実りある人生を望む転生者

レイノルズ

第1話 残り香①

◇歴史


神様は初めにに植物をつくりあげました。

その次に、人の原型となる物質の塊を作り上げた後、神は植物に言いました。


「この物質に情を与え続けよ」


神からの使命を全うするため、植物は情を与え続けました。

渋柿が甘くなるように、ゆっくりと、着実に。

何千年もの時が経ち、物質は自身の中に情を内包するようになり、

理性が使えるようになりました。

それは「人」と呼ばれるようになりました。


その後、神は人が情を忘れてしまわぬようにと、8つの植物を選び、

「神の子」として地上に君臨させました。

それに対して人々は、8つの植物を永久とわに紡いでいくために、

「管理者」と呼ばれる者たちを設け、管理を任せました。

神の子は管理者の一族にお礼として、異能を使えるギフトを送りました。

やがて、人々は管理者の一族に最大限の敬意を払い、崇めるようになりました。

                      


「いや~買い出しってやっぱ疲れるな。帰ったら薬の調合を終わらせるか。」


あまり外に出たがらない陰気な性格なためか、人と関わるだけで疲れてしまう。

そんな体を休ませるため、宮崎 みやざきとおるは広場のベンチに腰掛けた。


人々の足音、吹いてくる風、温かな昼過ぎの日差し。

ふと、とりとめのないことが頭の中を支配する。


彼は高校生のときにトラックではねられ、この異世界に転生した。

顔や身長は転生後も特に変わることもなく、黒髪に小柄な身長。

いたって平凡である。


彼は孤児として生まれた後、図書館で異世界の植物や薬の本を読んだり転生前に高校で農学を学んでいた経験を駆使して、なんとか自給自足で生活している。

たまに薬を売って、生活品を買う金を稼いだりもしているが…。


徹には植物に対して飽くなき探求心を持っていたが、この世界は植物に対しての  かなりの規制があるため、自由に採取、研究ができなかった。

実際、薬を作る材料も市場で買わないと入手できない。


”はあ、薬を作るだけじゃ物足りね~よ。使える植物にも限りあるし。

もっと大きなことを成してみたかったな、俺が管理者だったら。”


妄想が膨らんでいく。管理者は特例的に植物の研究が認められているからだ。

”きっと何でも、やりたいように” 


そんなあれこれを考えていると、突然、意識の中にバラの香りが充満する。

濃厚で、それでいて、スッキリとしたさわやかな香り。


辺りを見回すと、夕焼けに色づく広場の隅に1人の少女がいた。

肩にもかかる白い髪に、赤目。一瞬、女神かと思ってしまうほどの美しさ。

おそらく100人中120人が振り返るだろうな…。


しかし、片目には花が咲いていた。

魔性のオーラをまとった青バラが1輪。


明らかに異質だ。

”植物からのギフト?なのか?”

だとしたら、なぜギフトをもつ少女がここに?”


徹は少しためらったが、すぐさまベンチからゆっくりとした動作で

少女のもとにかけよった。


「ええと、嬢ちゃん1人?」

少女はコクリと静かにうなずく。

目はうるんでおり、先ほどまで泣いていたようだ。

しかし、少女のようなあどけなさはあまり感じず、気品がある感じだった。


「お父さん、お母さんは?一緒じゃないの?」 

今度は首を横に振る。

こうゆうときは、交番にいって保護してもらうのが普通だろう。

しかし、残念ながらこの世界に交番はない。

代わりに警備隊と呼ばれる警察に近い役職があり、町の見回りをしている。だが、今日のこの時間帯は年に数回の警備隊の集会行われているため、おそらく全員そちらに行っている。


”まいったな、どうしよう、警備隊の人が帰るまでまだかかるだろうし…。”

とりあえず、質問を続ける。


「名前は?」  「リコル…」

「どうやってここに来たのかな?」  「逃げてきたの…」

「ええと、誰から?」      「…………」


質問を口にしてから、しまったかな、と思った。

しばらく沈黙が続いた後、この気まずい状況をなくすために、徹はある申し出を提案する。


「とりあえず便利屋に行って、休まない?そこなら、警備隊の人が返ってくるまでの時間はつぶせるからさ。」


徹は手を差し出した。

リコルはこちらをうかがうような目で差し出された手を受け取った。

温かい小さなぬくもりがお互いに伝わってくるのであった。


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