悲願花
知恵舞桜
第1話 悲願花
「……暇だ……暇すぎる。暇なのは……良いことだ」
カガチはソファーに横たわり見慣れた天井をボーッと眺める。
「あーあー、俺もロゼについて行けば良かった」
ロゼは一週間前に依頼を受けアメリカに一人で行った。
こんなに暇だとわかっていたならついていって観光したのに。
「馬鹿なことを言うな。ロゼさんの邪魔になるだろう」
ユリはいい加減鬱陶しくなりきつい口調で話しかける。
三十七回ずっと同じ事を聞き続ければそうなってもおかしくはない。
「馬鹿っていう方が馬鹿なんですぅ〜。……ああ、それにしても暇だなあ」
また、同じことを言う。
「アザミさんにでも電話して何かやることないか聞こうかな〜」
暇すぎて何でもいいから何かしたい。
「やめろ。アザミさんは今あの件でそれどころじゃないだろう」
「ああ、そうだった。忘れてた。電話できねぇじゃん。どうしよっか。……あー、それにしても暇だ」
カガチの言葉に苛立ちが募り眉間に手を当て落ち着かせるようにユリは自分に言い聞せる。
「……暇すぎる。……そうだ、テレビ見ればいいんじゃん」
リモコンを取るためソファーから起き上がる。
テレビをつけた瞬間、女性達の黄色い声援が鼓膜に響く。
二人は何だとテレビに凝視していると「キング〜」という女性達の声が聞こえた。
二人共顔をしかめる。
白髪で腰まである長い髪。
紫色の瞳で、百九十センチある身長に整った顔立ち。
世界中の女性が虜になる理由はわかるが、嫌なものを見たような目でキングを見ると、カガチは直ぐにテレビを消す。
「最悪だ。最悪すぎる。よりによって何でこいつなんだ。暇だからってテレビなんかつけるんじゃなかった」
ソファーに勢いよく飛び込み顔を埋めながら文句を言う。
暫く放っておこうとユリは本を取るが、十分後にはまた、「暇だ、暇だ」と煩くなりカガチの未来を視てしまう。
後、二時間後くらいに依頼人と話しているカガチが視えそれを伝える。
「安心しろ。もうすぐ暇じゃなくなる」
「依頼人が来るのか!?視えたのか!」
勢いよく立ち上がりユリに詰め寄る。
「ああ」
「どっちだ!?」
「悲願の方だ」
「そうか。教えてくれてサンキュー」
そう言うとカガチは急いで支度を済ませいつ人が来てもいいような格好で待機する。
それから二時間経過。
「……おい、いつになったら来る」
「もうそろそろだ」
「そう言い続けてもう二時間経ってるぞ。このやり取り今ので何回目だと思ってる」
ソファーの上に立ち、本を読んでいるユリに叫ぶ。
そういえば時間を伝えるのを忘れてたことを思い出す。
「十三回目だ。お前の鬱陶しい独り言よりは少ない」
「ユーリ。まさかと思うが嘘ついてないよな」
じと目でユリを見つめる。
ユリはため息を吐き「ついてない。本当にもうすぐ来る。大人しく座ってろ」とカガチの方を見もせずそう言う。
「嘘だったらただじゃおかないからな」
子供のような口調で言うとソファーの上で大人しく依頼人が来るのを待つ。
二人がいる場所はひとけが全くないある山奥の建物。
人が来るのには結構な時間がかかる場所にあるため普段は三人でそこに暮らしている。
その建物は悲願花という名の何でも屋。
山奥で時間もかかるというのに訪れてくる人は結構多い。
噂を聞いて縋る思いでここまでやってくるのだ。
勿論、その噂を知らずに調べて来る客もいる。
この悲願花は少し他の店と違うところが二つある。
一つは依頼方法の仕方だ。
勿論、普通に依頼してもらっても問題ない。
ただ、この店には依頼人が黒い彼岸花を持って「私の悲願を叶えてほしい」と言い花を渡し依頼を頼むという方法がある。
もう一つは店員の力だ。
悲願花には三人の店員がいる。
一人目はrose(ロゼ)。
昔はローズと名乗っていたが、少女にロゼと言われて改名した。
ロゼは世界一のボディーガードとして有名でどんな依頼人も百パーセント守る。
圧倒的な武力と頭脳を誇る悲願花のオーナー。
二人目はカガチ。
過去を覗き、全てを暴く。
警察からよく依頼がきて犯人を捕まえる。
三人目はユリ。
名はユリだが、仲間達からはユーリと呼ばれている。
ユリは未来を視て事件を未然に防ぐ。
ユリもカガチ同様警察からの依頼が多い。
ただし、三人が己の力を使うには条件がある。
それが、黒い彼岸花を持って依頼すること。
それをするかしないかで力を使うか使わないかが決まる。
この条件は絶対で破ることはない。
これは彼らが自分達に課した枷のようなもの。
使い方を間違えればこの力は災いを招くものになるからと。
力を正しく使えれば人を助けられる。
だから、三人は黒い彼岸花を渡してきた依頼人のみこの力を貸すことにしている。
この店に黒い彼岸花を持って来た依頼人達は誰にもこの店のことを話さないが、今日も悲願を叶えてもらおうと人が訪れてくる。
謎解き、人探し、宝探し、護衛、どんな依頼も三人にかかればお手の物。
今日も依頼人の悲願を叶えるため三人はその力を使う。
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