会食

「ヒジリ様、労をねぎらう晩餐会は却って気疲れさせてしまいましたね。 他の者の参加は差し控えましたが、申し訳ありません。気が利かず」


「いえ! 私が不得手なばかりに、お恥ずかしいところを……」


私は美しい料理を前に鯱張り、味などまったくわからなかった。

ディナーに奏でられる音楽はバイオリンではなく、二胡のようなヴィヴラートがよく利いた楽器だった。

正直音楽には詳しくないが、震えた低音はバイオリンよりも心地よく感じ、少しばかり緊張が解けていく。

なんとかデザートのシャーベットのような氷菓子を食べるころには何とか味覚も取り戻していた。


「それで、お話とは?」


私が食べ終わるのを見計らい、グナーデ王子は話を切り出してきた。

それまでは、他愛もない話ばかりで私を退屈させまいとホストの振る舞いを崩すことはなかったが、この瞬間に雰囲気が変わる。

どうやら、人がいいだけの王子。という訳でもないらしい。

よくよく考えれば、私が倒れそうになった時にたまたま居合わせて、匿うという判断がおかしい。

みすぼらしい外見のただの年増が、召喚された聖女だと看破するには状況証拠だけでは不十分だ。

おそらく……、監視されてたな……。


彼の本性はおそらく今の支配者の顔が本来の物だろう。

腹の中は読めないが、どうやら、私にを見出した――と、いうこらしい。

今迄は偽りの聖女として、とりあえず手元に置いておくぐらいの気持ちだったのかもしれないが、おそらく私が行ったことは彼の予想を遥かに超えたのだろう。


故のこの態度の変化。胸襟を開くつもりらしい。

しかし腹の探り合いなど、まっぴらごめんだ。私は所詮、平凡なOLだ。

手練手管の貴族相手に痛くもない腹を探られるのはおそらくこの晩餐会よりも気疲れすることだろう。というか心が死ぬ。


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