるようだ。
「へえ、そうなんだ!?私、誰かに襲われても大丈夫なように普段から鍛えてるんだ。ちょっとアンタで腕試しさせてよ」
「ふふふ、望むところさ!」
ここで、僕の影で大人しくしていたアルティーナが口を開いた。
「ヌ、ヌメタローさんはヒーラーでしょう?戦ったり出来るんですか!?」
「大丈夫大丈夫。任せなさい――」
「シッ!!」
僕がアルとの会話を終わらせる前に女は蹴りを放った。おっとと。
僕はちょっと慌てたが女の蹴りを受け――流した!
ヌルッ――!
「えっ!……」
女はあまりの手応えの無さに驚きの表情を浮かべている。
僕は特に何のスキルも使っていない。ただ身体全体に粘液を潤滑油の如く分泌させて攻撃を反らしていたのだ。
一応アドバイスをしておいてあげよう。
「僕って打撃攻撃あんまり効かないんだよねー。でも剣とか……特に槍は怖いかもねー」
ムッとした表情を浮かべる女。諦めず何度か拳打や蹴りを繰り出すも全て同じ様に受け流される。
「あははは。無理だよ!」
余裕の笑みを浮かべる僕。ちなみに僕は大蛇だが人間のように表情豊かな所がチャームポイントである。
「フン!だったらこうだ!」
痺れを切らした女は直径40センチはある僕の首元に腕を回し抱きついてきた!あー、もしかして絞め落とそうとしてる??僕はちょっと困惑顔になった。
「それ一番やっちゃだめなやつ」
シュルルッ!!
そう諭すように言って、僕は逆に女の身体に一瞬で巻き付いた!
「ウグッ……くっ、くそっ!!」
この子割りと根性ありそうだから強めに締めておくか。
ミシッ……。
「あぐっ……!!」
「勝負あったね」
僕はスルリと彼女を開放した。
「ハアッ、ハア……ま、負けた。完敗だ……」
潔く負けを認める女。よし!
「じゃあ約束通りいただきまーす!」
そんな約束したか?とか細かい事は気にしないぜ!
ハムッ!……。
アルティーナの時と同じ様にほぼ一飲みで口の中に収まった。ちなみに僕は身体の大きさをある程度自由に変えることが出来る。「のみこむ」ときは口を大きくしている。
それではいただきます!!
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