第二十四話 三馬鹿探検シリーズ ~エルフの村の温泉を堪能すべく我々はフェレスク大森林の奥地へと向かった!~
マホラを出立した三馬鹿とラティア、カズハの一行はエルフの村へと向かって歩いていた。
途中までは馬車だったが、巨人の通り道手前辺りからは私道のように細い道を通らねばならなかった為だ。とは言っても獣道のように鬱蒼とはしておらず、それなりに歩きやすい。ラティアが言うには、日が沈む頃には着くそうだ。
「くちん!くちょん!へ―――っぷし………!」
「風邪かい?」
「季節の変わり目だからなぁ。気ぃつけろよ」
そんな中、マリアーネがくしゃみを3連発。のほほんと構える馬鹿二人に、ぶるり、と彼女は身を震わせる。
「いえ、風邪というか、そういう感じではない悪寒が………!」
「オイ、先生。これはまさか………」
「うーん………くしゃみ3回。これはひょっとして………」
一誹り二笑い三惚れ四風邪、というくしゃみに関する諺が日本にはある。書いて字の如く、くしゃみ1回で誰かに誹られて、くしゃみ2回で笑われて、というもの。その3回目―――誰かに惚れられる。単なる呪いのようなものなのだが、一笑に付すにはこの世界は不思議が多すぎる。
そして今、マリアーネが置かれている状況で誰かに惚れられると言えば―――。
「やめてくださいまし!やめてくださいまし!口にすればフラグが立ってしまいますわ!!」
顔を覆っていやいやと首を振るマリアーネに、ジオグリフとレイターは遠い目をして何だか既に立ってそうだなぁと諦めにも似た感情が胸に去来した。
「貴方達、本当に仲が良いのね………」
そんな三馬鹿を羨ましそうに眺めているのはラティアだ。一行を先導しつつ、ちらりとこちらを見てそんな事を口にする彼女に、ジオグリフは頬を掻いて苦笑した。
「あー、うん、まぁ、幼馴染のようなものだからね」
「―――それが本当の貴方なの?ジオ」
流石に常時魔王モードは心にしんどいので通常状態に戻っているジオグリフであるが、ラティアは何だかちょっと寂しそうな表情をする。何故あの中二病全開の自分を気に入ったのか理解できないジオグリフではあるが、ここでの返答次第では好感度が最下層まで下落しかねないことぐらいは理解できた。
「いや、えっと、その………あれは時々出てくる裏人格とでも思って頂ければ………」
「裏人格………!そういうのもあるのね………!?もう一人の自分ね………!!」
数瞬迷った後で苦し紛れに出した回答が、しかしラティアに再び刺さったらしく、目をキラキラと輝かせてジオグリフを見つめている。その曇りのない眼に彼は前世以降、久しく感じていなかった胃痛を覚えて懐を弄るがこの世界に愛用していた
「それにしても、幼馴染………ですか………」
そんな一行の様子を見て、ぽつりと寂しそうに呟いたカズハの言葉を拾ったマリアーネがはっとする。ぴこーん!と豆電球でも頭に点けたその様子を鑑みるに、どうやらまた余計なことを思いついたらしい。
「―――ほら野郎共、先行って安全確保してきなさいな」
「何だよ藪から棒に」
「先に行くって、エルフの村の場所私達知らないんだけど?」
「い・い・か・ら・い・き・な・さ・い!」
彼女は唐突にジオグリフとレイターを斥候に出し、それを見送ってからラティアとカズハに向き直る。
「さてさて、これで女同士になりましたわね?」
手を合わせてそんな事を宣うマリアーネに、二人は緊張で身を硬くした。
彼女達の視点からしてみれば、自分達はマリアーネの男に寄ってくる悪い虫だと思ったのだ。これはその掣肘か、と勘ぐったのだが―――。
「最初に断っておきますけれど、私とあの馬鹿二人はそういう関係じゃありませんわよ?」
『え?』
しかし出てきたのはフリー宣言である。
まぁ確かに見ようによっては構成的に逆ハーレムみたいな状態ではあるが、中身が中身である。それは向こうも同じであろう。内実を知れば知るほど選択肢から除外される。
何が悲しくておっさん同士でくっつかにゃならんのだ、と言うのが三馬鹿の共通認識である。
「幼馴染というか同士というか兄弟というか………何かこう、妙に波長が合っているだけで男女の関係ではないですし、なり得ませんの。ぶっちゃけ趣味じゃないですし」
「そ、そうなのね………」
「そ、そうなんですか………」
露骨に安堵する二人に、マリアーネはニマニマと人の悪い笑みを浮かべる。
何しろ二人の反応と来たらエルフ耳を激しくぴこぴこさせ、普段はピンと立ってる狐耳をへにゃりとさせながらそわそわと尻尾が揺れているのだ。何とも初々しい反応に、今世の少女としての部分と前世のおっさんとしての部分が握手を交わして共同声明を出すぐらいには構いたくなる。
「その反応………脈アリと見てよろしいですわね?」
「わ、私は別にジオのことは、その………」
「はわわ………レ、レイター様のことは、その………」
「私、別にジオとレイのこととは言ってませんけど」
爽やかな笑みを浮かべてそんな事を宣うマリアーネに、カマかけられた!とラティアとカズハは顔を真っ赤にして「酷いです」とか「ずるい」とか苦情が飛び交う。しかしマリアーネは「まぁまぁお可愛いこと」と華麗にスルーして彼女達の耳元で囁く。
「だからぁ、私達ぃ、良いお友達になれると思いません?」
●
それから数十分後。
安全確保のついでに鹿と猪を狩ってきたジオグリフとレイターが見たものは、マリアーネを中心に仲良く手を繋ぐ三人の姿であった。
何故か急にさんばか!とでも丸っこいテロップが出て揃ってジャンプでもしそうなノリの三人に思わず突っ込んだジオグリフとレイターであるが、三人揃って笑顔で『ひみつー!』と返されては追求もできなかった。
「へぇ………これが帝都で流行ってる石鹸なのね………話には聞いていたけど、確かに花のいい香り………」
「この保湿はんどくりーむ?も良いものですね………炊事や洗濯をしているとどうしても手荒れが気になってしまって………」
「むふふふ。お二人共綺麗ですから、お手入れのしがいがありますわ~」
その後ちょっと開けた場所に出て、そこで休憩がてら昼食にする流れになった。
しかしマリアーネが調理や準備を野郎二人に強権振るって押し付けると、最近覚えた収納魔法から石鹸や化粧品の類を広げてきゃっきゃっとガールズトークを始めてしまったのだ。
「ねぇレイ」
「なぁ先生」
そんな姦しい様子を尻目に、馬鹿二人は顔を見合わせて。
『何かNTRフラグ立ってるかコレ?』
「馬鹿を言ってないでとっとと火起こししなさいな。お昼にするんでしょう?」
『はい………』
どうやら男女比が女性側に偏ると、野郎の肩身が途端に狭くなるのは異世界でも同じらしい。
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