三話「境の逃げ宝」下編
1
とある屋敷で。リンフィアたちは
検問を通り、示し合わせた通りに待ち構えていた使者の案内を得て、ここへ辿り着いた。リンフィアは獣国の景観に心踊らせていたが、同行者二人の表情は固い。
特に、リクルは別人のようだった。
さながら無機質で冷たい人形。
あれだけ表情豊かだった相貌には、感情の一つすら色を見せない。
リンフィアは当惑した。
シュバルツに限ってはどこか安心した面持ちである。
彼はリクルに耳打ちする。
「剣鬼の処理は、どうなりましたかね?」
「大丈夫ですよ」
「しかし……」
「国境攻略に充てるはずだった精鋭」
その言葉にシュバルツの顔が凍りつく。
「ま、まさか……!」
「『
「たかが一人に……」
「剣鬼侮るべからず――これが各国共通の認識ですよ」
「そう、ですね」
「むしろ、砦の戦など些事です」
リクルは淡々と告げた。
同室のリンフィアは、唖然としている。
こんなリクルを見たことは無い。それだけでなく、その口振りはタガネを陥れたとも聞こえる。
リンフィアは、自身の誤解だと否定する。
優しいリクルに限って、そんなこと。
それでも――その本人の顔は、見たことがないほど冷たい。
シュバルツは平然としている。
リクルの一面として知っていたのか。
疑心ばかりが膨らむ。
「しかし、これで」
「事は進みますね」
リクルが微笑んだ。
ぞっとするような冷笑である。
「さて」
「この交渉が予定通りに遂行されれば」
「ええ。……帝国も王国を消せる」
部屋の扉が叩かれた。
開けられた隙間から、亜人が顔を出す。
「面会の準備が整いました」
「わかりました」
リクルが立ち上がる。
「行きましょうか」
怯えるリンフィアの手を取った。
いつもの優しさなど何処へ行ったのやら、半ば強引に立たせる。
「これで我々の勝利だ」
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