馴染みの剣鬼
スタミナ0
一話「詐りの里」
1
とある王国の田舎の里。
異様なほど緑の鮮やかな森の一部を切り開いた場所。斜面の上に営まれ、三段層になった地勢である。その「二段目」に、家屋が集中して建っていた。
しかし、そこから少し離れた場所にひっそりと一軒だけ建っている家があった。
屋根を打つ雨の音。
囲炉裏の火を焚いて温まっていた姉弟は、戸を叩く音に身を固める。姉なる少女は、長い髪を簡単に紐で結わえながら、戸口の方へとせっせと向かった。
戸の格子から外を覗くと、外では体を雨に濡らした少年が立っていた。銀の髪が艶を帯びて、水で重くなっても強情に癖のある跳ねた毛先から滴が落ちる。
「もし」
少年が外見よりも大人びて低い声を出す。
「こちらに人はおられるだろうか」
灰色の瞳が窓を見る。
格子に張られたガラスで少年に中は見えていない。それでも、視線の鋭さにこちらを見抜かれている気がして、少女は小さく悲鳴を飲む。
「はい」
少女は戸惑いながら返答した。
物音で留守ではないと判って、少年がわずかに顔を安堵で緩める。
「この雨で難儀している」
少しだけ少年が窓に顔を寄せた。
「一晩だけでも宿を頼めんだろうか」
少女は後ろをかえりみる。囲炉裏のそばでは弟が無防備に眠っていた。
ゆっくりと戸を開ける。
「どうぞ」
戸の間隙から覗いた少年は、腰に剣を差していた。少女の姿を認めると、目を伏せて小さく会釈する。
「旅をしているタガネ、という」
少年は入ってこない。ただ少女と弟を交互に見ていた。
「どうかよろしく頼む」
冷たい眼差しで。
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