キミとの恋にエピローグを

アールケイ

前編 キミとの恋にプロローグを

「なんで、彩華いろはがここにいるんだよ」


 帰宅した瞬間に出迎えたのは、制服コスの元カノ、豊浜彩華とよはまいろはだった。彼女とは一年も前に別れている。それなのに、いつまでも彼女はつきまとってきて、軽くストーカーである。いや、ガチもんのストーカーである。


「なんでって、我が家だからに決まってるじゃん」


「違うが?」


彩華いろはゆうは結婚する運命の星に生まれてるんだから、私の家はゆうのいる家に決まってるんだよ」


「そんなわけないだろ」


 一年前の冬、クリスマスを目前に控えたそんな時期、俺は彼女に別れを告げた。それに対して彼女はなにも言わなかった。肯定も、否定も、なにも言わなかった。それから一日、たった一日、音沙汰も無い平穏な日を迎えたのだが、以降の日は言うまでもない。好き好き大好き攻撃が始まったのだ。

 毎日、ほぼ24時間と言っていい。別れたはずの元カノは、俺につきまとって来るのだ。どこにいようと関係ない。二人きりになれる隙を見つけては、現れる。

 最近はもう、会うのも嫌になってきてるほどだ。


「ねぇ、ゆう


「……」


ゆうってばー」


「……」


ゆう!」


「なんだよ」


「いくら私のことが嫌いだからって無視するのはダメだからね。そんなことする悪い子には天罰が下るんだから」


「天罰?」


「そうだよ。私以外とじゃイケなくしてあげるんだから」


 地味に嫌な、それでいて、今後彼女ができなければ関係ないような呪いである。天罰というからもっと酷いものかと思っていたが、そうでもないらしい。


「今、そうでもないなって、思ってるでしょ」


「まあ、たかだか性欲だし」


「その性欲が三大欲求だってこと、忘れてない?」


「まあでも、死なないしな」


「ちっちっち。わかってないね、ゆうくんは」


 ちっちっちって言ってるときの指の動きが妙にうざい。しかし、どんなに嫌いであっても一度は好きになった彼女、容姿端麗の美少女だっただけにかわいいと感じてしまう自分が憎らしい。


「食欲、睡眠欲の次に重要な性欲をないがしろにするとどうなるか、明日一日試してみる?」


「できるもんならやってみろよ。たかだか人間の俺らに、なにもできるわけないだろ」


 天罰を下す下すって言ってはいるが、そもそもそれができるのかという話ではあるわけだ。だいたい、毎日ベッドに直ダイブしたいほどには睡眠欲がまさっている。


「カッチーン! いいですよ、そういうことなら明日は私以外とじゃイケなくしてあげる。せいぜい後悔することだよ」


「お前とならイケるんだ」


「代わりによりを戻してもらうけどね」


「はいはい」


 冗談半分に話を聞き流し、俺は風呂に入る。彼女に構ってやったはものの、ここで睡眠時間が削れるのはやはり痛い。明日に響くってもんだ。

 ただ、風呂を出たら彼女がいなくなっていたことだけが気がかりだった。

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