第28話 黄金色のドレス

「メアリーなら喜ぶわ。紹介してあげてもいいのに」

 リリィがマットのたくましい背中を見ながら言った。メアリーは社交好きなのだ。〈兵舎〉にはトルナドーレ兄弟以外に知り合いがいないはずだから、マットを取り巻きの一人にできたらさぞ嬉しがることだろう。だが、アレックスはとりつく島もない。


「社交界の中だったら、火遊びも安全だ。だが、宮廷の外に出て、それ以上の刺激を求めてはいけない」


「本気でおっしゃっているの、お兄さま?」リリィが思わず言った。「メアリーがお兄さまの言うことを聞くかしら?」


「聞かないだろうね。だけど、黙って見てられない。もし何かあったら一生ものだ」


 アレックスもリリィもメアリーの激しい気性を知りすぎていた。メアリーが望むなら、マットは必ずのうちの一人になるだろう。


「マットは良い人に見えたわ。問題はマットじゃない。メアリーの性格でしょう?」


 アレックスは苦笑いした。

黄金色こがねいろのドレスのこと、覚えているか。テディア卿夫人の身につけていたガウンだよ。メアリーが欲しがっていた。そっくり同じものを着てきたときは驚いたよ。メアリーってそういう子だ」


 リリィは微笑んで兄を見つめた。ジュリア・テディアがメアリーにドレスの型を送ってやったのだ。

「驚くわね。ああいう性格でも崇拝者が絶えないのは。お世辞にも心優しいなんて言えないでしょ。ジョンもマティアスはメアリーの我慢ならない気性を知りすぎるくらい知っているのに、恋人になろうとしている」


「それだけじゃないのさ。メアリーってやり手だよ。頭がきれる。美人だし」

 アレックスがほがらかな口調で言う。


「メアリーって、私の嫁入りについてくるって言うけれど、王や将軍の妻になった方がいいわ。実際、そうなるような気がするの」

 

 アレックスが怪訝けげんな顔をしてかぶりを振った。

「メアリーが王妃になったら国が滅ぶよ」


「それか繁栄するかも。私、求婚者が王だろうが皇帝だろうが、一文無しの騎士だろうが、メアリーは手放すつもりよ。彼女が独身を貫くなんて、世界中の男性方の大いなる損失だもの」

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