第五話 三馬鹿の実力・レイターの場合

「―――全く、しょうがねぇなぁ」


 呆れ混じりの呟きと同時に魔力を纏ったレイターの思考と身体が加速する。棍棒片手に迫ってくる一匹のゴブリンに直蹴りを一発見舞って距離を離し、右手首に装着したバングルに魔力を通わせる。すると鈍色のバングルが淡い輝きを放って、軟体動物のように蠢いたかと思うと、即座に小剣へと形を変えた。


 それを手に、レイターは蹴り離したゴブリンへと肉薄。足裏に展開した魔力渦をバネのように弾かせた踏み込みの速度は、常人が認識できる速度ではない。そして振るわれる一刀も魔力による強化を行っている。何ら抵抗感すら無く、ゴブリンの首がスパンと斬り飛ぶ。


 レイターはその踏み込みの慣性を残したまま更に跳躍した。その際、閉所空間というのが彼に味方する。すぐさま天井へと行き着き、それがそのまま足場となる。ピンボールのように跳ね回り、すれ違いざまにゴブリン達の首を次々と落としていくその様は―――。


「エイ◯マンかサ◯ボーグ009かスク◯イドで世代が別れますわね」

「最近、こういうスピード能力特化のキャラってあんまり見ないよね」


 ジオグリフとマリアーネの感想を彷彿とさせた。


「どっちかって言うと格ゲーから思いついたんだけどな。昔はよくゲーセン通いしてたし」


 気づけば目につくゴブリン達を残らず首無し死体にしたレイターが、軽く呼吸を整えながら戻ってきた。手にした小剣が、再びバングルへと戻る。


「まぁ、だからこの遺物装具アーティファクトと相性がいいんだけどよ」

「いい武器ですわね。質量保存の法則をガン無視してますけど」

「魔力とかいうトンデモがある世界で物理法則考えてもなぁ。因みに師匠は魔力の関係でグレイブといくつかの武器しか使えなかったらしいが、俺はガキの頃に結構鍛えてたから思い通りに動かせるぞ。こんな風に」


 レイターが自慢気に言うと、バングルが再び光を放って刀になったり長剣になったり槍になったり弓になったりと自在に変形した。先程小剣を選択したのは、狭い洞窟内だからだ。


 聖武典リグ・ヴェーダ


 旧文明と思わしき遺跡型ダンジョンから、レイターの師であるガドが駆け出し冒険者時代に持ち帰ったものだ。一般的に、そうした遺跡産の武具は遺物装具アーティファクトと呼ばれる。


 聖武典が持つ特性は液体金属―――と思われる。というのも、元の持ち主であるガド自身、魔力を通せばグレイブになる便利な道具、としか認識していなかったからだ。これを譲り受けたレイターが色々こねくり回した結果、前世での液体金属のようなものだろうと判断した。通した魔力によって化学反応―――というのもおかしな表現だが―――を起こし、使用者の望む姿を取る。


 基本的に内気功のように魔力を身体能力に振るレイターに取っては、とてもありがたい武器であった。更に、少し変わった運用も出来る。


「後は、だ」


 レイターがもう一度魔力を通すと、バングルが光を放ってぽとりと落ちた。地面でなにやらグネグネ動いたかと思えば。


「あらかわいい」

「おぉ、何とSFちっくな!素晴らしい!!」


 指先サイズに小さくデフェルメされたメタリックな蜘蛛へと姿を変えた。ハエトリグモのような見た目のそれは、前足をフリフリとこちらに振って挨拶している。マリアーネはちんまい姿にそんな感想漏らし、ジオグリフに至ってはタチ◯マ!タ◯コマじゃないかコレ―――!と大興奮している。SFオタは面倒くさいのだ。


「斥候代わりだな。ちょっとやそっとじゃ壊れないし、壊れても液体に戻るだけだから、魔力を辿って使用者の元に帰ってくる」


 どうやら意識が繋がっているらしく、彼等の前世で言うドローンのような運用が可能とのことだ。クモが洞窟の奥へと走っていきレイターが目を瞑って意識を集中していると、視界が切り替わる。


 クモの視点だ。


 しばらくそのまま進んでいくと、少し大きな広間へと出た。その先に、何体かのゴブリン。それから―――。


「ふむ。奥にトロール1匹とその他大勢って所か。ここ、ゴブリンだけじゃなかったのか」

「乗っ取ったのか用心棒かは分からないけれど、トロールかぁ。普通の駆け出しなら詰んでたね」

「じゃぁ、後は私が片付けてもよろしいですわね?」

「どうぞ」

「姫の好きなようにしな」


 にまにま笑うマリアーネが名乗りを上げると、二人は肩を竦めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る